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325.波立つ心
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それから1時間半ほど経ち、カフェタイムに入って客足が落ち着いた頃、香織と類だけが戻ってきた。香織の頬や首には、ひっかき傷の痕が生々しく残っていた。
客が減り、既に注文したものも全て出し終わっていたため会計を先に済ませてもらい、クローズの札をドアノブに掛けておき、従業員控室に全員で集まることとなった。
「もう、解決したから」
そう告げた類の後から、香織は深々とみんなに頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けして……本当に、申し訳ありませんでした」
重い空気が流れる中、浩平が明るく返した。
「いっやー、香織姉さんのバトル、見ものだったっすよ!」
「浩平! お前はもう喋るな」
隼斗が浩平に一喝してから、香織に向き直る。
「お客様には、後で俺からも謝罪して、お詫びにデザートを出しておいた。いくら向こうが乗り込んできたとはいえ、お客様の前で喧嘩するべきじゃないことは分かるだろう」
香織はしおらしいほどに、項垂れた。
「はい……本当に、すみませんでした」
香織は下を向いたまま、肩を震わせた。
「み、んな……もう知ってるかと思う、けど。私、不倫してたの。相手の奥さんが怒るの、当然だよね。私、サイテーなことしてた。
もう、藤岡とは別れる。これで、ほんとに決心ついたから」
「かお、りん……」
香織の身を案じて藤岡と別れてほしいとは思っていたが、いざ彼女の決断を聞いたら胸がキリキリと痛んだ。
大学を卒業してからずっと藤岡と付き合ってきた香織。きっと、ふたりにしか分からない大切な思い出を、これまでたくさん積み上げてきたことだろう。
確かに、世間では不倫は許されないことかもしれない。だが、香織の気持ちを思うと辛くなった。
自分と類との関係に、どうしても重ねてしまうから……
萌がパチパチと手を叩いた。
「かおたん、不倫清算してえらーい!!
大丈夫♪ かおたんほどの美人さんなら、すぐに新しい彼氏できるたーん」
「かおたんって呼ばないで」
香織はムスッとした表情を萌に見せてから、プッと笑った。傷心ではあるだろうが、笑顔を見せられることに美羽はホッとした。
やはり、香織は強い女性だ。
「それ、で……相手の女性から、慰謝料の請求はされたのか?」
隼斗が珍しくプライベートに踏み込んだ質問をした。おそらく、慰謝料の請求額によっては、給料の前払い等で香織を助けるつもりで尋ねたのだろう。
香織は唇をキュッと結んでから、おずおずと答えた。
「実、は……最初、慰謝料として1000万請求されたんだけど……」
『い、1000万!?』
予想外の大金に、香織と類以外の全員が声を上げた。
「うん……でも、類くんがあの嫌がらせの犯人が藤岡の奥さんだったって証拠を見せて、逆にこちらが彼女を訴えることも出来るって脅し……話したら、相手が慰謝料請求を取り下げてくれたの」
ぇ。
美羽の顔色が変わった。やはり藤岡の妻が犯人だったと思うよりも早く、なぜ類がそんなことが出来たのかという疑問が浮かび上がった。
「どう、やって?」
香織は気まずそうに美羽から視線を逸し、話し始めた。
「実は……今朝ね、仕事に行く前に類くんが監視カメラを持って訪ねてきて、セッティングまでしてくれたの。アプリをスマホに入れてくれたんだけど、類くんは説明は後でするって先に職場に行っちゃったから、操作することはなかった。
藤岡先生の奥さんが店に乗り込んできた後、類くんと3人での話し合いになった時、類くんが私のスマホを操作して、監視カメラのアプリを見せてくれたの。
まさか監視カメラつけてすぐに、あの人が映ってるなんて思ってなかったから、ほんとにビックリしたけど」
「どうして、監視カメラのこと教えてくれなかったの!?」
