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360.圭子夫妻の目的
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だが、画面に表示された名前を見て、美羽のテンションが一気に下がった。
「もし、もし……」
『ぁ、美羽か? みんなと楽しんでるか?』
もしこれが家での会話なら、絶対に尋ねることなどない質問だ。美羽との通話を通じての『良い夫』アピールに、虫唾が走る。
だが、最近の義昭の態度からすると、案外これが本音なのかもしれない。そう考えて、余計に嫌悪感が増した。
芳子や萌、香織も漏れ聞こえる会話から、通話の相手が義昭だと分かったようで、彼女らの表情から義昭への称賛が透けて見えるのが不愉快だった。
美羽は自然を装って立ち上がり、会話が聞こえない距離まで離れた。その間にも、義昭が喋り続けている。
『なんとか話し合いが纏まりそうだ。おそらく、来月末までにはマンションに引っ越しできると思う』
「そう……圭子さんたちは、大丈夫だった?」
圭子夫妻の反対によって、話し合いは長時間に渡るだろうと予測していたのに、こんなに早く決まったことに疑問を覚えた。
『ぁ。あぁ、まぁ……ゴタゴタはしたけどな』
歯切れの悪い返事に、一悶着あったのだろうと察しがついた。
「何か、言われたの?」
嫌な予感がしながら質問すると、突然声が変わった。
『ミュー、楽しんでる?』
「る、類……」
驚きながらも、なるべく声を潜め、3人に聞かれないように気を配る。ここで類と話していることを知られたら、萌や芳子が嬉々として話に割り込んできかねない。そうでなくても、聞き耳をたてられそうだ。
『圭子さんたち、最初は琴子が独り暮らしするのに反対の姿勢だったんだけどさ、ヨシがマンション購入の頭金の半額を貸すってことで了承したんだ。
僕もお金貸すよって言ったんだけど、琴子のマンションの家賃まで無料にしてもらってるのに、それは出来ないってヨシに断られたんだよねー』
圭子たちが琴子の独り暮らしに反対だったのは、圭子が働きに出た際にほのかの面倒を見る人がいなくなるからという理由ではなかったのか。
結局、お金なのね……
美羽は溜息を吐いた。
だから義昭は、美羽に話したくなかったのだ。自分に黙って圭子にお金を貸したことを後ろめたく思っていたのだろう。後ろめたいという気持ちがあるだけ、マシなのかもしれないが。
だが、教団へのお布施を立替えたお金もまだ返してもらってない中、なんの相談もなく大金をポンと、返してくれるかどうか分からない圭子夫妻に貸したことに、嫌悪と怒りが湧き上がる。
ケチな義昭は、本当なら一銭だって圭子にお金など貸したくなかっただろうが、類の手前、格好つけたのだろう。義昭が類に媚びた笑みを見せるのが容易に想像つき、美羽は躰を震わせた。
これで、晴れて琴子は自由の身となった。これからは明るい未来に向かって羽ばたいていくに違いない。
今までは常に夫の後ろを歩き、遠慮がちだった琴子が、あのマンションで住人たちと笑い合い、おしゃべりに興じ、生き生きとしている姿が浮かんできた。
けれど……大作はどうなるのだろうか。
琴子が自由を謳歌する一方、惨めな暮らしをしている彼を思うと、美羽の胸が少し痛んだ。
『これから琴子の新生活に必要なものを買いに行って、夕飯を食べてから帰るつもりだから、僕たちのことは気にしなくていいから』
まるで類が夫であるかのような言い方だが、腹が立つことも、不自然に感じることもなく、それを愛おしく感じる。
だが、それもこの類のひとことで帳消しとなった。
『せっかくの女子会なんだからさ、楽しみなよ』
ッッ類のせいで、台無しになったっていうのに……
そう言いたい気持ちを押し込め、なんとか普通を装おって返事をした。
「うん……あり、がとう。じゃあね」
類の策略通りにまんまと嵌っていることなど、気づかれたくなかった。
電話を切って、ハァ……と溜息を吐く。
