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450.類の嫉妬

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「美羽、もう帰っていいぞ」
「はい」

 隼斗にカウンター越しに声をかけられ、美羽は息を吐き出した。

 つ、疲れた……

 ディナータイムでは厨房が4人、ホールが3人いたので仕事的にはスムーズだったが、龍也がいることを意識しすぎてしまい、精神的に疲れてしまった。

 上がり作業に取り掛かろうとすると、背中越しに隼斗の声が聞こえてきた。

「類、お前も上がれ。浩平と龍也に上がり作業してもらうから、美羽を送ってやってくれないか」
「はーい」

 帰りは、類とふたりで帰れる……

 香織に罪悪感を抱きつつも、嬉しく思ってしまう気持ちは止められない。

「美羽、おつかれ」
「美羽たん、おつかれたーん」
「お先です」

 香織と萌に声をかけられ、カウンター越しに隼斗と龍也にも挨拶する。

「お先に失礼します」
「おぉ」
「お疲れさん。また明日な」

 龍也にじっと見つめられ、落ち着かない気持ちでフロアを去った。

 助手席のドアを閉めると、今まで張り詰めていた緊張が一気に解けていく。

「フフッ、疲れた?」

 類に笑みを溢され、美羽は少し顔を赤らめた。

「う、ん……類は今日、どうだった? 龍也さんと、うまくやれそう?」
「あの人、好きじゃないけど、仕事はできるから楽」

 車を発進させながら、類が答える。

 類、龍也さんのこと好きじゃないんだ。
 確かに、あまり気が合いそうな感じはしないけど……

「だって、僕の知らないミューを知ってるんだよ。気分いいわけないじゃん」

 類が唇を尖らせる。龍也を好きじゃない理由が、嫉妬からだと知って、美羽の頬が緩んだ。

「ねぇ、あいつとはどんな関係だったの?」
「どんなって……ただの、昔の同僚だよ」
「ほんとに? 言い寄られたりしてない?」
「するわけないよ!」

 美羽は強く否定した。

 それどころか、嫌味言われたり、からかわれたりして、嫌われてるのかもって思ったぐらいなのに。あとで、それは龍也さんの性格なんだって分かったけど。

「私は龍也さんとはあまり関わらなかったし、龍也さんは、いつも隼斗兄さんと絵麻さんと一緒にいたから」
「絵麻って?」

 そっか、類は絵麻さんのこと知らないんだ。

「隼斗兄さんが、以前付き合ってた彼女。すごく綺麗で、頼り甲斐があって、面倒見がよくて……お姉さんみたいに思ってたの」
「へぇ、あの人彼女いたんだ」
「うん。とてもお似合いで、憧れのカップルだったのに……別れちゃうなんて思わなかった」

 ほんとに、どうしてふたりは……

 そう考えていると、類にムニと軽く頬を摘まれた。

「僕といる時に、他の男のこと考えないで」

「なっ。類が、聞いてきたんじゃない。それに、他の男って……隼斗兄さんだよ?」

 それに、考えてたのは隼斗兄さんじゃなくて、絵麻さんのことなのに。

「知ってる」
「それに、絵麻さんと付き合ってたって言ったじゃない」
「うん、聞いた。でも、それは昔の話で、今はもう別れてるんでしょ」
「……」

 類はまだ、私が隼斗兄さんとホテルで一夜を過ごした時のことを引き摺ってるのかな。私たちに、何かあるはずないのに。

 類の嫉妬を感じて嬉しく思う反面、今日の類の言動を思い出して美羽は憤りを感じた。

 そんなの、矛盾してる。

「類、なんて……みんなの前で、『僕の彼女に手ぇ出さないでもらえます?』って言ったくせに」

 香織の名前を出したくなくて、そんな言い方をした。

 横から見る類の表情が、サッと固くなった。急にハンドルを切り、美羽の躰が大きく右に揺さぶられる。

「ッッ……類!?」
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