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424.消せないトラウマ
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類の手から、電気マッサージ器が転がり落ちた。
美羽を抱き締めて胸元に頬を擦り寄せ、顔を上げた。先ほどまで肉食獣のようだった鋭い瞳が、今は怯えた子猫のように美羽の瞳を覗き込んでいる。
「ミュー……
僕を、憎んでる?」
美羽の感情など、心などどうでもいいと言いながら、不安そうに尋ねる類に、心が波風を立てる。
ドウシテ、ソンナコトキケルノ?
美羽の胸が掻っ切られるように、熱くなる。
「……憎い。類の悪魔のような心臓を抉り出して、焼いて、切り刻みたいぐらいに、憎いよ……」
躰を細かく震わせ、手錠で繋がれた拳を震わす。
「でも、類を憎みきれない自分もいる。こんな風に屈辱的に愛されても、悦びを感じてしまう、醜くて穢らわしくて、卑しい自分がいる。
分からない。分からない……自分の感情が。自分でも分からなくて、怖い……ッグ」
歯を小刻みにガチガチと鳴らし、美羽は激しく震えた。
「かおりんにすべてを打ち明ければいいって分かってるのに、もうかおりんとの友情は終わっているのに、私はまだそれをなんとか必死に取り繕うとしてる。心の中では、類とのことに嫉妬して、怒って、憎んで、恨んで……真っ黒な感情に支配されてるのに。
そんな風にさせた、類が憎くて憎くて、仕方ないのに……それでも、ッッ類が、ほしいなんて……ッッ
これは、罪なのにっっ!!」
叫んだ美羽の頬を撫で、類は力なくその手を下ろした。まるで、自分が苦しまされているかのような、辛い表情で。
「ごめん。ごめんね、ミュー……
それでも、ミューがほしいんだ。ごめんね」
だが、類の言葉は美羽の耳には、心には、届いてなかった。
美羽の心が、急速に冷えていく。
ーー『これは、罪』
そう、類を愛することは『罪』。
躰を重ねることなんて、できない。
考えた途端、ドクンと心臓が震えて凍りついた。
ーークリスマス・イブの記憶が蘇る。
類に迫られ、情熱的な口づけを受け止めたあの夜。
『美羽を、抱く』
そう宣言されて、美羽の頑なだった心が崩された。
類の熱情に蕩かされ、快感で脳髄が震えた。
『ミューは僕の、僕だけのもの……ねぇ、そうでしょ?
拒絶なんて、許さない。
僕を。僕だけを、愛してよ!!』
必死で愛を乞う類を拒絶することなんて、出来なかった。苦しむ類を見捨てられなかった。救いたかった。愛したかった。
背徳の罪も、世間の目も関係ない。類を愛する、そのことだけしか考えていなかった。
けれど、類を受け入れると決めた時……過去の記憶が刃を剥いて、美羽を襲ったのだった。
逃れることのできない、母親からの洗脳。それは、美羽を無理やり現実の世界へと引き戻し、縛りつけ、痛めつける。
姉弟の恋愛など許されない、認められないのだと、ギリギリと全神経に刻み付けられた。
美羽は……類の愛を、受け止めることができなかった。
狂乱し、パニックを起こし、挙句……類を、突き飛ばした。
そして、類から逃げたのだ。
また、あんなことが起こったら……
喉を締め付けられるような恐怖が、美羽にのし掛かってくる。
やっぱり、無理だよ。
類と交わることなんて、できない。
過去の呪縛から逃れることなんて、できない。
お母さんの魔の手から抜け出して、断ち切ることなんて……できないんだ。
『あなたたちは狂ってる……そんなの、ケダモノのやることよ!!』
華江の声が、脳全体にこだまする。鬼のような形相で蔑んだ、母の表情が浮かび上がる。
「ハァッ……ハァッ、ハァッ……ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!!」
過呼吸になり、脳が真っ白になっていく。全身が冷たくて、熱くて、震える。視界がチカチカと点滅しながら、強く大きな耳鳴りが心臓をビリビリと震わせる。
ごめん、ごめんなさい……お母さんっっ!!
