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407.渡した金
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喫茶店を出てからコンビニへと向かう道すがら、美羽は気にかかっていたことを口に出した。
「今日、ほのちゃんはどうしてるんですか?」
美羽の仕事が終わってから会っているので、もう既に遅い時間だ。しかも、琴子はシニアホームに引越してしまったので、誰が面倒を見ているのか疑問に思ったのだ。
「あぁ。今日は同窓会があるからってことで、お母さんに頼んで来てもらったの」
圭子は嘘を吐いたことになんの罪悪感も見せず、ケロリとした顔で答えた。
圭子はこうして、日常的に嘘を重ねて暮らしているのだろうか。もしかしたら、今日、美羽に話したことの中にも、嘘が含まれているかもしれない。
「お義母さん、お元気でした?」
「もう元気も元気。あっちの暮らしがめちゃめちゃ気に入ってるみたいで、今日は友達と一緒に社交ダンスをするはずだったのにって、文句言われたわよ。まぁでも、ほのかの顔見た途端にメロメロになってたけどね」
シニアホームで友達に囲まれ、充実した生活を過ごしている琴子の現状を聞くと、どうしても大作のことが思い出される。
「あの、圭子さんって……あれから、実家に顔を出しました?」
美羽が大作の家を訪れた後、彼から一度電話があった。味噌汁の作り方を教えてほしいと聞いてきたのだった。その場で答えて電話を切ったものの、大作がうまく家のことをしているのか気になっていた。
だが、類と香織のことで精神的にまいっていた美羽は、大作の家を訪問して世話を焼く気力がないまま、今日まで過ごしていた。そのことに、罪悪感を抱えていた。
父親を忌み嫌っている圭子が大作を心配して実家を訪ねるなど、お金が絡まない限りありえないだろうが、もし万が一にでも孫の顔を見せて元気付けようとでもしていたなら、美羽の気持ちが少しでも楽になる。そんな、僅かな希望を抱いていた。
「えっ、父さんとこ? 行くわけないでしょ! 連絡すら、してないわよ。
家に行ったら怒って文句言われるだけだし、お金だって貸してくれるはずないし、あんな人会いに行くだけ時間の無駄よ」
やっぱり……
圭子のことを酷い娘だと思いながらも、自分だって彼女を非難する権利などない。
大作の心配をしながらも、何もしていない。そんな罪の意識を圭子に軽くしてもらいたいという、狡い思いがあった。
『ほんと、ミューって呆れるぐらい自分勝手で偽善者だよね』
類の言葉が、脳裏に蘇る。
分かってる。分かってるよ、類……
もうこの時間では、銀行は開いていない。そこで、近くのコンビニに寄ろうとしたのだが、圭子に強く引き止められた。
「ここだと、20万までしか引き出せないのよ。駅の向こう側にあるコンビニのATMなら50万まで下ろせるから、そこに行きましょ!」
圭子に腕を取られ、なかば強引に連れて行かれる。どこまで図々しいのだと呆れつつも、反論する気力もなかった。
ATMでお金を下ろす時にも、圭子は美羽のすぐ横に立とうとした。パスワードを知られるとまずいので、さすがにそこは後ろに下がって待ってもらったが、背後から舐めるような視線で見られ、落ち着かなかった。
コンビニを出て、封筒に入れた50万円を圭子に手渡す。念書は書かせていない。
「ありがとう!! 本当にありがとう!!」
奪うように受け取った圭子は早速封筒を開いて中身を確認すると、ウキウキした様子でブランドバッグの奥へと捻じ込んだ。
美羽が念押しする。
「約束……ちゃんと守って下さいね」
「分かってるわよ! じゃあね!!」
圭子は踵を返し、逃げ去るように帰っていった。
美羽には、圭子に渡したお金が二度と自分の手元に戻ってくることはないことが分かっていた。
だが、これを機に圭子が心を入れ替え、晃とほのかと3人で平和な生活をしてくれるのなら、それをお金で買えることが出来たのなら、安いものだ。
圭子さん……大丈夫かな。
不安はあるが、今は圭子を信じるしかない。
もし次に圭子がお金の無心に来た時には……琴子に相談した上で、晃との話し合いの場を設けることになるだろう。
その時には、義昭にも話をしなければならない。
