357 / 498
351.再会
しおりを挟む
10年ほど前に新興住宅地として開発されたこのエリアは各住宅が壁を共有するタウンハウスが立ち並んでおり、3人の目の前に建つこの家も、例外なく両隣の家と壁を共有していた。
すぐ近くにはこの住宅地のために造られた広場があり、小さな子供2人が遊具で遊び、側のベンチにはそれぞれの母親と思われる女性がおしゃべりに興じていた。
美羽の住む住宅街とよく似ていた。とはいえ、日本の住宅街、特に最近建てられたような新興住宅地はどこも似た感じなのだろう。
玄関の門のネームプレートを確認し、インターホンを押す。すると、こちらが言葉を発する前に声が響いた。
『扉開いてるから、入ってきてー』
ポーチへと続く門扉を抜けると小さな庭があり、犬小屋からはふわふわな白い尻尾が覗いている。
「ワンたーん❤️」
萌が走り寄ると急に白犬が小屋から飛び出したかと思うと、牙を剥き出して凄い勢いで吠えかかってきた。
「きゃーん、ワンたん、萌たんこわくないたーん。一緒に遊びたいたーん!!」
「ほら萌、行くわよ」
「わーん、ワンたーん!!」
萌が騒いでいると、玄関のドアがガチャッと開いた。
「ふふっ、萌たん相変わらずねぇ。
いらっしゃーい。来てくれて嬉しいわぁ」
芳子に笑顔で迎えられ、3人も笑顔を返しながらそれぞれ口を開いた。
「よっしー、久しぶり。体調はどう?」
「元気にしてたぁ?」
「赤ちゃん、早く見たいたーん❤️」
今日は芳子から出産報告のメールを受け、彼女が退院して落ち着いたのを見計らって、3人で訪ねることにしたのだった。
「狭い家だけど、あがってあがって!
あー、ごめーん。みんなが来る前に玄関綺麗にしとこうと思ってたのに、朝バタバタしててすっかり忘れちゃってたのよぉ」
玄関には子供の靴が散乱し、まだ縛られていない新聞や雑誌が山積みにされて置かれている。自宅では感じない、他人の家の匂いが鼻腔を通じて伝わってくる。
言われなければまだ妊娠中かと思うほど大きい腹を抱え、芳子は3人を家の中へと案内した。
「家のすぐそばに広場があって子供遊ばせられるし、いい環境だね」
香織が声をかけると、芳子は「そうなのよぉ」と同意しながらも、すぐに顔を顰めた。
「でもあそこ、小学生たちの分団の集合場所にもなってるから、朝っぱらからギャーギャーワーワー煩いのよねぇ。帰りも広場で遊んでから帰るし。やっと寝かしつけたと思ったら起こされることもあって、イラッとしちゃうわよ」
それから芳子は、その子供達のことだけでなく彼らの親や家族構成なんかまであれこれと説明してくれた。
久しぶりとは思えないほど自然体な芳子に、懐かしさと安堵が美羽の胸に込み上げてきた。
狭い廊下を通って芳子が扉を開け、リビングルームへと通される。
「あー、ごめんごめん。今、片付けるわぁ」
おむつ用のゴミ箱が大きく場所を占めているが、使っている感じはない。床には赤ちゃんが握って遊ぶガラガラの玩具、オーボールラトルが転がり、着せ替え人形と服があちこちに散乱し、テーブルの上には菓子パンの空き袋とミルクティーの入っていた空のペットボトルが置かれたままになっており、軽いカオス状態だ。書棚の本や雑誌は並べられているというより詰め込まれた、と言ったほうが正しいかもしれない。
よくいえば、生活感溢れる家といった印象だった。
以前、圭子の家を訪ねた時もこんな感じだったことを美羽は思い出した。子供をもつと、家の片付けなど構っていられなくなるのかもしれない。
リビングルームのラグの上にはプレイマットが置かれていた。布で包まれた棒が交差していて、棒にはいろんな素材や形のおもちゃがぶら下がっている。そこに転がされている赤ちゃんを見て、萌が興奮を含んだ奇声を発した。
