323 / 498
317.義妹からの電話
しおりを挟む
琴子は全員に湯呑みと茶菓子を配り終えると、当然のように義昭の隣に座った。後ろから来た類が、美羽の隣に座る。
琴子は隣り合って座る美羽と類を見比べ、フフッと思い出し笑いをした。
「まったく、びっくりしたわ。美羽さんが帰ってきたのかしらって思ったら、類くんが玄関に立ってるんですものぉ。双子とはいえ、ふたりってほんとにそっくりねぇ。美羽さんが男性になったら、こんな美男子になるなんて、フフフッ」
「ヨシママ、さっきからそればっかり」
「だってぇ、ほんとのことですものぉ!」
琴子はまるで女学生のようにはしゃいでいる。大作に離婚を突きつけた時の鬼気迫る彼女とは、まったく別の顔だ。
それにしても、類は生来の人たらしであることを痛いほどに感じた。学生の頃、どれだけ彼にいいよる女子たちに冷酷に対応しても人気が絶えなかったこともそうだし、今だって会ったばかりの琴子をもう取り込んでしまっている。
オカダさんも、そうだ。彼は、まるで類が教祖であるかのように崇拝し、自らを類の従者だって名乗っていた。
琴子と類のやりとりに入ることが出来ず、美羽は黙って話を聞いていた。こんな風に楽しく琴子と話をしたことなど、義昭と結婚してから一度としてなかった。
類が、猫目の大きな瞳を美羽に向けた。
「それで? 母さんたちは元気だった?」
「う、うん……」
この場で教団で何があったのかなど言えるはずもなく、曖昧に答えると、琴子がハッと目を見開いた。
「類くん!! あなたのお母さんでもあるのに、会いに行かなくて良かったの!? 友達とスキーになんて行ってる場合じゃないでしょう!」
琴子に痛いところを突かれ、美羽の心臓がキュッと掴まれる。
「ははっ。いいんですよ、僕は。
母に、嫌われてますから」
類は少し寂しげな笑みを琴子に見せた。
「息子を嫌う母親なんて、世の中にいるはずないでしょう! 私なんか、目に入れても痛くない存在なのに!!」
目の前で親バカ発言をされ、さすがの義昭も「か、母さんっっ!!」と、顔を赤らめた。
だが、類の表情から笑みは消えていた。
「世の中には、いるんですよ……息子を嫌う、母親も。たとえお腹を痛めて産んでも、我が子を愛することができない親が、ね」
美羽の背中がゾクリと震えた。
だから……お母さんを、貶めるつもりなの!?
家の電話が鳴り、美羽は立ち上がった。何事もなかったかのように和やかな表情に類が戻り、琴子に何か話しかけている。
美羽はそんな3人の話し声を背中に聞きながら、受話器を取った。
「もしもし……」
『あー、美羽さぁん! よかったぁ、あいつじゃなくて。ね、お母さんいる?』
「お、義母さんですね。少々お待ちください」
受話器から耳を外して琴子を見つめて手招きすると、琴子が立ち上がった。
「美羽さん、誰から?」
「圭子さんから、です」
琴子は類との会話を中断されて少し不満げな表情を見せたものの、受話器を受け取った。
「圭子、あなた晃さんの実家にいるんじゃないの?
……えっ!? 帰ってきたって、どういうこと!?
えぇっ!? 家の前に、ほのかって……ちょ、ちょっと、そんなの困るわよ!!」
側に立って琴子の会話を聞いていた美羽は顔を青褪め、玄関へと駆け出した。
急いでサンダルをつっかけ、扉を開けると、アプローチの先の門扉の前に、ほのかが立っていた。
だが、圭子の姿はどこにもない。
そ、んな……
ほのかが美羽を見上げた。
「ママ、どこー?」
ほのかはこの寒空の下、ジャケットすら着ておらず、荷物も置かれていない。状況がまったく把握できていないほのかに胸を痛めつつ、圭子への怒りがフツフツと湧いてくる。
うちに預けるなら預けるで、挨拶ぐらいして行くのが普通じゃないの!?
