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338.オカダと義昭の関係
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全ての食事を運び終え、最後に湯飲みを置く。
「じゃ、私はこれで……」
そう言いかけた美羽に、義昭が顔を上げた。
「そうだ。今日、アメリカ留学時代の友達から連絡があったんだ」
アメリカ留学時代と聞き、美羽の心臓がバクンと跳ねる。
これは、偶然なの!?
それとも義昭さんは、私を試しているの!?
鼓動が速まり、一気に背中を大量の冷や汗が伝う。美羽は無理やり口角を引き上げて尋ねた。
「そ、そう。それで?」
「明日、飲みに行かないかって誘ってきたんだ。ったく、あいつはいつも突然だからな」
義昭にそんな親しいアメリカ留学時代の友人がいたなんて、知らなかった。結婚式の招待者にも、留学時代の友人はいなかったはずだ。
もしかして、その友人って……オカダさんのこと?
これは、義昭が仕掛けた罠かもしれない。美羽が義昭のパソコンを見ていたことを知っていて、アメリカ留学時代のことを持ちかけたのかもしれない。
或いは、類が義昭にそうさせているのか。
適当に流して知らないフリを突き通すのか、それともこれを機に義昭に留学時代のことを聞き出すべきか……美羽の心が大きく揺れていた。
でも、このままじゃ何も進まない。
美羽はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「アメリカ留学時代の、友達って……どんな人?」
義昭は食事を始めながら、気軽に答えた。
「黒田って奴だよ。僕は夏季のみの短期留学だったんだが、黒田は1年間留学してたんだ。気楽な奴で、ふらりとアメリカ横断したり、南米に旅行に行ってたな」
普段は寡黙な義昭が、珍しくよく喋っている。こんなにプライベートな話をしたことなど、今までなかったのではないだろうか。
クロダさん……オカダさんとは名前も違うし、話から聞く印象も違う。別の、人なのかな。
類の秘密を暴くことができるかもしれないと期待していた胸が一気に萎んだ。
美羽の目の前に細く、今にも切れそうな危うい蜘蛛の糸がぶら下がっている。
それに、手を伸ばすべきなのか……
「義昭さんって……アメリカ留学時代は、日本人の友達とよく遊んでたの?」
少しずつ、核心に触れていく。
義昭は箸を置き、湯呑みに手を触れた。
「いや、僕は人付き合いが苦手だから。黒田はそういうのがないんだ、あいつは図々しいからな」
掴みかけた糸が、目の前から失くなってしまう。するすると天上へ引き上げられていく。焦燥が突き上げる。
お願い、待って!!
「オカダさんって人、いなかった?」
聞い、ちゃった……
美羽は、反射的に背中を向けた。
義昭の反応が怖くて、まともに顔が見られない。心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、バクバクと大きく鳴り響いている。
「オカダ?」
その声にそっと顔を向けると、思案顔をしている。
「オカダ、リョウジ……さん」
「うーん、知らないなぁ」
義昭の表情からは、嘘をついているようには見えない。
義昭が知らないとしたら、オカダリョウジはアメリカの大学の繋がりではないということなのだろうか。それとも、義昭が知らないだけなのだろうか。
類が日本にいる間の友人の繋がりなら、美羽は絶対に知っているはずだ。では、アメリカにいた時の職場の同僚とかなのだろうか。
考えれば考えるほどに、糸が絡まっていく。
それとも……オカダが類の『従者』だと言っていたということは、何か……怪しげな風俗や秘密クラブで出会ったのだろうか。
そうかもしれない。だって、類はあの動画で……
「その、オカダリョウジって誰なんだ?」
義昭に話しかけられ、美羽は現実へとグイと引き戻された。
もしかして、自分はとんでもない間違いを犯したのだろうか!?
あげるべきでなかった切り札を渡してしまったのだろうか!?
それとも……これも、類からの指示なのか。
「ぇ。あ、あの……その人が、義昭さんと同じアメリカの大学に行ってたって聞いたから、もしかしたら知ってるかと思って」
どこで会ったのか聞かれたらどうしようかとドキドキしたが、義昭に気にしている様子はない。
「そうなのか。まぁ僕がいたのは短期間だったし、大きい大学だから、同じ日本人っていったって知ってる人間なんて限られてるよ」
「そう、だよね……」
気落ちしていると、リビングの扉がカチャッと開いた。
「ッッ!!」
美羽の全身が総毛立つ。
「ただいまー」
類だ。玄関の扉が開いたことに、全然気づかなかった。
まだ義昭さんに、『類には言わないで』って口止めできてないのに。
そう焦る間もなく、
「おぉ、類。ちょうど良かった。
オカダって奴、知ってるか? 同じ大学にいたらしいんだけど」
義昭が類の顔を見た途端そう呼びかけ、美羽の全身が凍りつく。
「じゃ、私はこれで……」
そう言いかけた美羽に、義昭が顔を上げた。
「そうだ。今日、アメリカ留学時代の友達から連絡があったんだ」
アメリカ留学時代と聞き、美羽の心臓がバクンと跳ねる。
これは、偶然なの!?
