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397.保身
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類の愛に応えることなんて出来ないと言いながら、求めて、受け入れて……拒絶して。
類が自分から離れると嫉妬して、怒って、束縛して。
類を責める資格なんて、ない。
それでも……
「ック……おね、がい。
かおりんとは、かおりんとだけは……付き合わないでッ。かおりんは、純粋に類のことが好きなの。傷つけたくない!」
類が、自分以外の誰かと付き合うことになっても文句は言えない。それは、類自身が決めることなのだから。
この生活を諦められない、捨てられない自分は、ただ類と誰かが結ばれるのを黙って見ているしかないのだ。
けれど、香織は美羽にとって大切な友達だ。その友達が、類と付き合って、目の前で恋人としてのやりとりを見せられるのは、拷問だった。
そんな卑怯な美羽の考えを、類が見抜いていないはずがない。類は唇の両端を弓なりに曲げて下げ、蔑むように、美羽の願いを鼻で笑った。
「誰が傷つくの? 傷つくのは、ミューでしょ?
いつも、自分が可愛いんだもんね。
そんなに付き合ってほしくないなら、すべて香織にぶちまけなよ。
僕とミューが、かつては恋人同士だったって。僕は今もミューが好きで、ミューを諦めるために、香織と付き合うことにしたんだって。
ミューも僕が好きだけど、夫がいるし、今の生活が捨てられない。姉弟の恋愛関係に踏み込めない。それでも、僕が他の人と付き合うのは耐えられないんだって。
香織なら優しいからさ、分かってくれるかもよ? それで、僕のこと諦めて、ミューと僕がうまくいくように、応援してくれたりしてね……フフッ」
香織に自分たちの関係を打ち明けることを想像して、美羽は小さく震えた。
「そんなこと……できるわけ、ないじゃない。
これ以上、かおりんを傷つけることなんて、できない。もう友達で、いられなくなる……ック」
類の口から、「ハッ」と乾いた笑いが零れた。
「なにそれ、ウケるんだけど。香織を守りたいフリして、自分の保身でしかないじゃん。
ほんと、ミューって呆れるぐらい自分勝手で偽善者だよね」
「ッッ!」
分かってる。分かってる。
どんなに自分が、自分勝手で、我儘で、自分の身を守ることしか考えてない狡い女か……
それでも、嫌なの。
類とかおりんが恋人だなんて、絶対に嫌……
打ち拉がれる美羽の肩に、類の手がそっと触れる。ゆっくりと彼の唇が美羽の耳に近づき、囁く。
「もっと喜んでよ。大好きな親友と弟が恋人になったんだから。
これで、誰からも僕たちの秘密の関係を疑われることはなくなる。
そうでしょ?」
ふるりと耳が震える。それは、悪魔に垂らされた毒薬のように、美羽の全身を痺れさせる。
ぁ……
美羽は蒼白な顔で、類を見上げた。
「まさ、か……かおりんを盾にして、私と愛人関係を持とうと思ってるの?
類がかおりんと付き合うことになれば、私との関係を疑われることはないから」
以前類が話していた、
『みんなに僕たちが普通の姉弟だってこと、分かってもらえるようにするから』
それは、こういう意味ではなかったのだろうか。
類が不敵な笑みを浮かべた。
「へーっ、そんなに自分が愛されてるって、ミューは思ってんだ。フフッ、どこまで自信過剰なの?
