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307.教祖としての葛藤

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 大祈祷祭を抜け出し、自室に戻った高槻は黒革のソファに凭れ、深い溜息を吐いた。

 彼女の脳裏には、男達からの愛撫を受け、快楽に溺れる華江の姿が浮かび上がっていた。

 あのお神酒は、飲む人によって表れる現象が異なる。また、同じ人間でも体調、気分、場所、時間等シチュエーションにより、違ってくる。

 幻覚症状によって、人の体や物から光が放たれているように見えたり、見ているものが実際よりも大きく見えたり、小さく見えたり、或いはそこにいるはずのない物があるように見えたり。
 真っ暗闇に閉じ込められたように感じたり。

 幻聴が聞こえ、過去の記憶からの声や、神の声を聞いたように感じたり、さまざまな人々の声が折り重なって襲ってくるように感じたり。

 精神的に気分が高揚し、楽しくなり、笑い出したり。逆に恐怖に襲われ、怯え、泣き出したり。
 あるいは気が大きくなり、自分はなんでも出来る、空も飛べると思い込んだり……

 中には、性への欲望が高まり、解放的になる者もいる。
 それが、華江だ。

 高槻は、これまでに何度かお神酒を信者に飲ませていた。

 これが麻薬原料だと知っている高槻は、恐くて自分では一度も飲んだことがない。

 最初の実験では慎重を期すため、古くから高槻に仕えている幹部のみに与えた。お神酒を飲んだ彼らはすぐに拒絶反応が強くあらわれ、吐いたり、ふらふらしたりしていた。

 実験は失敗だと思い、青褪めた高槻だったが、やがて彼らは気持ち良くなり、高揚していった。

 幹部たちは高槻が霊力を注いだというお神酒の力に驚愕し、誰もが口を揃えて高槻の力を絶賛した。そして、ますます高槻に傾倒することとなった。

 これに気分を良くした高槻は、次に幹部全員にお神酒を与えてみることにした。

 その中には、華江、そして夫の拓斗も含まれていた。

 初めてお神酒を飲む者たちは、やはり最初は拒絶反応に苦しんだが、既にお神酒の力を知っている幹部たちに励まされ、飲み続けた。すると、やはり彼らも気分が高揚し、楽しくなって笑い出したり、踊り出す者もいた。

 その中でも、お神酒によって興奮した華江は自ら服を脱ぎ、あろうことか、その場で隣に座っていた拓斗に激しく口付け、迫った。拓斗もお神酒によって気分が高まっているため、理性など働くはずがない。華江に誘われるまま彼女の艶かしい躰を貪り、ふたりは激しく交わり合った。

 ちょ、ちょっと!! 何してるのよ、あなたたち!!

 自分の見ている前で淫らな行為を始めたふたりに、高槻は激しく動揺した。

 だが、冷静なのはお神酒を飲んでいない高槻だけ。他の信者たちは皆トリップしてしまっている。誰も華江たちのことなど気に留めず、止めようとしない。

 すぐにでも止めさせたかった高槻だが、その一歩手前で踏みとどまった。

 もし高槻が、ここでふたりを止めたらどうなるだろうか。

 ふたりのこの状態は、お神酒の力ーーつまり、高槻の霊力によって、作り出されていることになる。高槻がふたりを止めさせたら、周りの者たちは高槻の言動を不審に思い、お神酒に疑問を持つことになるかもしれない。

 私の霊力を疑われるわけには、いかない。

 そんなことを考えているうちに、華江と拓斗の行為にひとりの信者が強引に割って入った。

 だが、華江は拒絶することなく、笑みすら浮かべ、それを受け入れた。妻を目の前で寝取られた拓斗は、そんな彼らに怒るどころか、妻が他の男によって乱れていく様を嬉々として眺め、自分も加わった。

 3人が4人になり……華江と大勢の男たちとの激しい乱交が繰り広げられる。華江の嬌声が、卑猥な水音が、野性的な男たちの荒々しい息遣いが、高槻の耳を犯す。



 なんてっ。
 なんて、こと……なのっっ!!
 


 高槻は歯噛みしながらも、その行為をただ見ているしかなかった。
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