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390.真実を知る男

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「ぇ。誰!?」

 類より早く、口を挟んだ美羽に、隼斗が顔を向ける。

「俺たちがこの正月、教団に行った時に、怒鳴り込んで来た男性がいたの、覚えてるか?」

 言われて、思い出した。

 出家信者として教団施設に住んでいる娘を取り戻そうと、受付の女性に食ってかかり、がたいのいい男性ふたりに取り押さえられたところを隼斗に助けられ、その後、話し合いのために去っていった男性だ。

「うん……覚えてるよ」
「城田さんって人なんだが、あれから教団の出家信者となった家族たちに呼びかけて、『被害者の会』を立ち上げる活動をしてるそうなんだ」

 あの、城田さんが……

 城田はきっと、教団から追い出された後も、根気強く『幸福阿吽教』について自らの足で調べ回り、ようやく自分と同じ立場の人たちを見つけて連絡をとり、結束を固めて教団の闇を暴こうとしているのだろう。

 そこに、娘への深い愛情を感じた。

 美羽は、華江が何か危険な事に巻き込まれているかもしれないと心配しつつ、何も出来なかった。それは、母親を遠ざけていたいという思いがあったからだ。

 今も、もし城田が教団の闇を暴き、自分のところへ母親が戻ってきたらと考えると怖くて仕方ない。

「城田さんと、今度の休みに会うことになった」
「ぇ。じゃあ、私も……!!」

 居ても立ってもいられずに口走ったが、隼斗は首を振った。

「まずは、俺だけで行ってみる」
「で、でも……」
「大丈夫だ、心配するな」

 隼斗が美羽の頭に、大きな手を軽くポンと置いた。普段、隼斗が美羽に対してなにげなくする仕草だ。いつもなら気にならないのに、今日は隣に類がいるせいで、針の筵に座るような思いがする。

「フフッ。隼斗兄さんは、ミューに過保護だね」

 きっと類は笑顔で隼斗にそう言っているのだろうが、怖くて隣を見られない。彼の刺々しい思いが、痛いほどに伝わってくるから。

「そうか?」
「うん、見てて分かるよ……隼斗兄さんが、どれだけミューを大切に思っているか」

 全身がゾクッと戦慄いた。

 類、お願い。
 どうか、隼斗兄さんを傷つけるようなことだけはしないで!!



「やめてっっ!!」


 気づけば、美羽は立ち上がって叫んでいた。

「美羽? どうした?」
「うわっ、ビックリしたー。えっ、何!?」

 ふたりからの視線を受けて気まずくなり、勢いよく座り直す。

「あ、あのっ……隼斗兄さん!! 
 いつまでも私を子供扱いするの、やめてって……もう私、大人なんだから!」

 慌てて非難の的を、隼斗に向ける。

 類から隼斗兄さんを守るためには、私が兄さんに少しも好意はないってところを見せないと。
 かおりんみたいに、私たちのことで隼斗兄さんを巻き込みたくない。

「そういう意味だったのか。すまん、そんなつもりはなかったんだが」

 隼斗は自分の手を見つめ、諌めるように膝へと下ろした。

 ごめんなさい、隼斗兄さん。

 自責の念を感じ、チクチクと心が痛む。

「だったら」

 そう言って、隼斗が類に向き直る。

「類、お前も来るか? それで、3人で城田さんに会いに行こう」 

 ッッ……類も、城田さんに会わせるつもりなの!?

 すると、類が笑顔でヒラヒラと手を振った。

「僕はいいや、そういうのめんどくさいし」
「そうか」
「それに……あんな女、どうなろうと知ったことじゃないしね」

 酷く冷たい言葉に隼斗がハッとし、類がハハッと乾いた笑いを零した。

「ほら、僕さ……嫌われてたって話、したでしょ?
 もう関わりたくないんだ。それに、あの女に僕がここにいることを知られたくないし」

 美羽はビクッと肩を震わせた。

 ……そうだ。
 もしお母さんが類が日本にいるのを知ったら、私と一緒に暮らしていることを知られてしまったら、大変なことになってしまう。

 城田さんに会うなんてこと、できるはずない。
 
「分かった。
 じゃあ、今度の休みは俺と美羽で城田さんに会うことにしよう」

 勢いで自分も行きたいと言い、その願いが受け入れられたわけだが、いざ隼斗とふたりきりで行くとなると、心配になる。

「うん。分かった……」

 隼斗の手の内を知った今、類はどう動くつもりだろうと不安な気持ちが押し寄せてきた。
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