なに? ミューは、それを望んでるわけ?」
自分の考えを否定されてバカにされ、美羽は顔をカーッと熱くした。
「そんなわけっっ!!」
「まぁ僕は、それでもいいけどね」
類の指が美羽の顎を捉える。妖艶な瞳で覗き込まれると、全てが呑み込まれていく錯覚に囚われる。もう一方の指で唇の輪郭をなぞられる。抵抗しようと思うのに、躰が縛られたように動かない。
血のように赤く瑞々しい類の唇が、角度をつけて美羽に近づいてくる。
その魅惑的な唇に吸い込まれそうになりながらも、強く言い聞かせる。
ダメ……流されたら。
「出来、ないよ……」
両手で、類の胸を押し返した。
離された類は唇を噛み、痛々しく微笑んだ。
「だろうね……
ミューに、そんな度胸ないもんね」
美羽は答えられず、俯いた。ふたりの間に沈黙が流れる。
その時、玄関のノブがガチャガチャと音を立てた。
類が自分から離れると嫉妬して、怒って、束縛して。
類を責める資格なんて、ない。
それでも……
「ック……おね、がい。
かおりんとは、かおりんとだけは……付き合わないでッ。かおりんは、純粋に類のことが好きなの。傷つけたくない!」
類が、自分以外の誰かと付き合うことになっても文句は言えない。それは、類自身が決めることなのだから。
この生活を諦められない、捨てられない自分は、ただ類と誰かが結ばれるのを黙って見ているしかないのだ。
けれど、香織は美羽にとって大切な友達だ。その友達が、類と付き合って、目の前で恋人としてのやりとりを見せられるのは、拷問だった。
そんな卑怯な美羽の考えを、類が見抜いていないはずがない。類は唇の両端を弓なりに曲げて下げ、蔑むように、美羽の願いを鼻で笑った。
「誰が傷つくの? 傷つくのは、ミューでしょ?
いつも、自分が可愛いんだもんね。
そんなに付き合ってほしくないなら、すべて香織にぶちまけなよ。
僕とミューが、かつては恋人同士だったって。僕は今もミューが好きで、ミューを諦めるために、香織と付き合うことにしたんだって。
ミューも僕が好きだけど、夫がいるし、今の生活が捨てられない。姉弟の恋愛関係に踏み込めない。それでも、僕が他の人と付き合うのは耐えられないんだって。
香織なら優しいからさ、分かってくれるかもよ? それで、僕のこと諦めて、ミューと僕がうまくいくように、応援してくれたりしてね……フフッ」
香織に自分たちの関係を打ち明けることを想像して、美羽は小さく震えた。
「そんなこと……できるわけ、ないじゃない。
これ以上、かおりんを傷つけることなんて、できない。もう友達で、いられなくなる……ック」
類の口から、「ハッ」と乾いた笑いが零れた。
「なにそれ、ウケるんだけど。香織を守りたいフリして、自分の保身でしかないじゃん。
ほんと、ミューって呆れるぐらい自分勝手で偽善者だよね」
「ッッ!」
分かってる。分かってる。
どんなに自分が、自分勝手で、我儘で、自分の身を守ることしか考えてない狡い女か……
それでも、嫌なの。
類とかおりんが恋人だなんて、絶対に嫌……
打ち拉がれる美羽の肩に、類の手がそっと触れる。ゆっくりと彼の唇が美羽の耳に近づき、囁く。
「もっと喜んでよ。大好きな親友と弟が恋人になったんだから。
これで、誰からも僕たちの秘密の関係を疑われることはなくなる。
そうでしょ?」
ふるりと耳が震える。それは、悪魔に垂らされた毒薬のように、美羽の全身を痺れさせる。
ぁ……
美羽は蒼白な顔で、類を見上げた。
「まさ、か……かおりんを盾にして、私と愛人関係を持とうと思ってるの?
類がかおりんと付き合うことになれば、私との関係を疑われることはないから」
以前類が話していた、
『みんなに僕たちが普通の姉弟だってこと、分かってもらえるようにするから』
それは、こういう意味ではなかったのだろうか。
類が不敵な笑みを浮かべた。
「へーっ、そんなに自分が愛されてるって、ミューは思ってんだ。フフッ、どこまで自信過剰なの?
なに? ミューは、それを望んでるわけ?」
自分の考えを否定されてバカにされ、美羽は顔をカーッと熱くした。
「そんなわけっっ!!」
「まぁ僕は、それでもいいけどね」
類の指が美羽の顎を捉える。妖艶な瞳で覗き込まれると、全てが呑み込まれていく錯覚に囚われる。もう一方の指で唇の輪郭をなぞられる。抵抗しようと思うのに、躰が縛られたように動かない。
血のように赤く瑞々しい類の唇が、角度をつけて美羽に近づいてくる。
その魅惑的な唇に吸い込まれそうになりながらも、強く言い聞かせる。
ダメ……流されたら。
「出来、ないよ……」
両手で、類の胸を押し返した。
離された類は唇を噛み、痛々しく微笑んだ。
「だろうね……
ミューに、そんな度胸ないもんね」
美羽は答えられず、俯いた。ふたりの間に沈黙が流れる。
その時、玄関のノブがガチャガチャと音を立てた。
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