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425.支配する者
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類が、ギュッと強く美羽を抱き締める。美羽の下顎を掴み、グイと自分にむかせ、瞳を近付ける。
「ミュー、ミュー、ダメだ!!
僕を見て!! 僕を、僕を見てよ!!
あいつのトラウマに囚われないで!!」
「ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
美羽の躰が小刻みに痙攣する。手錠がガチャガチャと揺さぶられる。口元から泡が吹き出す。視線が、虚ろになっていく。
ツミ……ケッシテ、ユルサレナイ ツミ。
ワタシハ ツミニ ヨゴレテル
オトウトヲ アイスルノハ ツミ……
「ッフゥゥゥ!! ハァッ、ハッハッッ……ッッ!!」
「ミュー、ミュー……ッッグ」
全身を震わせた類の魂からの叫びが、美羽の胸に強く響き渡る。
ミューの行動に、感情なんて伴わない! 心なんて、そこにない!
ミューは、被害者なんだ!!
ミューはただ、僕に脅されてるだけ。
だから、ミューは罪の意識なんて感じなくていい。
何も、考えないで!
ただ僕に従うだけで、いいんだ!!
「戻って、戻ってきて……ミューッッグ
ミューは、悪く、ないっっ!
全て、僕のせいなんだ……」
「ハッハッ、ハッ、ハッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…ハァッ……」
抱きしめられている美羽の荒い呼吸が、少しずつ穏やかさを取り戻していく。
ナニも、カンガエナイ。
タダ、ルイにシタガウ、ダケ。
カンジョウを、ステル。
これは、愛なんかじゃない。
姉弟として、慈しみ合い、求め合い、愛し合うんじゃない。
搾取するものと、搾取されるもの。
脅迫者と被害者の関係なんだ。
感情なんて、そこにはない。
ただ、躰を捧げ、貪られるのみ……
美羽の躰の震えが、少しずつ収まっていく。焦点の合わない瞳が類を見つめている。
類は美羽を抱き締めながら、ポロポロと涙を流した。
「ッッ……ウッ……可哀想な、ミュー。
こんな風にしか、僕に抱かれることができない。
憐れで、愛しい、僕のミュー……」
類の熱に、美羽の中の華江の声が、姿が溶かされていく。
罪の意識が、溶かされていく。
胸奥に潜んでいたもうひとりの自分が覚醒し、起き上がる。
類。私はあなたなど、愛していない。
ただ脅されて、身を任せるだけ。
そこに、心なんて……
「るぃ、っ……」
視界が定まった美羽の右の瞳から、涙が零れ落ちる。覚悟を持った類の唇が、美羽の唇に静かに落とされた。
「僕たちの関係……香織にも、誰にも知られたくないでしょ?」
「ぅ、ん……」
「もしミューが僕から逃げ出したら、誰かに助けを求めたら……あの、監視カメラの映像をみんなに晒すから」
「ッッ……」
類が肩を震わせる美羽の頬を撫で、唇の輪郭を辿る。
「だから、ミューは僕に逆らえない」
「うん」
「ミューは僕の……ック恋人、じゃない。下僕だよ」
「は、い……」
「……命令は、絶対だから」
「はい」
安堵したような微笑みを浮かべる美羽に、類の背中がゾクッと震えた。
そう。いつだって……君を支配するのは、僕じゃない。
君が、僕を支配するんだ。
「これ、外してあげるね……」
もう、逃げることもないだろうから。
ポケットから鍵を取り出し、手錠の穴に差し込むと解錠する。美羽の両方の手首は引っ張った後で赤くなり、皮が擦り剥けていた。
「痛かったね……」
「ぁっ!」
手首の傷をペロッと舐めとると、美羽がピクッと震えた。
「痛い? それとも……気持ちいい?」
覗き込んだ類の瞳が、同じダークブラウンの猫目の瞳と混じり合う。
「痛い。
でも、痛くして……ほしい」
類の胸が、ズキンと痛む。
優しく、したいのに。優しくできない。
ミューは、痛みを受けることで、自分の犯した罪を受け止めようとしてるんだ。
「僕に、全てを委ねて。
痛みが、快感に変わるまで……してあげる」
擦り剥けた皮に、舌を差し入れる。
「ック!」
痛みで、美羽が顔を歪めた。
優しくなんて、しなくていい。
だって、これは感情を伴わないもの。
もっと、もっと痛くしていいの……
そうして、何もかも忘れさせて。
美しく綺麗な記憶も、醜い闇に塗れた感情も。
「ミュー、ミュー、ダメだ!!
