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408.貴方が好きなのは、私だけ
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家に帰ると、玄関に類の靴が置かれていた。義昭も帰ってきている。
思ったより、長くなっちゃった……
圭子とのやりとりで疲れていた美羽は、一刻も早くシャワーを浴びて眠りたかった。キッチンを覗くと、既に義昭は夕食を済ませたらしく、食器がシンクに置かれている。
いつもならすぐに食器を洗って片付けるのだが、今日はそんな気になれなかった。
明日の朝早く起きてやれば、いいよね。
ダイニングにも、リビングにも、類と義昭の姿が見えない。それぞれ、自室で過ごしているのだろう。
良かった。今日は、誰の顔も見ないで済む。
ホッと安堵の息を吐き、リビングの扉を閉める。だが、自分の部屋へと向かおうと階段に足を掛けた時、足音が追いかけてきた。
「おかえり」
振り返ると、類だった。
「今日は遅かったね」
余裕があるように見せているが、焦燥が垣間見えた。
類、心配してくれてたの?
嬉しくなると同時に、いつも自分が帰りの遅い類をどんな気持ちで待ち侘びているのか知らしめたいという思いに駆られる。
「まぁね。ちょっと……人と、会ってて」
「誰?」
「類の知らない人だよ」
圭子に会ったのは誰にも秘密なので言えないが、類に意味ありげな、意地悪な言い方をしてしまいたくなる。
自分が苦しめられた分、少しでも類を苦しめ、嫉妬してほしかった。
途端に、類の表情が急に冷たいものへと変わった。
「男?
もしかして、隼斗兄さんと会ってたの?」
鋭い眼光にビクッとしつつ、美羽は視線を逸らした。
「そんなこと、類には関係ないでしょ!」
くるりと背を向け、階段を駆け上がり、部屋に入ると扉をバタンと閉める。
類は、追いかけてくることはなかった。
首元へと手を伸ばし、鎖を引き上げる。その先についている、南京錠を握り締めた。
類に対してあんな態度をとってしまったことに、少しの痛みを感じつつも、それを上回るほどの優越感が広がっていく。
今頃類は、私が誰と会っていたのか考えて、嫉妬に怒り狂ってるかな。
心配で、不安で堪らず、私のことで頭がいっぱいになってるかな。
思い知ればいい。類が、どれだけ私を好きで堪らないか。
狂おしいほど、愛しているのかを。
どうか思い出して。
貴方が好きなのは私だけ。類は、私だけ見てればいいの。
冷たくなった美羽の態度に焦り、気持ちを取り戻そうとして、香織と別れてくれればいい。
また以前のように、自分だけを見て、自分だけを考えて、自分だけを愛して欲しい。
胸の上で南京錠を握っている手に、もう片方の手を重ね、祈りを込めるかのようにギュッと抱き締める。
そうして、暫く扉の前で佇んでいた。
思ったより、長くなっちゃった……
圭子とのやりとりで疲れていた美羽は、一刻も早くシャワーを浴びて眠りたかった。キッチンを覗くと、既に義昭は夕食を済ませたらしく、食器がシンクに置かれている。
いつもならすぐに食器を洗って片付けるのだが、今日はそんな気になれなかった。
明日の朝早く起きてやれば、いいよね。
ダイニングにも、リビングにも、類と義昭の姿が見えない。それぞれ、自室で過ごしているのだろう。
良かった。今日は、誰の顔も見ないで済む。
ホッと安堵の息を吐き、リビングの扉を閉める。だが、自分の部屋へと向かおうと階段に足を掛けた時、足音が追いかけてきた。
「おかえり」
振り返ると、類だった。
「今日は遅かったね」
余裕があるように見せているが、焦燥が垣間見えた。
類、心配してくれてたの?
嬉しくなると同時に、いつも自分が帰りの遅い類をどんな気持ちで待ち侘びているのか知らしめたいという思いに駆られる。
「まぁね。ちょっと……人と、会ってて」
「誰?」
「類の知らない人だよ」
圭子に会ったのは誰にも秘密なので言えないが、類に意味ありげな、意地悪な言い方をしてしまいたくなる。
自分が苦しめられた分、少しでも類を苦しめ、嫉妬してほしかった。
途端に、類の表情が急に冷たいものへと変わった。
「男?
もしかして、隼斗兄さんと会ってたの?」
鋭い眼光にビクッとしつつ、美羽は視線を逸らした。
「そんなこと、類には関係ないでしょ!」
くるりと背を向け、階段を駆け上がり、部屋に入ると扉をバタンと閉める。
類は、追いかけてくることはなかった。
首元へと手を伸ばし、鎖を引き上げる。その先についている、南京錠を握り締めた。
類に対してあんな態度をとってしまったことに、少しの痛みを感じつつも、それを上回るほどの優越感が広がっていく。
今頃類は、私が誰と会っていたのか考えて、嫉妬に怒り狂ってるかな。
心配で、不安で堪らず、私のことで頭がいっぱいになってるかな。
思い知ればいい。類が、どれだけ私を好きで堪らないか。
狂おしいほど、愛しているのかを。
どうか思い出して。
貴方が好きなのは私だけ。類は、私だけ見てればいいの。
冷たくなった美羽の態度に焦り、気持ちを取り戻そうとして、香織と別れてくれればいい。
また以前のように、自分だけを見て、自分だけを考えて、自分だけを愛して欲しい。
胸の上で南京錠を握っている手に、もう片方の手を重ね、祈りを込めるかのようにギュッと抱き締める。
そうして、暫く扉の前で佇んでいた。
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