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354.萌の好きな人
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戸惑う美羽に気づくことなく、芳子は話を続ける。
「裕樹はお腹の中で大暴れしてぐるんぐるん回ったり、蹴ったりしてさぁ。何度悲鳴あげたことか。
切迫早産の危険なんて言われて二度も入院させられたし、今回の出産はほぉんと大変だった! 一度経験してるから大丈夫だなんて、甘かったわぁ。でも裕樹が産まれた途端、それまでの苦労なんてすっかり吹き飛んじゃったけど。ねぇ、裕樹ぃ」
芳子は慣れた様子で、今度はもう一方の服をたくし上げて裕樹をくるりと回転させ、別の乳を含ませた。
「男の子ってさぁ、抱き心地も全然違うのよ。女の子は小さくて軽くて柔らかくて、ふわぁって感じだけど、男の子はもっと硬くてずっしり詰まってる感じがするのよね。でも、なんていうのかなぁ……ほぉんと可愛いのよ。
あぁっ、もう! なんでみんな子供いないのよぉ! 我が子の可愛さを共有して語り合いたいのにー!!」
芳子の言葉に、『また始まった……』とばかりに香織が美羽に目配せし、その意味に気付いた美羽も目線で頷く。分かり合える友達がいてくれるのは頼もしいことだ。
また芳子はいつものように美羽が子供を作らないことについて追求してくるのだろうと覚悟していたら、萌が突然声を上げた。
「萌たんも赤ちゃんほしーたーん!!」
萌たん……もしかして、私に話が振られないように気を遣ってくれたのかな?
芳子が不意を突かれて目を丸くし、香織がプッと吹き出した。
「何言ってんの、結婚もしてないくせに!」
「ぶぅ。だーかーらぁ、早く結婚して赤ちゃんほしいたん!」
萌はまだ19歳と若いが結婚願望が強く、カフェで働き始めた当初から早く結婚したいと言っていた。そして、彼氏ができるたびにその相手との結婚を夢見ていた。
「じゃあ、新しい彼氏でもできたわけ?」
萌は、彼氏が出来るとすぐに美羽と香織に報告していた。知らせなくても、萌の態度ですぐに分かってしまうのだが。香織が萌にまだ彼氏がいないと分かっていながら、からかうように意地悪な質問をしてきたので、萌は頬を膨らませた。
「うっ……い、いない……け、どっっ」
だが、その反応はいつもと違っている。口籠る様子を見せた萌に、美羽は首を傾げた。萌が、なにか隠し事をしているような気がした。
「萌たん、好きな人がいるの?」
「ふっ……ふわぁぁぁあああ!! い、言えない言えない言えなぁぁい!!」
美羽の質問に、顔を真っ赤にして首を振っている。肯定としか受け取れないような反応だ。
「もし、かして……私たちが知ってる、人?」
まさか、類!?
