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314.教団を操る影の存在
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見慣れた玄関の門が視界に入り、美羽はほっと息を吐いた。こんなに我が家が愛しく懐かしく思う瞬間は、それほどない。
美羽は疲弊しきっていた。
「家に帰ったらゆっくり休め。何かあれば、連絡してくれ」
隼斗の言葉に無言で頷く。
帰りの車中で聞いたところ、男性側の大部屋でも例のお神酒が配られたということだった。
もちろん、鼻に近づけた途端に異物が混入していることに気づいた隼斗は口をつけることはしなかった。そのため、何が入っているかの特定までは出来なかったという。
『おそらく、きのこの一種だと思うが……きのこの類には、覚醒作用や幻覚作用を持つものもあるからな』
眉を寄せた隼斗は、考え込むように答えた。
大祈祷祭でお神酒を飲んだ時に感じた気持ち悪さと吐き気、目眩……そして信者たちがとった奇妙な行動を考えると、真実味がある。
もし、そんな恐ろしいものを信者が……お母さんが常用していたら、精神を病んでしまうんじゃ。
いったい、教団では何が起こっているんだろう……
正義感の強い隼斗は、教団施設を出た足で警察に行き、このことを伝えると主張したが、美羽は必死に反対した。
まだ本当に教祖の高槻がそういったドラッグを使っているかどうかの証拠もないし、もしこれに幹部である母たちも噛んでいるのなら……彼らは、犯罪者として捕まってしまう。
美羽が恐れているのは、それだけではない。
このことを警察に知らせたのが隼斗と美羽だと華江に知られてしまったら、自暴自棄になった彼女が類と美羽の禁断の関係を世間にバラす可能性だってある。母親が犯罪者のうえ、自分たちもマスコミの餌食になったらと考えたら、全身に震えが走った。
美羽の真意を知らない隼斗は納得いかないようだったが、教団が使っているのがどんなものなのかも、どんな目的で使っているのかも分からないこと、そして美羽の母親への思いを汲み取り、警察に行くことはしなかった。
『でも、放置しておくわけにはいかない。あのお神酒がドラッグだという証拠が手に入ったら、俺は警察に知らせる。
手遅れになる前に、親父とあの人を教団施設から連れ出すことを考えないとな。それに、何も知らない他の信者たちも』
隼斗の言葉に、美羽の気持ちが重くなる。
もし母がお神酒がドラッグだと知らないとして、美羽がそれを説明し、教団を抜け出そうと説得したところで、絶対に納得してくれないだろう。それどころか、教祖である高槻を侮辱したと、怒り狂うに違いない。それほどに母が高槻に傾倒し、盲信していることは、ヒシヒシと感じていた。
だったら、私に何が出来るの?
部外者である、私が……
教団施設で会った、リョウのことが頭に浮かんだ。
類の指示により、教団に潜入しているオカダさん。内通者である彼なら、何か分かるはず。
そう考えた美羽は、ある仮説が浮かび、ブルッと震えた。
先生が使用しているドラッグが、類の手引きによって手に入ったものだったとしたら?
それを使って、お母さんを教団に留めるようにさせている、或いは犯罪者に仕立て上げようとしているのだとしたら?
ーー私を、手に入れるために。
そんな恐ろしいこと、するはずがない。
そう否定しても、もうひとりの自分が嘲笑う。
あの時はパニック状態になっていたため考えられなかったが、今にして思うとリョウが解毒剤を持っていたのは、お神酒の成分が分かっていたからこそ渡せたのだ。ということは、その裏では類が手を引いていることになる。
分かっていたはず……類とは、そういう人間。
実の母親さえも、貶められる人間なのだ。
美羽は疲弊しきっていた。
「家に帰ったらゆっくり休め。何かあれば、連絡してくれ」
隼斗の言葉に無言で頷く。
帰りの車中で聞いたところ、男性側の大部屋でも例のお神酒が配られたということだった。
もちろん、鼻に近づけた途端に異物が混入していることに気づいた隼斗は口をつけることはしなかった。そのため、何が入っているかの特定までは出来なかったという。
『おそらく、きのこの一種だと思うが……きのこの類には、覚醒作用や幻覚作用を持つものもあるからな』
眉を寄せた隼斗は、考え込むように答えた。
大祈祷祭でお神酒を飲んだ時に感じた気持ち悪さと吐き気、目眩……そして信者たちがとった奇妙な行動を考えると、真実味がある。
もし、そんな恐ろしいものを信者が……お母さんが常用していたら、精神を病んでしまうんじゃ。
いったい、教団では何が起こっているんだろう……
正義感の強い隼斗は、教団施設を出た足で警察に行き、このことを伝えると主張したが、美羽は必死に反対した。
まだ本当に教祖の高槻がそういったドラッグを使っているかどうかの証拠もないし、もしこれに幹部である母たちも噛んでいるのなら……彼らは、犯罪者として捕まってしまう。
美羽が恐れているのは、それだけではない。
このことを警察に知らせたのが隼斗と美羽だと華江に知られてしまったら、自暴自棄になった彼女が類と美羽の禁断の関係を世間にバラす可能性だってある。母親が犯罪者のうえ、自分たちもマスコミの餌食になったらと考えたら、全身に震えが走った。
美羽の真意を知らない隼斗は納得いかないようだったが、教団が使っているのがどんなものなのかも、どんな目的で使っているのかも分からないこと、そして美羽の母親への思いを汲み取り、警察に行くことはしなかった。
『でも、放置しておくわけにはいかない。あのお神酒がドラッグだという証拠が手に入ったら、俺は警察に知らせる。
手遅れになる前に、親父とあの人を教団施設から連れ出すことを考えないとな。それに、何も知らない他の信者たちも』
隼斗の言葉に、美羽の気持ちが重くなる。
もし母がお神酒がドラッグだと知らないとして、美羽がそれを説明し、教団を抜け出そうと説得したところで、絶対に納得してくれないだろう。それどころか、教祖である高槻を侮辱したと、怒り狂うに違いない。それほどに母が高槻に傾倒し、盲信していることは、ヒシヒシと感じていた。
だったら、私に何が出来るの?
部外者である、私が……
教団施設で会った、リョウのことが頭に浮かんだ。
類の指示により、教団に潜入しているオカダさん。内通者である彼なら、何か分かるはず。
そう考えた美羽は、ある仮説が浮かび、ブルッと震えた。
先生が使用しているドラッグが、類の手引きによって手に入ったものだったとしたら?
それを使って、お母さんを教団に留めるようにさせている、或いは犯罪者に仕立て上げようとしているのだとしたら?
ーー私を、手に入れるために。
そんな恐ろしいこと、するはずがない。
そう否定しても、もうひとりの自分が嘲笑う。
あの時はパニック状態になっていたため考えられなかったが、今にして思うとリョウが解毒剤を持っていたのは、お神酒の成分が分かっていたからこそ渡せたのだ。ということは、その裏では類が手を引いていることになる。
分かっていたはず……類とは、そういう人間。
実の母親さえも、貶められる人間なのだ。
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