ゆっくり……か。
類にはあぁ言ったものの、気まずい空気になってしまった今、これ以上長居したくなかった。
「もし、もし……」
『ぁ、美羽か? みんなと楽しんでるか?』
もしこれが家での会話なら、絶対に尋ねることなどない質問だ。美羽との通話を通じての『良い夫』アピールに、虫唾が走る。
だが、最近の義昭の態度からすると、案外これが本音なのかもしれない。そう考えて、余計に嫌悪感が増した。
芳子や萌、香織も漏れ聞こえる会話から、通話の相手が義昭だと分かったようで、彼女らの表情から義昭への称賛が透けて見えるのが不愉快だった。
美羽は自然を装って立ち上がり、会話が聞こえない距離まで離れた。その間にも、義昭が喋り続けている。
『なんとか話し合いが纏まりそうだ。おそらく、来月末までにはマンションに引っ越しできると思う』
「そう……圭子さんたちは、大丈夫だった?」
圭子夫妻の反対によって、話し合いは長時間に渡るだろうと予測していたのに、こんなに早く決まったことに疑問を覚えた。
『ぁ。あぁ、まぁ……ゴタゴタはしたけどな』
歯切れの悪い返事に、一悶着あったのだろうと察しがついた。
「何か、言われたの?」
嫌な予感がしながら質問すると、突然声が変わった。
『ミュー、楽しんでる?』
「る、類……」
驚きながらも、なるべく声を潜め、3人に聞かれないように気を配る。ここで類と話していることを知られたら、萌や芳子が嬉々として話に割り込んできかねない。そうでなくても、聞き耳をたてられそうだ。
『圭子さんたち、最初は琴子が独り暮らしするのに反対の姿勢だったんだけどさ、ヨシがマンション購入の頭金の半額を貸すってことで了承したんだ。
僕もお金貸すよって言ったんだけど、琴子のマンションの家賃まで無料にしてもらってるのに、それは出来ないってヨシに断られたんだよねー』
圭子たちが琴子の独り暮らしに反対だったのは、圭子が働きに出た際にほのかの面倒を見る人がいなくなるからという理由ではなかったのか。
結局、お金なのね……
美羽は溜息を吐いた。
だから義昭は、美羽に話したくなかったのだ。自分に黙って圭子にお金を貸したことを後ろめたく思っていたのだろう。後ろめたいという気持ちがあるだけ、マシなのかもしれないが。
だが、教団へのお布施を立替えたお金もまだ返してもらってない中、なんの相談もなく大金をポンと、返してくれるかどうか分からない圭子夫妻に貸したことに、嫌悪と怒りが湧き上がる。
ケチな義昭は、本当なら一銭だって圭子にお金など貸したくなかっただろうが、類の手前、格好つけたのだろう。義昭が類に媚びた笑みを見せるのが容易に想像つき、美羽は躰を震わせた。
これで、晴れて琴子は自由の身となった。これからは明るい未来に向かって羽ばたいていくに違いない。
今までは常に夫の後ろを歩き、遠慮がちだった琴子が、あのマンションで住人たちと笑い合い、おしゃべりに興じ、生き生きとしている姿が浮かんできた。
けれど……大作はどうなるのだろうか。
琴子が自由を謳歌する一方、惨めな暮らしをしている彼を思うと、美羽の胸が少し痛んだ。
『これから琴子の新生活に必要なものを買いに行って、夕飯を食べてから帰るつもりだから、僕たちのことは気にしなくていいから』
まるで類が夫であるかのような言い方だが、腹が立つことも、不自然に感じることもなく、それを愛おしく感じる。
だが、それもこの類のひとことで帳消しとなった。
『せっかくの女子会なんだからさ、楽しみなよ』
ッッ類のせいで、台無しになったっていうのに……
そう言いたい気持ちを押し込め、なんとか普通を装おって返事をした。
「うん……あり、がとう。じゃあね」
類の策略通りにまんまと嵌っていることなど、気づかれたくなかった。
電話を切って、ハァ……と溜息を吐く。
ゆっくり……か。
類にはあぁ言ったものの、気まずい空気になってしまった今、これ以上長居したくなかった。
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