おそるおそる、美羽が尋ねる。
萌はますます赤らんだ顔を両手で覆い、首を振った。
「ギャーッッ!! い、言えない言えないたーん!!」
その反応に、美羽は愕然とした。共通で知ってる人物といえば、カフェの人間ということになる。
萌はカフェのアイドルとして、お客様とは付き合わないことを信条としていた。それを破ってまで、好きになった……という可能性もありえるが、別に店の規則で客との恋愛を禁止しているわけではないので、美羽や香織に隠す必要はない気がする。
そうなると、店側の人間である隼斗、浩平、類の3人に絞られる。
この中で一番可能性が低いのは、浩平だ。萌は年上の男性が好きだと常日頃から言っており、美羽が知る限り年上としか付き合ったことがない。浩平は厳密に言えば1歳上なのだが、学年は同じになる。それに、ふたりのやりとりを見ていたら、友人同士のやりとりにしか思えない。
隼斗は一番年上だし、頼り甲斐もある。けれど、萌はどこか隼斗に対して一歩引いた態度を見せていたし、他の従業員と比べて話し方もどことなく硬い。それが、萌の隼斗に対する恋心からだとは思えなかった。
ーーそうなると、萌が好きな相手はやっぱり類しかいない。
「裕樹はお腹の中で大暴れしてぐるんぐるん回ったり、蹴ったりしてさぁ。何度悲鳴あげたことか。
切迫早産の危険なんて言われて二度も入院させられたし、今回の出産はほぉんと大変だった! 一度経験してるから大丈夫だなんて、甘かったわぁ。でも裕樹が産まれた途端、それまでの苦労なんてすっかり吹き飛んじゃったけど。ねぇ、裕樹ぃ」
芳子は慣れた様子で、今度はもう一方の服をたくし上げて裕樹をくるりと回転させ、別の乳を含ませた。
「男の子ってさぁ、抱き心地も全然違うのよ。女の子は小さくて軽くて柔らかくて、ふわぁって感じだけど、男の子はもっと硬くてずっしり詰まってる感じがするのよね。でも、なんていうのかなぁ……ほぉんと可愛いのよ。
あぁっ、もう! なんでみんな子供いないのよぉ! 我が子の可愛さを共有して語り合いたいのにー!!」
芳子の言葉に、『また始まった……』とばかりに香織が美羽に目配せし、その意味に気付いた美羽も目線で頷く。分かり合える友達がいてくれるのは頼もしいことだ。
また芳子はいつものように美羽が子供を作らないことについて追求してくるのだろうと覚悟していたら、萌が突然声を上げた。
「萌たんも赤ちゃんほしーたーん!!」
萌たん……もしかして、私に話が振られないように気を遣ってくれたのかな?
芳子が不意を突かれて目を丸くし、香織がプッと吹き出した。
「何言ってんの、結婚もしてないくせに!」
「ぶぅ。だーかーらぁ、早く結婚して赤ちゃんほしいたん!」
萌はまだ19歳と若いが結婚願望が強く、カフェで働き始めた当初から早く結婚したいと言っていた。そして、彼氏ができるたびにその相手との結婚を夢見ていた。
「じゃあ、新しい彼氏でもできたわけ?」
萌は、彼氏が出来るとすぐに美羽と香織に報告していた。知らせなくても、萌の態度ですぐに分かってしまうのだが。香織が萌にまだ彼氏がいないと分かっていながら、からかうように意地悪な質問をしてきたので、萌は頬を膨らませた。
「うっ……い、いない……け、どっっ」
だが、その反応はいつもと違っている。口籠る様子を見せた萌に、美羽は首を傾げた。萌が、なにか隠し事をしているような気がした。
「萌たん、好きな人がいるの?」
「ふっ……ふわぁぁぁあああ!! い、言えない言えない言えなぁぁい!!」
美羽の質問に、顔を真っ赤にして首を振っている。肯定としか受け取れないような反応だ。
「もし、かして……私たちが知ってる、人?」
まさか、類!?
おそるおそる、美羽が尋ねる。
萌はますます赤らんだ顔を両手で覆い、首を振った。
「ギャーッッ!! い、言えない言えないたーん!!」
その反応に、美羽は愕然とした。共通で知ってる人物といえば、カフェの人間ということになる。
萌はカフェのアイドルとして、お客様とは付き合わないことを信条としていた。それを破ってまで、好きになった……という可能性もありえるが、別に店の規則で客との恋愛を禁止しているわけではないので、美羽や香織に隠す必要はない気がする。
そうなると、店側の人間である隼斗、浩平、類の3人に絞られる。
この中で一番可能性が低いのは、浩平だ。萌は年上の男性が好きだと常日頃から言っており、美羽が知る限り年上としか付き合ったことがない。浩平は厳密に言えば1歳上なのだが、学年は同じになる。それに、ふたりのやりとりを見ていたら、友人同士のやりとりにしか思えない。
隼斗は一番年上だし、頼り甲斐もある。けれど、萌はどこか隼斗に対して一歩引いた態度を見せていたし、他の従業員と比べて話し方もどことなく硬い。それが、萌の隼斗に対する恋心からだとは思えなかった。
ーーそうなると、萌が好きな相手はやっぱり類しかいない。
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