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317.義妹からの電話
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琴子は全員に湯呑みと茶菓子を配り終えると、当然のように義昭の隣に座った。後ろから来た類が、美羽の隣に座る。
琴子は隣り合って座る美羽と類を見比べ、フフッと思い出し笑いをした。
「まったく、びっくりしたわ。美羽さんが帰ってきたのかしらって思ったら、類くんが玄関に立ってるんですものぉ。双子とはいえ、ふたりってほんとにそっくりねぇ。美羽さんが男性になったら、こんな美男子になるなんて、フフフッ」
「ヨシママ、さっきからそればっかり」
「だってぇ、ほんとのことですものぉ!」
琴子はまるで女学生のようにはしゃいでいる。大作に離婚を突きつけた時の鬼気迫る彼女とは、まったく別の顔だ。
それにしても、類は生来の人たらしであることを痛いほどに感じた。学生の頃、どれだけ彼にいいよる女子たちに冷酷に対応しても人気が絶えなかったこともそうだし、今だって会ったばかりの琴子をもう取り込んでしまっている。
オカダさんも、そうだ。彼は、まるで類が教祖であるかのように崇拝し、自らを類の従者だって名乗っていた。
琴子と類のやりとりに入ることが出来ず、美羽は黙って話を聞いていた。こんな風に楽しく琴子と話をしたことなど、義昭と結婚してから一度としてなかった。
類が、猫目の大きな瞳を美羽に向けた。
「それで? 母さんたちは元気だった?」
「う、うん……」
この場で教団で何があったのかなど言えるはずもなく、曖昧に答えると、琴子がハッと目を見開いた。
「類くん!! あなたのお母さんでもあるのに、会いに行かなくて良かったの!? 友達とスキーになんて行ってる場合じゃないでしょう!」
琴子に痛いところを突かれ、美羽の心臓がキュッと掴まれる。
「ははっ。いいんですよ、僕は。
母に、嫌われてますから」
類は少し寂しげな笑みを琴子に見せた。
「息子を嫌う母親なんて、世の中にいるはずないでしょう! 私なんか、目に入れても痛くない存在なのに!!」
目の前で親バカ発言をされ、さすがの義昭も「か、母さんっっ!!」と、顔を赤らめた。
だが、類の表情から笑みは消えていた。
「世の中には、いるんですよ……息子を嫌う、母親も。たとえお腹を痛めて産んでも、我が子を愛することができない親が、ね」
美羽の背中がゾクリと震えた。
だから……お母さんを、貶めるつもりなの!?
家の電話が鳴り、美羽は立ち上がった。何事もなかったかのように和やかな表情に類が戻り、琴子に何か話しかけている。
美羽はそんな3人の話し声を背中に聞きながら、受話器を取った。
「もしもし……」
『あー、美羽さぁん! よかったぁ、あいつじゃなくて。ね、お母さんいる?』
「お、義母さんですね。少々お待ちください」
受話器から耳を外して琴子を見つめて手招きすると、琴子が立ち上がった。
「美羽さん、誰から?」
「圭子さんから、です」
琴子は類との会話を中断されて少し不満げな表情を見せたものの、受話器を受け取った。
「圭子、あなた晃さんの実家にいるんじゃないの?
……えっ!? 帰ってきたって、どういうこと!?
えぇっ!? 家の前に、ほのかって……ちょ、ちょっと、そんなの困るわよ!!」
側に立って琴子の会話を聞いていた美羽は顔を青褪め、玄関へと駆け出した。
急いでサンダルをつっかけ、扉を開けると、アプローチの先の門扉の前に、ほのかが立っていた。
だが、圭子の姿はどこにもない。
そ、んな……
ほのかが美羽を見上げた。
「ママ、どこー?」
ほのかはこの寒空の下、ジャケットすら着ておらず、荷物も置かれていない。状況がまったく把握できていないほのかに胸を痛めつつ、圭子への怒りがフツフツと湧いてくる。
うちに預けるなら預けるで、挨拶ぐらいして行くのが普通じゃないの!?