ゴメンナサイ……
美羽を抱き締めて胸元に頬を擦り寄せ、顔を上げた。先ほどまで肉食獣のようだった鋭い瞳が、今は怯えた子猫のように美羽の瞳を覗き込んでいる。
「ミュー……
僕を、憎んでる?」
美羽の感情など、心などどうでもいいと言いながら、不安そうに尋ねる類に、心が波風を立てる。
ドウシテ、ソンナコトキケルノ?
美羽の胸が掻っ切られるように、熱くなる。
「……憎い。類の悪魔のような心臓を抉り出して、焼いて、切り刻みたいぐらいに、憎いよ……」
躰を細かく震わせ、手錠で繋がれた拳を震わす。
「でも、類を憎みきれない自分もいる。こんな風に屈辱的に愛されても、悦びを感じてしまう、醜くて穢らわしくて、卑しい自分がいる。
分からない。分からない……自分の感情が。自分でも分からなくて、怖い……ッグ」
歯を小刻みにガチガチと鳴らし、美羽は激しく震えた。
「かおりんにすべてを打ち明ければいいって分かってるのに、もうかおりんとの友情は終わっているのに、私はまだそれをなんとか必死に取り繕うとしてる。心の中では、類とのことに嫉妬して、怒って、憎んで、恨んで……真っ黒な感情に支配されてるのに。
そんな風にさせた、類が憎くて憎くて、仕方ないのに……それでも、ッッ類が、ほしいなんて……ッッ
これは、罪なのにっっ!!」
叫んだ美羽の頬を撫で、類は力なくその手を下ろした。まるで、自分が苦しまされているかのような、辛い表情で。
「ごめん。ごめんね、ミュー……
それでも、ミューがほしいんだ。ごめんね」
だが、類の言葉は美羽の耳には、心には、届いてなかった。
美羽の心が、急速に冷えていく。
ーー『これは、罪』
そう、類を愛することは『罪』。
躰を重ねることなんて、できない。
考えた途端、ドクンと心臓が震えて凍りついた。
ーークリスマス・イブの記憶が蘇る。
類に迫られ、情熱的な口づけを受け止めたあの夜。
『美羽を、抱く』
そう宣言されて、美羽の頑なだった心が崩された。
類の熱情に蕩かされ、快感で脳髄が震えた。
『ミューは僕の、僕だけのもの……ねぇ、そうでしょ?
拒絶なんて、許さない。
僕を。僕だけを、愛してよ!!』
必死で愛を乞う類を拒絶することなんて、出来なかった。苦しむ類を見捨てられなかった。救いたかった。愛したかった。
背徳の罪も、世間の目も関係ない。類を愛する、そのことだけしか考えていなかった。
けれど、類を受け入れると決めた時……過去の記憶が刃を剥いて、美羽を襲ったのだった。
逃れることのできない、母親からの洗脳。それは、美羽を無理やり現実の世界へと引き戻し、縛りつけ、痛めつける。
姉弟の恋愛など許されない、認められないのだと、ギリギリと全神経に刻み付けられた。
美羽は……類の愛を、受け止めることができなかった。
狂乱し、パニックを起こし、挙句……類を、突き飛ばした。
そして、類から逃げたのだ。
また、あんなことが起こったら……
喉を締め付けられるような恐怖が、美羽にのし掛かってくる。
やっぱり、無理だよ。
類と交わることなんて、できない。
過去の呪縛から逃れることなんて、できない。
お母さんの魔の手から抜け出して、断ち切ることなんて……できないんだ。
『あなたたちは狂ってる……そんなの、ケダモノのやることよ!!』
華江の声が、脳全体にこだまする。鬼のような形相で蔑んだ、母の表情が浮かび上がる。
「ハァッ……ハァッ、ハァッ……ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!!」
過呼吸になり、脳が真っ白になっていく。全身が冷たくて、熱くて、震える。視界がチカチカと点滅しながら、強く大きな耳鳴りが心臓をビリビリと震わせる。
ごめん、ごめんなさい……お母さんっっ!!
ゴメンナサイ……
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