「うっきゃーっっ! 赤たん、可愛いたーん❤️❤️
お名前はなんですかぁ?」
すぐ近くにはこの住宅地のために造られた広場があり、小さな子供2人が遊具で遊び、側のベンチにはそれぞれの母親と思われる女性がおしゃべりに興じていた。
美羽の住む住宅街とよく似ていた。とはいえ、日本の住宅街、特に最近建てられたような新興住宅地はどこも似た感じなのだろう。
玄関の門のネームプレートを確認し、インターホンを押す。すると、こちらが言葉を発する前に声が響いた。
『扉開いてるから、入ってきてー』
ポーチへと続く門扉を抜けると小さな庭があり、犬小屋からはふわふわな白い尻尾が覗いている。
「ワンたーん❤️」
萌が走り寄ると急に白犬が小屋から飛び出したかと思うと、牙を剥き出して凄い勢いで吠えかかってきた。
「きゃーん、ワンたん、萌たんこわくないたーん。一緒に遊びたいたーん!!」
「ほら萌、行くわよ」
「わーん、ワンたーん!!」
萌が騒いでいると、玄関のドアがガチャッと開いた。
「ふふっ、萌たん相変わらずねぇ。
いらっしゃーい。来てくれて嬉しいわぁ」
芳子に笑顔で迎えられ、3人も笑顔を返しながらそれぞれ口を開いた。
「よっしー、久しぶり。体調はどう?」
「元気にしてたぁ?」
「赤ちゃん、早く見たいたーん❤️」
今日は芳子から出産報告のメールを受け、彼女が退院して落ち着いたのを見計らって、3人で訪ねることにしたのだった。
「狭い家だけど、あがってあがって!
あー、ごめーん。みんなが来る前に玄関綺麗にしとこうと思ってたのに、朝バタバタしててすっかり忘れちゃってたのよぉ」
玄関には子供の靴が散乱し、まだ縛られていない新聞や雑誌が山積みにされて置かれている。自宅では感じない、他人の家の匂いが鼻腔を通じて伝わってくる。
言われなければまだ妊娠中かと思うほど大きい腹を抱え、芳子は3人を家の中へと案内した。
「家のすぐそばに広場があって子供遊ばせられるし、いい環境だね」
香織が声をかけると、芳子は「そうなのよぉ」と同意しながらも、すぐに顔を顰めた。
「でもあそこ、小学生たちの分団の集合場所にもなってるから、朝っぱらからギャーギャーワーワー煩いのよねぇ。帰りも広場で遊んでから帰るし。やっと寝かしつけたと思ったら起こされることもあって、イラッとしちゃうわよ」
それから芳子は、その子供達のことだけでなく彼らの親や家族構成なんかまであれこれと説明してくれた。
久しぶりとは思えないほど自然体な芳子に、懐かしさと安堵が美羽の胸に込み上げてきた。
狭い廊下を通って芳子が扉を開け、リビングルームへと通される。
「あー、ごめんごめん。今、片付けるわぁ」
おむつ用のゴミ箱が大きく場所を占めているが、使っている感じはない。床には赤ちゃんが握って遊ぶガラガラの玩具、オーボールラトルが転がり、着せ替え人形と服があちこちに散乱し、テーブルの上には菓子パンの空き袋とミルクティーの入っていた空のペットボトルが置かれたままになっており、軽いカオス状態だ。書棚の本や雑誌は並べられているというより詰め込まれた、と言ったほうが正しいかもしれない。
よくいえば、生活感溢れる家といった印象だった。
以前、圭子の家を訪ねた時もこんな感じだったことを美羽は思い出した。子供をもつと、家の片付けなど構っていられなくなるのかもしれない。
リビングルームのラグの上にはプレイマットが置かれていた。布で包まれた棒が交差していて、棒にはいろんな素材や形のおもちゃがぶら下がっている。そこに転がされている赤ちゃんを見て、萌が興奮を含んだ奇声を発した。
「うっきゃーっっ! 赤たん、可愛いたーん❤️❤️
お名前はなんですかぁ?」
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる