【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

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326.類への疑い

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「類くんに、美羽が不安になるから言わない方がいいって言われて。その時はそうだなって思ったんだけど、ランチ休憩の時に美羽が心配してる顔を見て、やっぱりちゃんと話さないとって思い直したんだよ? でも、タイミング逃しちゃって……」

 あの時……
 かおりんが、『あ、あのね……美羽』そう話しかけた時、かおりんは監視カメラのことを話そうとしてたんだ。

「スキーでペンション泊まってたでしょ。そこで夜、みんなで集まって喋ってた時に、嫌がらせを受けてる話したんだ。類くんから、部屋に監視カメラをつけた方がいいんじゃないかってアドバイスされたんだけど……その時はまだ郵便ポストとか家の外でのことだったから、そこまでやる必要ないって考えてたんだよね。

 そしたら、家に帰ってきたら壁に落書きがされてたでしょ? その時、犯人が藤岡の奥さんなんじゃないかって疑ったの。だって、家に侵入していながら何も盗られてなかったし、私のこと知ってて恨んでるみたいな文字が書かれてたし……藤岡の反応も、普通じゃなかった。藤岡も薄々、私への嫌がらせしてるのが奥さんなんじゃないかって考えたんだと思う。

 ほんとは私、嫌がらせされてからすぐに、藤岡の奥さんが犯人じゃないかって考えが頭を過ってた。でもそれを肯定したら、藤岡との関係が終わってしまう気がして。だから、監視カメラをつけるのを躊躇ってた……」

 かおりんも藤岡先生の奥さんが犯人じゃないかって疑ってたんだ。そうだよね……誰に恨まれてるかなんて、本人であるかおりんが一番分かってるよね。
 もし奥さんにふたりの関係がバレているなら、別れを決意しなければならない。そのことに目を向けたくなくて、かおりんは監視カメラをつけるのを躊躇ってたんだ。

 そうまでして、藤岡先生との関係を壊したくなかったんだ。

 香織のことが心配だからと藤岡と早く別れればいいのにと思っていたが、彼女の心情を思うと胸が苦しくなった。

「鍵を替えれば嫌がらせ出来なくなるって考えたけど、それでも嫌がらせが続いて、藤岡の奥さんが犯人かもって疑念が……確信に変わったの。藤岡に合鍵渡してたから、たぶんそれを使って侵入したんだと思う。

 どうしていいか分からなくて悩んでた時に、ペンションで言われた類くんの言葉を思い出して、相談することにしたんだ。やっぱり監視カメラをつけるべきだって言われても、まだ迷ってた。そんな私に、これ以上嫌がらせがエスカレートしたら身の危険に及ぶことになるかもしれないって類くんが説得して、ようやくカメラをつけることを決意したの。

「ごめんね……美羽に、ちゃんと話しておけば良かった」
 
 香織と同様に類もまた、美羽に申し訳なさそうな表情を向けた。

「僕もまさか、あの人が直接乗り込んでくるなんて思ってもみなかったからさ。ミューに話しておけばよかったよね。ミューを危険な目にあわせて、ごめん」

 美羽は、類を不安げに見返した。



 本当に、ただの偶然なの!?
 今朝、監視カメラをセッティングして、お昼には藤岡先生の奥さんが乗り込んでくるなんて、タイミングが良すぎる。

 まさか……全て、類が仕組んだってことはないよね!?



 香織が唇を震わせ、瞳を潤ませた。

「ほん、とに……類くん、ありがとう。類くんがいなかったら、私……奥さんの言うがままになってた。
 ずっと、藤岡の奥さんに不倫してるのが分かったらって、怯えてたから」

 いつも明るく頼りになる香織が見せた弱気な部分に、美羽の胸が絞られる。香織が涙ぐむのを見たのは、これが初めてだった。

 かおりん、藤岡先生のことを本気で愛してたんだ。ずっと、奥さんに知られるかもしれない不安を抱えながらも、それでも彼への想いから、離れられずにいたんだ。

 類が香織に向かって優しく微笑み、目尻の涙をそっと指で拭った。

「香織さん、自分を責めないで。香織さんは、ただ純粋に藤岡先生を好きだっただけなんだから。
 それに、いくら不倫してたからって、不倫相手にあんな悪どい嫌がらせするなんてさ、ありえないよ」

 美羽も香織が藤岡の妻から訴えられることなく、これから嫌がらせされることもなくなったことについて安堵した。

 だが、類が香織に向ける優しさに、つい嫉妬してしまう。傷ついた香織を慰めているだけだと分かっているのに、その視線を、言葉を、指の温もりを、自分に向けて欲しいと願ってしまう。

 心に芽吹いたモヤモヤは今や大きく成長し、美羽の心を暗く覆っていた。 
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