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312.尽きていなかった肉欲

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「失礼、します」

 緩く結んであった紐をするりと解き、腕からゆっくりとローブを外す。腕の贅肉はたぷたぷしており、まるで着物の袖のようだ。下着姿になった高槻の肌にはブラジャーが食い込んでいた。ところどころにシミが浮き出ていて、贅沢な脂肪のたっぷりついた肉付きのいい躰は美しさと対極にあった。

 気持ちを押し殺し、リョウは幅のある彼女の躰を跨いだ。その瞬間、高槻の躰がふるりと震える。

 息子ほど歳の差があるうら若い男に肉欲を感じるこの年増の女を、気持ち悪く感じる。

 だが、そんな感情はおくびにも出さず、リョウは高槻の肌をするりと撫でた。

「ンクッ」

 高槻の『女』の声に、ゾワッと鳥肌が立つ。

「先生の肌……柔らかくて、気持ちいいですね」
「ぁ。リョウの、手も……冷たくて、いいわ。ハァッ……」

 冷たいリョウの手に触れられて、高槻の躰が芯から熱くなってくる。もう自分を崇拝の対象とする信者も、若々しく美しい華江のことも、頭になかった。

 みんな、勝手にすればいいわ。

 今、この瞬間、この男が手に入ること。
ーーそれだけが、高槻の望みだった。

「リラックス出来るように、灯りを少し落としますね」
「えぇ」

 手元のライトの光度をギリギリまで落とし、なるべく高槻の躰が見えないようにした。 

 肩に、首に、リョウの体重が掛かるたびに、高槻は甘い声を上げた。

「ンフッ……リョウジ、上手いのねぇン」

 決して信者の前では出さない、鼻にかかった猫なで声。

「……ありがとうございます」

 高槻に触れながら、彼女の記憶がリョウの中に流れ込んでくる。

 反吐へどが出る……

 高槻に残る強い記憶は、どれも金と欲にまみれていた。

 男たちと熱い肉欲を交え、信者たちから金を巻き上げ、拝められ、崇められている自分。
 そこには、『信者のために生きる』、『信者は家族だ』、などという、高槻が普段から掲げている高尚な信念など、微塵もない。

 手から、熱が生み出される。



『……リョウちゃん、だめよ』



 懐かしい祖母の声が、頭の遠くに響いた。

 一瞬、リョウの手から力が抜ける。祖母ならどうしていただろうかという思いが、過ぎる。

 だが、再び気を集中した。

 ばあちゃん……これは、必要なことなんだ。

 高槻の霊力が、リョウの掌から吸い取られていく。高槻の、気づかぬままに。

 耳鳴りがし、頭痛がする。吐き気を堪え、脂汗を掻きながら、リョウは高槻の肌に触れ続けた。

「ック……ハァッ、ハァッ……ッッ」

 目眩がし、意識が遠退いていく。

 これだけ直に長く触れていれば出来るかと思ったが……だめ、か。

 やはり、完全に霊力を奪うには、掌からだけでは限界があった。

 リョウの思惑など知る由もない高槻は、彼の指がもし自分の密かな部分に触れたら……と想像し、興奮を昂ぶらせていた。

 閉経を迎えた高槻は、女性としての性が終わったことを突きつけられ、女としての悦びへの欲望は尽きたと思っていた。

 だが、終わってなどいなかったのだ。

 女性は幾つになったって、男にときめきを感じ、抱かれたい、愛されたいと願う生き物なのだ。

 リョウの指が高槻の背中の肉に埋もれていく。贅沢な生活に溺れ、すっかり崩れてしまった躰のラインを急に恥ずかしく思った。

 せめて、30代の頃のプロポーションを維持出来ていたら。

 そんな叶わぬ望みが脳裏に浮かび上がる。

「先生。仰向けになって頂いても?」
「ぇ。えぇ……」

 幻想から醒めた高槻は、少し恥じらいを見せながら重い躰を傾けた。

 仰向けになった高槻の目の前に、覆いかぶさるようにリョウの顔がある。

 うっすらと汗が滲み、呼吸が乱れた彼は、普段からは考えられない艶かしさを匂わせていた。どこまでも深く、飲み込まれそうな真っ黒な魅惑的な瞳に、うっとりと見つめる自分の顔が映し出される。

 「リョウジ……」

 高槻は勝負に出た。

 リョウの後頭部に手を回し、グイと強く引き寄せる。すると、リョウの睫毛が震え、瞼を閉じ、唇が一瞬引いたものの、それから重なった。

 受け、入れた。

 高槻の脳髄がジンと痺れた。久しぶりに感じる、女性としての快感に全身が震える。

 吐息を漏らし、リョウの唇の隙間から舌を入れ込む。

「ンッフッ……!!」

 リョウが躰を震わせた。高槻が舌を激しく動かしてもリョウの反応は辿々しく、決して上手いとはいえなかった。だからこそ、更に高槻の情欲が煽られた。



 フフッ、私が教えてあげるわ……



 若い頃には多くの男性と躰を重ねてきた高槻だ。男を悦ばせる技術テクニックを、経験と共に磨いてきた。

 リョウの舌を絡めとり、吸い付き、甘噛みする。躰が、覚えていた。

「ッン、せんせ……!! ッハァ」

 動揺を見せるリョウが、可愛くて仕方ない。この男を自分の手で愛で、気持ちよくさせ、イかせたい。
 
 今まで感じたことのない庇護欲が、高槻の心の奥底から湧き上がってきた。
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