それとも義昭さんは、私を試しているの!?
鼓動が速まり、一気に背中を大量の冷や汗が伝う。美羽は無理やり口角を引き上げて尋ねた。
「そ、そう。それで?」
「明日、飲みに行かないかって誘ってきたんだ。ったく、あいつはいつも突然だからな」
義昭にそんな親しいアメリカ留学時代の友人がいたなんて、知らなかった。結婚式の招待者にも、留学時代の友人はいなかったはずだ。
もしかして、その友人って……オカダさんのこと?
これは、義昭が仕掛けた罠かもしれない。美羽が義昭のパソコンを見ていたことを知っていて、アメリカ留学時代のことを持ちかけたのかもしれない。
或いは、類が義昭にそうさせているのか。
適当に流して知らないフリを突き通すのか、それともこれを機に義昭に留学時代のことを聞き出すべきか……美羽の心が大きく揺れていた。
でも、このままじゃ何も進まない。
美羽はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「アメリカ留学時代の、友達って……どんな人?」
義昭は食事を始めながら、気軽に答えた。
「黒田って奴だよ。僕は夏季のみの短期留学だったんだが、黒田は1年間留学してたんだ。気楽な奴で、ふらりとアメリカ横断したり、南米に旅行に行ってたな」
普段は寡黙な義昭が、珍しくよく喋っている。こんなにプライベートな話をしたことなど、今までなかったのではないだろうか。
クロダさん……オカダさんとは名前も違うし、話から聞く印象も違う。別の、人なのかな。
類の秘密を暴くことができるかもしれないと期待していた胸が一気に萎んだ。
美羽の目の前に細く、今にも切れそうな危うい蜘蛛の糸がぶら下がっている。
それに、手を伸ばすべきなのか……
「義昭さんって……アメリカ留学時代は、日本人の友達とよく遊んでたの?」
少しずつ、核心に触れていく。
義昭は箸を置き、湯呑みに手を触れた。
「いや、僕は人付き合いが苦手だから。黒田はそういうのがないんだ、あいつは図々しいからな」
掴みかけた糸が、目の前から失くなってしまう。するすると天上へ引き上げられていく。焦燥が突き上げる。
お願い、待って!!
「オカダさんって人、いなかった?」
聞い、ちゃった……
美羽は、反射的に背中を向けた。
義昭の反応が怖くて、まともに顔が見られない。心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、バクバクと大きく鳴り響いている。
「オカダ?」
その声にそっと顔を向けると、思案顔をしている。
「オカダ、リョウジ……さん」
「うーん、知らないなぁ」
義昭の表情からは、嘘をついているようには見えない。
義昭が知らないとしたら、オカダリョウジはアメリカの大学の繋がりではないということなのだろうか。それとも、義昭が知らないだけなのだろうか。
類が日本にいる間の友人の繋がりなら、美羽は絶対に知っているはずだ。では、アメリカにいた時の職場の同僚とかなのだろうか。
考えれば考えるほどに、糸が絡まっていく。
それとも……オカダが類の『従者』だと言っていたということは、何か……怪しげな風俗や秘密クラブで出会ったのだろうか。
そうかもしれない。だって、類はあの動画で……
「その、オカダリョウジって誰なんだ?」
義昭に話しかけられ、美羽は現実へとグイと引き戻された。
もしかして、自分はとんでもない間違いを犯したのだろうか!?
あげるべきでなかった切り札を渡してしまったのだろうか!?
それとも……これも、類からの指示なのか。
「ぇ。あ、あの……その人が、義昭さんと同じアメリカの大学に行ってたって聞いたから、もしかしたら知ってるかと思って」
どこで会ったのか聞かれたらどうしようかとドキドキしたが、義昭に気にしている様子はない。
「そうなのか。まぁ僕がいたのは短期間だったし、大きい大学だから、同じ日本人っていったって知ってる人間なんて限られてるよ」
「そう、だよね……」
気落ちしていると、リビングの扉がカチャッと開いた。
「ッッ!!」
美羽の全身が総毛立つ。
「ただいまー」
類だ。玄関の扉が開いたことに、全然気づかなかった。
まだ義昭さんに、『類には言わないで』って口止めできてないのに。
そう焦る間もなく、
「おぉ、類。ちょうど良かった。
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