美羽は、つい責めるような口調になってしまった。
今日、お昼休憩の時にだって話すことができたはずなのに……
香織が自分の知らない間に類に相談し、監視カメラまで設置していたことを聞き、美羽の心は大きく波立っていた。
客が減り、既に注文したものも全て出し終わっていたため会計を先に済ませてもらい、クローズの札をドアノブに掛けておき、従業員控室に全員で集まることとなった。
「もう、解決したから」
そう告げた類の後から、香織は深々とみんなに頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けして……本当に、申し訳ありませんでした」
重い空気が流れる中、浩平が明るく返した。
「いっやー、香織姉さんのバトル、見ものだったっすよ!」
「浩平! お前はもう喋るな」
隼斗が浩平に一喝してから、香織に向き直る。
「お客様には、後で俺からも謝罪して、お詫びにデザートを出しておいた。いくら向こうが乗り込んできたとはいえ、お客様の前で喧嘩するべきじゃないことは分かるだろう」
香織はしおらしいほどに、項垂れた。
「はい……本当に、すみませんでした」
香織は下を向いたまま、肩を震わせた。
「み、んな……もう知ってるかと思う、けど。私、不倫してたの。相手の奥さんが怒るの、当然だよね。私、サイテーなことしてた。
もう、藤岡とは別れる。これで、ほんとに決心ついたから」
「かお、りん……」
香織の身を案じて藤岡と別れてほしいとは思っていたが、いざ彼女の決断を聞いたら胸がキリキリと痛んだ。
大学を卒業してからずっと藤岡と付き合ってきた香織。きっと、ふたりにしか分からない大切な思い出を、これまでたくさん積み上げてきたことだろう。
確かに、世間では不倫は許されないことかもしれない。だが、香織の気持ちを思うと辛くなった。
自分と類との関係に、どうしても重ねてしまうから……
萌がパチパチと手を叩いた。
「かおたん、不倫清算してえらーい!!
大丈夫♪ かおたんほどの美人さんなら、すぐに新しい彼氏できるたーん」
「かおたんって呼ばないで」
香織はムスッとした表情を萌に見せてから、プッと笑った。傷心ではあるだろうが、笑顔を見せられることに美羽はホッとした。
やはり、香織は強い女性だ。
「それ、で……相手の女性から、慰謝料の請求はされたのか?」
隼斗が珍しくプライベートに踏み込んだ質問をした。おそらく、慰謝料の請求額によっては、給料の前払い等で香織を助けるつもりで尋ねたのだろう。
香織は唇をキュッと結んでから、おずおずと答えた。
「実、は……最初、慰謝料として1000万請求されたんだけど……」
『い、1000万!?』
予想外の大金に、香織と類以外の全員が声を上げた。
「うん……でも、類くんがあの嫌がらせの犯人が藤岡の奥さんだったって証拠を見せて、逆にこちらが彼女を訴えることも出来るって脅し……話したら、相手が慰謝料請求を取り下げてくれたの」
ぇ。
美羽の顔色が変わった。やはり藤岡の妻が犯人だったと思うよりも早く、なぜ類がそんなことが出来たのかという疑問が浮かび上がった。
「どう、やって?」
香織は気まずそうに美羽から視線を逸し、話し始めた。
「実は……今朝ね、仕事に行く前に類くんが監視カメラを持って訪ねてきて、セッティングまでしてくれたの。アプリをスマホに入れてくれたんだけど、類くんは説明は後でするって先に職場に行っちゃったから、操作することはなかった。
藤岡先生の奥さんが店に乗り込んできた後、類くんと3人での話し合いになった時、類くんが私のスマホを操作して、監視カメラのアプリを見せてくれたの。
まさか監視カメラつけてすぐに、あの人が映ってるなんて思ってなかったから、ほんとにビックリしたけど」
「どうして、監視カメラのこと教えてくれなかったの!?」
美羽は、つい責めるような口調になってしまった。
今日、お昼休憩の時にだって話すことができたはずなのに……
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