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348.その日が、来るまで

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 シニアマンションを購入したのは、もちろん琴子をこの家から遠ざけるためだ。同居なんてことになって、美羽との秘密を詮索されたら堪らない。

 その為なら、シニアマンション一軒を丸ごと買収するなど安いものだ。

 琴子の気持ちはかなり傾いていた。あとは、義昭の妹夫婦をどう丸め込むかだ。

 香織と距離を近づけることによって美羽の嫉妬心を掻き立て、美羽から香織を遠ざけた。

 ミューは、僕のことだけ考えてればいい。何もいらない。
 僕だけ。

 ねぇ、そうでしょ?

 類はククッと笑って見せてから、眉を寄せ、顔を歪めた。

 それでも、まだ足りない。
 まだ美羽は、堕ちてくれない。

 もっと、もっと……更なる痛みが、必要なんだ。
 これから先、美羽が、類自身が受けるであろう苦しみを思うと、胸が引き裂かれんばかりの痛みに襲われる。

 ミュー、苦しいね。
 僕も……苦しいよ、辛い。

 ほんとはね、こんなことしたくない。
 美羽を蕩けるぐらい甘やかしたい、優しくしたい。愛したい。

 早く、この闇から抜け出したい。

 でも、ミューに手を伸ばせば伸ばすほど……拒絶するから。離れていくから。

 僕はミューを、更に追い詰めないといけなくなる。
 更なる絶望へと、引き込まないといけなくなるんだ。

 ミュー。君が僕を残酷にさせるんだよ。

 けど、この苦しみの先にはね……悦楽が待っているから。

 僕は、確信してる。

 ミューは、僕の足元で乞うんだ。
『類が欲しい』、と。

 その時、僕らはようやく繋がれるんだ。
 悲しい鎖によってね。

 その日が、もうすぐ来るよ。
 もうすぐね……

 シャワーを浴び、バスタオルで躰を拭き終えた美羽が、薔薇の香りのボディークリームをたっぷりと手に取った。丁寧に項から肩のデコルテ、ほっそりと伸びた腕、形のいい張りのあるバスト、キュッとくびれたウェストラインをマッサージしながらなぞっていく。

 触れたい。触れられたい……
 その肌の温もりを、感じたい。

 淫らな想像に、支配される。

 薔薇の芳香を纏わせた美羽の艶かしい匂いが、柔らかく滑らかな肌の感触が蘇ってくる。情欲に、突き動かされる。

 美羽が片脚を持ち上げ、足首から膝に向かって丹念にクリームを塗り込む。

 カメラは上に設置されているため、そこを覗き込むことは出来ない。けれど、類にははっきりとイメージすることが出来た。

「ッハア……ミュー」

 スウェットパンツの中に手を入れると、既に硬くなっている自身を感じた。グイとそれを取り出してパンツを引き下げると、冷たい外気に触れたにも関わらず、熱は高まる一方だ。

 画面の美羽は部屋着に着替えているが、類の脳裏にある彼女は裸のままだ。類の火照った猛りを華奢な手が握り、上下に扱いている。

 あぁっ、気持ち、いぃ……

 現実の類の手の動きが、激しく、強くなる。

『類、大好き……』

 愛しい美羽の声が、類の耳に官能的に響き渡って吐精欲を高める。

 あぁ、ミュー! ミューッ!!
 もっと……!!

 美羽が乱れた美しい濡羽色の髪を中指で掻き上げ、耳の輪郭をなぞるようにしてかける。上目遣いで情欲的に類を見つめ、唇を舐めてから淫らに大きく口を開けた。

 柔らかくねっとりとした温もりに包まれ、興奮が最高点に達する。類の腰が浮き上がり、ヒクヒクと痙攣し続ける。躰中の血液が沸騰しそうなぐらいに熱くなり、一気に中心へと流れ込んでいく。

 類は手の動きを一層速めた。

「ッッ!! ハァッ、ハァッ……あぁ!!
 ミュ、ミューッッ……ッック」

 ブルッと震えが走り、熱い白飛沫が勢いよく中心から吹き出す。快楽が全身を覆い込んで広がり……一気に沈んでいく。

 美羽は、画面から消えていた。

 残されたのは、手と腹に飛び散った白濁と虚しさだけだった。
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