こんな、置き去りみたいな真似……許せない。
琴子は隣り合って座る美羽と類を見比べ、フフッと思い出し笑いをした。
「まったく、びっくりしたわ。美羽さんが帰ってきたのかしらって思ったら、類くんが玄関に立ってるんですものぉ。双子とはいえ、ふたりってほんとにそっくりねぇ。美羽さんが男性になったら、こんな美男子になるなんて、フフフッ」
「ヨシママ、さっきからそればっかり」
「だってぇ、ほんとのことですものぉ!」
琴子はまるで女学生のようにはしゃいでいる。大作に離婚を突きつけた時の鬼気迫る彼女とは、まったく別の顔だ。
それにしても、類は生来の人たらしであることを痛いほどに感じた。学生の頃、どれだけ彼にいいよる女子たちに冷酷に対応しても人気が絶えなかったこともそうだし、今だって会ったばかりの琴子をもう取り込んでしまっている。
オカダさんも、そうだ。彼は、まるで類が教祖であるかのように崇拝し、自らを類の従者だって名乗っていた。
琴子と類のやりとりに入ることが出来ず、美羽は黙って話を聞いていた。こんな風に楽しく琴子と話をしたことなど、義昭と結婚してから一度としてなかった。
類が、猫目の大きな瞳を美羽に向けた。
「それで? 母さんたちは元気だった?」
「う、うん……」
この場で教団で何があったのかなど言えるはずもなく、曖昧に答えると、琴子がハッと目を見開いた。
「類くん!! あなたのお母さんでもあるのに、会いに行かなくて良かったの!? 友達とスキーになんて行ってる場合じゃないでしょう!」
琴子に痛いところを突かれ、美羽の心臓がキュッと掴まれる。
「ははっ。いいんですよ、僕は。
母に、嫌われてますから」
類は少し寂しげな笑みを琴子に見せた。
「息子を嫌う母親なんて、世の中にいるはずないでしょう! 私なんか、目に入れても痛くない存在なのに!!」
目の前で親バカ発言をされ、さすがの義昭も「か、母さんっっ!!」と、顔を赤らめた。
だが、類の表情から笑みは消えていた。
「世の中には、いるんですよ……息子を嫌う、母親も。たとえお腹を痛めて産んでも、我が子を愛することができない親が、ね」
美羽の背中がゾクリと震えた。
だから……お母さんを、貶めるつもりなの!?
家の電話が鳴り、美羽は立ち上がった。何事もなかったかのように和やかな表情に類が戻り、琴子に何か話しかけている。
美羽はそんな3人の話し声を背中に聞きながら、受話器を取った。
「もしもし……」
『あー、美羽さぁん! よかったぁ、あいつじゃなくて。ね、お母さんいる?』
「お、義母さんですね。少々お待ちください」
受話器から耳を外して琴子を見つめて手招きすると、琴子が立ち上がった。
「美羽さん、誰から?」
「圭子さんから、です」
琴子は類との会話を中断されて少し不満げな表情を見せたものの、受話器を受け取った。
「圭子、あなた晃さんの実家にいるんじゃないの?
……えっ!? 帰ってきたって、どういうこと!?
えぇっ!? 家の前に、ほのかって……ちょ、ちょっと、そんなの困るわよ!!」
側に立って琴子の会話を聞いていた美羽は顔を青褪め、玄関へと駆け出した。
急いでサンダルをつっかけ、扉を開けると、アプローチの先の門扉の前に、ほのかが立っていた。
だが、圭子の姿はどこにもない。
そ、んな……
ほのかが美羽を見上げた。
「ママ、どこー?」
ほのかはこの寒空の下、ジャケットすら着ておらず、荷物も置かれていない。状況がまったく把握できていないほのかに胸を痛めつつ、圭子への怒りがフツフツと湧いてくる。
うちに預けるなら預けるで、挨拶ぐらいして行くのが普通じゃないの!?
こんな、置き去りみたいな真似……許せない。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる