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399.裏切れない絆
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その夜、美羽は寝付けずに何度もベッドの中で寝返りを打った。
香織の気持ちを利用して恋人になった類を憎らしく思いながら、未だ彼の心が自分から離れていないことを、愛されていることを嬉しく感じてしまう。
それは、類も同じだ。
私たちは憎しみ、互いの首に手を掛け、きつく締め付けながら……その唇に、肌に、髪に触れたくて仕方ない。
どうしようもなく、愛している。互いを、求めている。
類に、チョコケーキを渡せていたら、今とは違っていたかもしれないのに。
そう考えれば考えるほどに、あの日の行動が悔やまれる。
けれど……もし渡せたとして、ふたりの関係はどう変わっていたのだろうか。
美羽に、類と駆け落ちする気などなかった。愛人になる勇気もなかった。『好き』という告白すら……できなかっただろう。
ただ、思わせぶりな態度をとって、類の気持ちを繋ぎ止めておくことしかできない。
そうやって、また日常を繰り返すだけ。劇的な変化など、起こりはしない。
美羽は、ある一つの考えを思いつき、ハッとした。
かおりんからのバレンタインの告白をきっかけに、類はかおりんと付き合うことを考えたと言っていたけど……
類は最初から、かおりんを恋人にするつもりでいたんじゃ。
類が香織に近づいたのは、ただ仲良くしているところを見せつけて、自分にやきもちをやかせるためだと思っていた。そうして、香織と自分との距離を離れさせるためだと。
香織を恋人にするとは、思いもよらなかった。
だが、香織が藤岡と別れたのが、藤岡の妻にふたりの関係が明らかになったのが偶然でなかったとしたら?
ーー類が香織を手に入れるための、策略によるものだとしたら?
まず、藤岡と別れさせるために藤岡の妻に香織の情報をこっそり流し、嫌がらせをするように仕向けたのではないか。そして職場であるデタントに彼女を送り込んで騒ぎを起こし、自分が仲裁に入ることで香織の信頼を勝ち取る。
そこから、少しずつ香織との距離をつめていき、恋人の座を獲得する。
そんなに簡単に事が運ぶだろうかとも思うが、類は、この計画をだいぶ前から綿密に練っていたのかもしれない。
どうして香織でなければならなかったのか。それは、類が恋人とする中で、一番美羽が傷つく相手は間違いなく香織だからだ。
香織は美羽にとって親友であり、その絆を断ち切ることなどできない。ふたりが恋人となったからといって、表向き類の姉であり、香織の親友である美羽はふたりを避けることはできない。
そうしてふたりを恋人として受け入れ、接しながら、美羽は陰で苦しまなければならなくなる。
『ミューは、香織を裏切れる?』
類の声が耳の奥から響き、背中に甘い毒を垂らされたかのようにビリビリと痺れが走った。
類はかおりんと付き合うことで、世間からの目を誤魔化すつもりなの?
そうして私と密かに、愛人関係を持とうとしているの?
もし世間の目を欺きながら、類と恋人として愛し合うことが出来るのなら……その罪に堕ちていきたい。
けれど、そうすることは出来ない。
藤岡との不倫関係をようやく精算して傷ついたばかりの香織を、幸せそうに微笑んでいた香織を裏切るなんて、出来ない。
けれど、類の企みを香織に打ち明けることも出来ない。打ち明けてしまったら、香織は類と美羽の関係を知ることになってしまう。
香織を。大切な親友を、失ってしまう。
涙を浮かべている香織が脳裏に浮かんだ。
いつも私を助けてくれる、大好きなかおりん。
裏切れない。
裏切れるわけ、ないよ……
美羽は幾度目かの寝返りを打ち、深い溜息を枕に落とした。
香織の気持ちを利用して恋人になった類を憎らしく思いながら、未だ彼の心が自分から離れていないことを、愛されていることを嬉しく感じてしまう。
それは、類も同じだ。
私たちは憎しみ、互いの首に手を掛け、きつく締め付けながら……その唇に、肌に、髪に触れたくて仕方ない。
どうしようもなく、愛している。互いを、求めている。
類に、チョコケーキを渡せていたら、今とは違っていたかもしれないのに。
そう考えれば考えるほどに、あの日の行動が悔やまれる。
けれど……もし渡せたとして、ふたりの関係はどう変わっていたのだろうか。
美羽に、類と駆け落ちする気などなかった。愛人になる勇気もなかった。『好き』という告白すら……できなかっただろう。
ただ、思わせぶりな態度をとって、類の気持ちを繋ぎ止めておくことしかできない。
そうやって、また日常を繰り返すだけ。劇的な変化など、起こりはしない。
美羽は、ある一つの考えを思いつき、ハッとした。
かおりんからのバレンタインの告白をきっかけに、類はかおりんと付き合うことを考えたと言っていたけど……
類は最初から、かおりんを恋人にするつもりでいたんじゃ。
類が香織に近づいたのは、ただ仲良くしているところを見せつけて、自分にやきもちをやかせるためだと思っていた。そうして、香織と自分との距離を離れさせるためだと。
香織を恋人にするとは、思いもよらなかった。
だが、香織が藤岡と別れたのが、藤岡の妻にふたりの関係が明らかになったのが偶然でなかったとしたら?
ーー類が香織を手に入れるための、策略によるものだとしたら?
まず、藤岡と別れさせるために藤岡の妻に香織の情報をこっそり流し、嫌がらせをするように仕向けたのではないか。そして職場であるデタントに彼女を送り込んで騒ぎを起こし、自分が仲裁に入ることで香織の信頼を勝ち取る。
そこから、少しずつ香織との距離をつめていき、恋人の座を獲得する。
そんなに簡単に事が運ぶだろうかとも思うが、類は、この計画をだいぶ前から綿密に練っていたのかもしれない。
どうして香織でなければならなかったのか。それは、類が恋人とする中で、一番美羽が傷つく相手は間違いなく香織だからだ。
香織は美羽にとって親友であり、その絆を断ち切ることなどできない。ふたりが恋人となったからといって、表向き類の姉であり、香織の親友である美羽はふたりを避けることはできない。
そうしてふたりを恋人として受け入れ、接しながら、美羽は陰で苦しまなければならなくなる。
『ミューは、香織を裏切れる?』
類の声が耳の奥から響き、背中に甘い毒を垂らされたかのようにビリビリと痺れが走った。
類はかおりんと付き合うことで、世間からの目を誤魔化すつもりなの?
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もし世間の目を欺きながら、類と恋人として愛し合うことが出来るのなら……その罪に堕ちていきたい。
けれど、そうすることは出来ない。
藤岡との不倫関係をようやく精算して傷ついたばかりの香織を、幸せそうに微笑んでいた香織を裏切るなんて、出来ない。
けれど、類の企みを香織に打ち明けることも出来ない。打ち明けてしまったら、香織は類と美羽の関係を知ることになってしまう。
香織を。大切な親友を、失ってしまう。
涙を浮かべている香織が脳裏に浮かんだ。
いつも私を助けてくれる、大好きなかおりん。
裏切れない。
裏切れるわけ、ないよ……
美羽は幾度目かの寝返りを打ち、深い溜息を枕に落とした。
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