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331.走り去る車
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車からの景色が、見慣れた街並みを映し出す。
ぁ、れ……
「ここ……」
美羽の呟きに、類がバックミラー越しに答える。
「最初にミューをおろすから」
「ぇ。どうして……!?」
類は同じ家に住んでいるのに、わざわざそんなことをすることの意味が、理解できなかった。
「まだ壁の落書きが残ったままなんだって。だから、かおりんの部屋を見せてもらって、何が必要なのか調べておこうと思って」
香織が振り返り、申し訳なさそうに説明する。
「今ね、あの落書きの上からポスターを貼って見えないようにしてるんだけど、アパートの引っ越しの前に大家さんに相談したら、自分で原状回復できるならそれでも大丈夫だって言われたの。もし業者さん入れて補修してもらうことになるとお金が凄くかかるし、あのまま引っ越しすると敷金が返ってこないどころか、余分に払うことになるかもしれないでしょ。そしたら、類くんがやってくれるって言ってくれたの。
自分でやれればいいんだけど、私、そういうの苦手でさ」
類とかおりんが、ふたりきりに……
「じゃ、じゃあ、私も行く!!」
そう思った途端、美羽は叫んでいた。
「ヨシがもうすぐ帰ってくるから、遅くなったら心配しちゃうよ」
美羽は、キリッと唇を噛んだ。
類。私が義昭さんを嫌悪しているのを知っているのに、そんなこと言うんだね。
類の言葉に、香織が頷く。
「そうだよ。私のせいで旦那さん待たせちゃったら悪いよ。
ちょっと類くん、借りるね」
類は、物なんかじゃない!! 貸してあげられるようなものじゃないのに……
けれど反論できない美羽は、頷くしかなかった。
美羽だけを降ろし、運転席の窓が開いた。
「じゃ、行ってくるね」
「う、ん……気を、つけて」
車が走り去るのを眺めながら、キリキリと胸が絞られるように痛い。
行かないで、類。私の元から、離れていかないで……
寂しい。寂しいよ……
昂ぶった感情を抑え込もうと、何度も深呼吸する。それから、重い足取りで玄関に向かった。
ぁ、れ……
「ここ……」
美羽の呟きに、類がバックミラー越しに答える。
「最初にミューをおろすから」
「ぇ。どうして……!?」
類は同じ家に住んでいるのに、わざわざそんなことをすることの意味が、理解できなかった。
「まだ壁の落書きが残ったままなんだって。だから、かおりんの部屋を見せてもらって、何が必要なのか調べておこうと思って」
香織が振り返り、申し訳なさそうに説明する。
「今ね、あの落書きの上からポスターを貼って見えないようにしてるんだけど、アパートの引っ越しの前に大家さんに相談したら、自分で原状回復できるならそれでも大丈夫だって言われたの。もし業者さん入れて補修してもらうことになるとお金が凄くかかるし、あのまま引っ越しすると敷金が返ってこないどころか、余分に払うことになるかもしれないでしょ。そしたら、類くんがやってくれるって言ってくれたの。
自分でやれればいいんだけど、私、そういうの苦手でさ」
類とかおりんが、ふたりきりに……
「じゃ、じゃあ、私も行く!!」
そう思った途端、美羽は叫んでいた。
「ヨシがもうすぐ帰ってくるから、遅くなったら心配しちゃうよ」
美羽は、キリッと唇を噛んだ。
類。私が義昭さんを嫌悪しているのを知っているのに、そんなこと言うんだね。
類の言葉に、香織が頷く。
「そうだよ。私のせいで旦那さん待たせちゃったら悪いよ。
ちょっと類くん、借りるね」
類は、物なんかじゃない!! 貸してあげられるようなものじゃないのに……
けれど反論できない美羽は、頷くしかなかった。
美羽だけを降ろし、運転席の窓が開いた。
「じゃ、行ってくるね」
「う、ん……気を、つけて」
車が走り去るのを眺めながら、キリキリと胸が絞られるように痛い。
行かないで、類。私の元から、離れていかないで……
寂しい。寂しいよ……
昂ぶった感情を抑え込もうと、何度も深呼吸する。それから、重い足取りで玄関に向かった。
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