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405.圭子の隠し事

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 泣きたいのは、私の方だよ……



 美羽は、ギャンブルなどしたことないし、興味を持ったこともなかった。どうしてそんなにパチンコに入れ込めるのか理解できないし、絶対に残しておかなければいけない家賃や公共料金のお金にまで手をつけてしまう圭子の行動も心理も信じられない。

 けれど、不憫にも思っていたし、もし家賃を払えずに住むところを追い出されてしまったら、圭子は家族全員で自分たちの家に転がりこんでくるかもしれない。

 せっかく琴子との同居を回避できたのに、それ以上の最悪の事態になってしまう。

 最近のパチンコは多額の投資をしないと勝つことができないと聞いたことはあるが、それにしても、こんな短期間に300万以上ものお金を失うなんてことがあるのだろうか。連日ずっと負け続けていたならまだしも、圭子は勝った日もあったと話していた。

「圭子さん。その、お金って……本当にパチンコのためだけに使ったんですか」

 美羽の質問に、圭子の泣き声がピタリとやみ、肩がビクッと震えた。

「他に……何に、使ったんですか?」

 圭子は美羽の顔色を窺うように、おそるおそる口を開いた。

「パ、パチンコに勝った日は、嬉しくて、気が大きくなっちゃって……それで、自分へのご褒美に……その……バッグ、とか。あっ! 私だけじゃなく、ほのかの洋服とか靴とかも買ってたのよ? それに、夕飯は奮発していいお肉買ったりとか! 家族のために使ってたの!!」

 圭子の脇を見ると、今まで見たことがないブランドのバッグが置かれていた。バッグだけでなく、きっと他にも自分のために高い買い物をしたのだろう。

 思わず、大きな溜息が溢れる。

 そんな美羽の様子に慌て、圭子が両手を合わせて頭を深く下げた。

「美羽さん、一生のお願い!!
 絶対にお金返すから、今月の家賃と水道光熱費と食費の分だけでも、貸してください!!」

 こんな低姿勢の圭子を見るのは初めてだ。

「ちょ、圭子さん……」

 美羽が戸惑っていると、今度は椅子からおりて土下座した。

「お願い、美羽さん!!
 もし晃と離婚することになったら、ほのかにパパがいなくなっちゃう!! ねぇ、すぐに返すから、お願いよーっっ!!」
「や、やめてくださいっっ」

 美羽は椅子からおりて圭子を支えて立ち上がらせると、椅子に座らせた。

 美羽は、説得するように圭子の瞳をじっと見つめた。

「……晃さんに、正直に話した方がいいんじゃないですか?」

 もうこれは、圭子さんひとりで抱え切れる問題じゃない。

 だが、圭子は目玉を飛び出さんばかりにし、大声で否定した。

「だめだめだめだめ絶対にだめ!!!!!」
「そんなこと言っても……」

 圭子が全身を震わせ、蚊の鳴くような声で呟く。
 


「だっ、て……ほんとは、あのお金。
 晃の店の経営を立て直す為に、使おうとしてたお金なんだから」



「え。そうだったんですか!?」
「……お店の経営不振が続いてて……従業員の給料すら払えなくて、辞めてもらったぐらいなの。

 兄さんからお金もらって、私は新築マンションに引越しする気満々だったけど、晃に『これで経営を立て直すんだ』、『家はそれからだ』って言われて。 
 それもあって、働く気なくして、晃に店のお金に使われるぐらいなら、その前に私がパチンコで使って、お金を増やせば、すぐにマンションも買えるって思ったのよ……」

 晃が個人経営しているビデオレンタル店は、元々父親が本屋の横にビデオレンタルコーナーを設けたのが始まりだった。小さな店だが、書籍販売をやめてビデオレンタル業のみになってからも、映画好きの常連に支えられてきた。

 父親が引退後、晃が経営を受け継いだのだが、大手のレンタル店の激安値下げ抗争についていけず、苦しめられた。

 そこで、大手が扱うビデオを同じように取り揃えても意味がないと、アダルトビデオのレンタルをメインにすることにした。

 最初はそれが功を奏して経営が上手くいっていたのだが、映像・音楽の配信サービスやケーブルTV、スマホの無料ゲームなどの拡大につれ、わざわざ店に行かなくても有料だけでなく無料の違法アダルト動画まで見られる昨今の状況に太刀打ちできず、経営困難に陥った。

 その挽回策として最近ではアダルトグッズも扱うようになり、レンタルビデオ店というよりもアダルト専門店と化しつつあり、それまでの常連の足は完全に遠退いてしまった。

 それでも経営回復までには至っておらず、晃は義昭から手に入れたお金でなんとか経営を立て直そうとしたのだろう。

 だが……義昭は、圭子夫妻がマンションを購入するからということで、お金を貸したのではなかったのか。それなのに、無断でそのお金を経営のために使おうとしていたとは、圭子も圭子だが、晃も晃だ。
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