その日が来るのはそれほど遠い未来ではない気がして、心がズシリと重くなる。
そんな心と躰を引き摺るようにして、美羽は家路へと向かった。
「今日、ほのちゃんはどうしてるんですか?」
美羽の仕事が終わってから会っているので、もう既に遅い時間だ。しかも、琴子はシニアホームに引越してしまったので、誰が面倒を見ているのか疑問に思ったのだ。
「あぁ。今日は同窓会があるからってことで、お母さんに頼んで来てもらったの」
圭子は嘘を吐いたことになんの罪悪感も見せず、ケロリとした顔で答えた。
圭子はこうして、日常的に嘘を重ねて暮らしているのだろうか。もしかしたら、今日、美羽に話したことの中にも、嘘が含まれているかもしれない。
「お義母さん、お元気でした?」
「もう元気も元気。あっちの暮らしがめちゃめちゃ気に入ってるみたいで、今日は友達と一緒に社交ダンスをするはずだったのにって、文句言われたわよ。まぁでも、ほのかの顔見た途端にメロメロになってたけどね」
シニアホームで友達に囲まれ、充実した生活を過ごしている琴子の現状を聞くと、どうしても大作のことが思い出される。
「あの、圭子さんって……あれから、実家に顔を出しました?」
美羽が大作の家を訪れた後、彼から一度電話があった。味噌汁の作り方を教えてほしいと聞いてきたのだった。その場で答えて電話を切ったものの、大作がうまく家のことをしているのか気になっていた。
だが、類と香織のことで精神的にまいっていた美羽は、大作の家を訪問して世話を焼く気力がないまま、今日まで過ごしていた。そのことに、罪悪感を抱えていた。
父親を忌み嫌っている圭子が大作を心配して実家を訪ねるなど、お金が絡まない限りありえないだろうが、もし万が一にでも孫の顔を見せて元気付けようとでもしていたなら、美羽の気持ちが少しでも楽になる。そんな、僅かな希望を抱いていた。
「えっ、父さんとこ? 行くわけないでしょ! 連絡すら、してないわよ。
家に行ったら怒って文句言われるだけだし、お金だって貸してくれるはずないし、あんな人会いに行くだけ時間の無駄よ」
やっぱり……
圭子のことを酷い娘だと思いながらも、自分だって彼女を非難する権利などない。
大作の心配をしながらも、何もしていない。そんな罪の意識を圭子に軽くしてもらいたいという、狡い思いがあった。
『ほんと、ミューって呆れるぐらい自分勝手で偽善者だよね』
類の言葉が、脳裏に蘇る。
分かってる。分かってるよ、類……
もうこの時間では、銀行は開いていない。そこで、近くのコンビニに寄ろうとしたのだが、圭子に強く引き止められた。
「ここだと、20万までしか引き出せないのよ。駅の向こう側にあるコンビニのATMなら50万まで下ろせるから、そこに行きましょ!」
圭子に腕を取られ、なかば強引に連れて行かれる。どこまで図々しいのだと呆れつつも、反論する気力もなかった。
ATMでお金を下ろす時にも、圭子は美羽のすぐ横に立とうとした。パスワードを知られるとまずいので、さすがにそこは後ろに下がって待ってもらったが、背後から舐めるような視線で見られ、落ち着かなかった。
コンビニを出て、封筒に入れた50万円を圭子に手渡す。念書は書かせていない。
「ありがとう!! 本当にありがとう!!」
奪うように受け取った圭子は早速封筒を開いて中身を確認すると、ウキウキした様子でブランドバッグの奥へと捻じ込んだ。
美羽が念押しする。
「約束……ちゃんと守って下さいね」
「分かってるわよ! じゃあね!!」
圭子は踵を返し、逃げ去るように帰っていった。
美羽には、圭子に渡したお金が二度と自分の手元に戻ってくることはないことが分かっていた。
だが、これを機に圭子が心を入れ替え、晃とほのかと3人で平和な生活をしてくれるのなら、それをお金で買えることが出来たのなら、安いものだ。
圭子さん……大丈夫かな。
不安はあるが、今は圭子を信じるしかない。
もし次に圭子がお金の無心に来た時には……琴子に相談した上で、晃との話し合いの場を設けることになるだろう。
その時には、義昭にも話をしなければならない。
その日が来るのはそれほど遠い未来ではない気がして、心がズシリと重くなる。
そんな心と躰を引き摺るようにして、美羽は家路へと向かった。
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