こんな、置き去りみたいな真似……許せない。
琴子は隣り合って座る美羽と類を見比べ、フフッと思い出し笑いをした。
「まったく、びっくりしたわ。美羽さんが帰ってきたのかしらって思ったら、類くんが玄関に立ってるんですものぉ。双子とはいえ、ふたりってほんとにそっくりねぇ。美羽さんが男性になったら、こんな美男子になるなんて、フフフッ」
「ヨシママ、さっきからそればっかり」
「だってぇ、ほんとのことですものぉ!」
琴子はまるで女学生のようにはしゃいでいる。大作に離婚を突きつけた時の鬼気迫る彼女とは、まったく別の顔だ。
それにしても、類は生来の人たらしであることを痛いほどに感じた。学生の頃、どれだけ彼にいいよる女子たちに冷酷に対応しても人気が絶えなかったこともそうだし、今だって会ったばかりの琴子をもう取り込んでしまっている。
オカダさんも、そうだ。彼は、まるで類が教祖であるかのように崇拝し、自らを類の従者だって名乗っていた。
琴子と類のやりとりに入ることが出来ず、美羽は黙って話を聞いていた。こんな風に楽しく琴子と話をしたことなど、義昭と結婚してから一度としてなかった。
類が、猫目の大きな瞳を美羽に向けた。
「それで? 母さんたちは元気だった?」
「う、うん……」
この場で教団で何があったのかなど言えるはずもなく、曖昧に答えると、琴子がハッと目を見開いた。
「類くん!! あなたのお母さんでもあるのに、会いに行かなくて良かったの!? 友達とスキーになんて行ってる場合じゃないでしょう!」
琴子に痛いところを突かれ、美羽の心臓がキュッと掴まれる。
「ははっ。いいんですよ、僕は。
母に、嫌われてますから」
類は少し寂しげな笑みを琴子に見せた。
「息子を嫌う母親なんて、世の中にいるはずないでしょう! 私なんか、目に入れても痛くない存在なのに!!」
目の前で親バカ発言をされ、さすがの義昭も「か、母さんっっ!!」と、顔を赤らめた。
だが、類の表情から笑みは消えていた。
「世の中には、いるんですよ……息子を嫌う、母親も。たとえお腹を痛めて産んでも、我が子を愛することができない親が、ね」
美羽の背中がゾクリと震えた。
だから……お母さんを、貶めるつもりなの!?
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美羽はそんな3人の話し声を背中に聞きながら、受話器を取った。
「もしもし……」
『あー、美羽さぁん! よかったぁ、あいつじゃなくて。ね、お母さんいる?』
「お、義母さんですね。少々お待ちください」
受話器から耳を外して琴子を見つめて手招きすると、琴子が立ち上がった。
「美羽さん、誰から?」
「圭子さんから、です」
琴子は類との会話を中断されて少し不満げな表情を見せたものの、受話器を受け取った。
「圭子、あなた晃さんの実家にいるんじゃないの?
……えっ!? 帰ってきたって、どういうこと!?
えぇっ!? 家の前に、ほのかって……ちょ、ちょっと、そんなの困るわよ!!」
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急いでサンダルをつっかけ、扉を開けると、アプローチの先の門扉の前に、ほのかが立っていた。
だが、圭子の姿はどこにもない。
そ、んな……
ほのかが美羽を見上げた。
「ママ、どこー?」
ほのかはこの寒空の下、ジャケットすら着ておらず、荷物も置かれていない。状況がまったく把握できていないほのかに胸を痛めつつ、圭子への怒りがフツフツと湧いてくる。
うちに預けるなら預けるで、挨拶ぐらいして行くのが普通じゃないの!?
こんな、置き去りみたいな真似……許せない。
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