僕を見て!! 僕を、僕を見てよ!!
あいつのトラウマに囚われないで!!」
「ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
美羽の躰が小刻みに痙攣する。手錠がガチャガチャと揺さぶられる。口元から泡が吹き出す。視線が、虚ろになっていく。
ツミ……ケッシテ、ユルサレナイ ツミ。
ワタシハ ツミニ ヨゴレテル
オトウトヲ アイスルノハ ツミ……
「ッフゥゥゥ!! ハァッ、ハッハッッ……ッッ!!」
「ミュー、ミュー……ッッグ」
全身を震わせた類の魂からの叫びが、美羽の胸に強く響き渡る。
ミューの行動に、感情なんて伴わない! 心なんて、そこにない!
ミューは、被害者なんだ!!
ミューはただ、僕に脅されてるだけ。
だから、ミューは罪の意識なんて感じなくていい。
何も、考えないで!
ただ僕に従うだけで、いいんだ!!
「戻って、戻ってきて……ミューッッグ
ミューは、悪く、ないっっ!
全て、僕のせいなんだ……」
「ハッハッ、ハッ、ハッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…ハァッ……」
抱きしめられている美羽の荒い呼吸が、少しずつ穏やかさを取り戻していく。
ナニも、カンガエナイ。
タダ、ルイにシタガウ、ダケ。
カンジョウを、ステル。
これは、愛なんかじゃない。
姉弟として、慈しみ合い、求め合い、愛し合うんじゃない。
搾取するものと、搾取されるもの。
脅迫者と被害者の関係なんだ。
感情なんて、そこにはない。
ただ、躰を捧げ、貪られるのみ……
美羽の躰の震えが、少しずつ収まっていく。焦点の合わない瞳が類を見つめている。
類は美羽を抱き締めながら、ポロポロと涙を流した。
「ッッ……ウッ……可哀想な、ミュー。
こんな風にしか、僕に抱かれることができない。
憐れで、愛しい、僕のミュー……」
類の熱に、美羽の中の華江の声が、姿が溶かされていく。
罪の意識が、溶かされていく。
胸奥に潜んでいたもうひとりの自分が覚醒し、起き上がる。
類。私はあなたなど、愛していない。
ただ脅されて、身を任せるだけ。
そこに、心なんて……
「るぃ、っ……」
視界が定まった美羽の右の瞳から、涙が零れ落ちる。覚悟を持った類の唇が、美羽の唇に静かに落とされた。
「僕たちの関係……香織にも、誰にも知られたくないでしょ?」
「ぅ、ん……」
「もしミューが僕から逃げ出したら、誰かに助けを求めたら……あの、監視カメラの映像をみんなに晒すから」
「ッッ……」
類が肩を震わせる美羽の頬を撫で、唇の輪郭を辿る。
「だから、ミューは僕に逆らえない」
「うん」
「ミューは僕の……ック恋人、じゃない。下僕だよ」
「は、い……」
「……命令は、絶対だから」
「はい」
安堵したような微笑みを浮かべる美羽に、類の背中がゾクッと震えた。
そう。いつだって……君を支配するのは、僕じゃない。
君が、僕を支配するんだ。
「これ、外してあげるね……」
もう、逃げることもないだろうから。
ポケットから鍵を取り出し、手錠の穴に差し込むと解錠する。美羽の両方の手首は引っ張った後で赤くなり、皮が擦り剥けていた。
「痛かったね……」
「ぁっ!」
手首の傷をペロッと舐めとると、美羽がピクッと震えた。
「痛い? それとも……気持ちいい?」
覗き込んだ類の瞳が、同じダークブラウンの猫目の瞳と混じり合う。
「痛い。
でも、痛くして……ほしい」
類の胸が、ズキンと痛む。
優しく、したいのに。優しくできない。
ミューは、痛みを受けることで、自分の犯した罪を受け止めようとしてるんだ。
「僕に、全てを委ねて。
痛みが、快感に変わるまで……してあげる」
擦り剥けた皮に、舌を差し入れる。
「ック!」
痛みで、美羽が顔を歪めた。
優しくなんて、しなくていい。
だって、これは感情を伴わないもの。
もっと、もっと痛くしていいの……
そうして、何もかも忘れさせて。
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