【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

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383.怒りの鉄槌

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 渾身の力を振り絞って扉をガリガリと引っ掻いていた義昭の手が、ガンッと蹴り上げられる。

「ウッ!」

 床へと落ちたその手が、今度は乗馬ブーツのヒールで穴が開きそうなぐらいの強さで踏みつけられた。義昭の苦痛に満ちた顔が、更に酷く歪む。

「ヒ、グゥッ……」



「あれっ? こんなところに転がってるって気がつかなくて、踏みつけちゃった」



 汚い手で触んじゃねーよ!

 心の声とは裏腹に、にっこりと微笑んでみせた。

「ル、ルイィィィ……ハァッ、ハァッ」
「ねぇ、そこ退いてくんない? 邪魔なんだけど」

 怒りで頭がおかしくなりそうなぐらい、ドス黒い感情が渦巻いているが、それを義昭に見せることは、ご褒美でしかない。だが、平静にならなれければと思うのに、どう抑えこんでも憎しみの気持ちが湧き上がってしまう。

 義昭を、蛆虫を見るような蔑んだ視線で見下ろしていた。

 いつもの義昭であれば、そんな類の姿に見惚れて顔を赤く染めるところだが、今は本当に余裕がないらしく、ますます顔を青褪めさせた。

「く、薬を……ハァッ、ハァッ……腹が、おかしいんだ……ッグ」

 チョコケーキを食べ、類に勧められてお茶を飲み……暫くたってから自室に戻ると、急に腹に激痛が走った。

 一階のリビングに常備してある救急箱を取りに行きたかったが、あまりの痛さに歩くこともままならなかった。匍匐前進ほふくぜんしんで躰を引き摺りながら、ようやく目の前の美羽の部屋まで来た。

 だが、いくらノックしても、呼び掛けても、美羽は応じようとしない。

「ハァッ、ハァッ……」

 荒く息を吐く義昭の手を、類が更に深くギリギリと足を左右に揺らして踏み捩る。

「いつまでこんなところに寝転んでるの? 早く戻りなよ」
「ウッ、グゥゥゥゥゥ……ハッ、ハッ、ハッハッハッ」

 義昭の額からダラダラと脂汗が滲み、蒼白な顔でガクガクと震える。眼鏡は完全にずり落ちていた。

「ハァッ、ハァッ……ッグ……せ、せめて……み、水ぅぅ……水だけでもッッ!!」

 義昭が必死に呼び掛ける。

「水が欲しいの?」

 類が義昭の背中を足で蹴って転がそうとするが、さすがに大の男ひとりを動かすことはできない。そこで髪の毛を鷲掴みにし、一気に引き摺る。

「フッ……ッグ。クゥゥゥッッ!!」

 義昭を引っ張って扉を開け、トイレの便器に頭を投げ込む。

「水なら、ここにたっぷりあるよ。はい、どうぞ」

 類が義昭の頭を蹴り上げた途端、

 グーギュルルルル……

 義昭のお腹が鳴り、背中を丸め、尻をヒクヒクと上下に激しく痙攣させた。

「んぁ、あぁぁっ!! ングゥッ!!」

 義昭がトイレにしがみつき、必死に躰を持ち上げて便器に座ろうとしている。



「汚くしたら、許さねぇから」



 そんな義昭を視界から消すように、類が扉をバタンと閉めた。

「ウッ……ング!! ぁ、あぁ、ぁあああああああああああっっ!!」

 その声と共に汚物が排出される音が扉の向こう側から響き、類は舌打ちして、くるりと背を向けた。

 汚くなったな……

 乗馬ブーツをその場で脱ぐと、ガラッと窓を開け、放り投げる。ブーツが草叢にバサッと落ちる音が、夜のしじまに呑みこまれていく。

 カラカラと窓を閉め、溜息を吐き切る。それからゆっくりと振り返り、美羽の部屋の扉を見つめた。

 ミュー……

 睫毛を揺らし、求めるように、欲するように扉へと近づき、腕をゆっくりと伸ばす。

 だが……

「ック……」

 ゆるく閉じていた拳をギュッと握って震わせ、力なく下ろした。類の手の中には、美羽の部屋の鍵があった。

 この扉の向こうに、恐怖に怯え、震えてるミューがいる。
 抱き締めたい。自分の温もりで包み込んで、安心させてあげたい。

 けれど、その思いを呑み込んで、階段を降りて自分の部屋へと向かう。そうさせたのは、怒りの感情からだった。



 今日、ミューからチョコレートケーキをもらうのは僕のはずだった。ミューは僕のために、あれを用意していたのに……




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