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303.ルイからのお願い
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一度離れたルイが、再び近づいた。
「ねぇ。いつから、その能力があるの?」
「わ、分からない……気がついた時には、そうだったんだ」
「へぇ。他には、どんな力があるの? テレパシーとか瞬間移動とかできる?」
ルイは、リョウの霊力に相当な興味を持っているようだ。
今まで興味を持って近づいてきた者がいなかったわけではない。だがそれは、彼を化け物だとか人間ではないと蔑む、好奇によるものでしかなかった。
だがルイの瞳は、ただ純粋にその能力について知りたがっているようであり、リョウに対しての蔑みは感じられない。
リョウは講義に行こうとしていたことなど忘れ、ルイに導かれるように、ポツポツと自分の過去、霊能力者だった祖母、そして自ら持つ霊力について話し出した。こんな話、唯一の友人であった渉にも、両親にすら話したことがない。
どうしてだか分からないが、ルイに尋ねられるとなんでも答えたくなる。全てを晒け出したくなる。
彼には、そんな不思議な魅力があった。
ルイはリョウからの話を聞き終えた後、不意に彼の顔を覗き込んだ。
「ねぇ……ぶつかった時に見えたのって、どんな記憶だったの?」
リョウの顔が思わず真っ赤になる。
「ぃ、いや……」
口籠るリョウに、ルイはニヤッと厭らしい笑みを浮かべた。
「ふーん。僕たちが裸で抱き合ってるとこ、見たんだ?
エッチー!」
「ッッ!!」
リョウは耐えきれず、首を竦めた。
もちろんリョウにだって性欲はあるし、たまに自慰をすることもある。だが、こんな風に男同士で性の話をしたことなどなかったリョウにとって、ルイのからかいは刺激が強すぎた。
「あ、あれは事故みたいなもので……っっ!!」
必死で言い訳しようとするリョウの言葉を、ルイが遮る。
「双子の姉弟がセックスするなんて、気持ち悪いって思った?」
先程までの悪戯っぽい表情が身を潜め、睫毛を揺らして悩ましげな表情を見せる。
気持ち、悪い……
もしリョウが、誰かから双子の男女で愛し合っているカップルがいると聞いたのならば、あるいは気持ち悪いと思ったかもしれない。
だが、リョウの頭の中に浮かび上がった映像は……
美し、かった。
愛おしく思い合う感情が溢れ出ていて、求め合わずにはいられない情熱を感じた。互いが唯一無二の存在なのだと、運命の相手なのだと強く訴えていた。
リョウは、確信を持って答えた。
「美しいと、思った。特別な絆で結ばれてる感じが伝わってきて、羨ましかった。
僕には、そんなもの……ないから」
誰にも必要とされない寂しさが蘇ってきて、フッと歪んだ笑みを見せた。
そんなリョウの両手を、ルイが握った。
「僕には、君の助けが必要なんだ」
ルイに突然手を握られたのと、彼に言われた言葉でリョウはパニックを起こす。
「ふぇっ!? えっ!? な、なんて!?」
「僕には、君が必要なんだ!! ねぇ、君の能力を生かして手伝って欲しいんだ」
冗談なんかじゃない……
そう語るように、リョウの瞳にルイの真剣な眼差しが映り込んだ。
と同時に、繋いだ彼の手から今までとは異なる映像が流れ込む。
ルイと同じ顔をした女性が涙を流し、ふたりの繋いだ手が離れていく。ルイの端正な顔立ちが醜く歪み、声を上げて泣いている。
心臓がきつくきつくギューッと絞られ、キリキリと痛みが伝わってくる。
そうか、このふたりには……辛い別れがあったんだ。
自分で役に立つのなら……という思いが込み上がってくるが、それを押し殺し、リョウはルイから目を逸らした。
「僕、には……誰かを助ける力なんて、ないよ。大学でも目立たない、誰にも気づかれない。話しかけられることもない生活を送ってるんだ。
そして、それは僕自身が望んでいることでもある。
お願いだ、僕の霊力のことを誰にも話さないでほしい。もう、辛い想いはしたくないんだ!」
ルイには悪いけど、僕はここで平穏な暮らしをしていくと決めたんだ。注目なんて、されたくない。誰にももう、奇異な目で見られたり、扱われたりしたくない。
だが、ルイは諦めなかった。
「君にしか、出来ないことなんだ。君なら、出来ることなんだ。
君の霊力について僕は誰にも話さない。誓うよ。
もし君が目立つのを嫌がるなら、大学構内での君との接触は避けるようにする」
魅力的な申し出に、リョウの心が踊る。だが、それに惹かれれば惹かれるほどに、強い力で反発が起こった。
「む、無理だよ……僕に、関わらないでくれ!!」
そう叫んで、リョウは頭を抱えた。
「僕に関わると、ろくなことにならないんだ。
もう僕は、人に関わりたくない。友人を作るのが怖い。友人を傷つけるのが怖い……」
リョウの中で、渉との隔絶は深いトラウマとなっていた。
もしルイと友達になり、親密な関係を築いた上で彼に裏切られたのなら……一生、リョウは立ち直れないだろう。
もう既にリョウは、ルイの魅力に強く惹かれていた。だからこそ、裏切られることが怖い。渉の時以上の深い傷を負うのが、とてつもなく恐ろしい。
「自分が傷つくのが怖いんじゃなくて、人を傷つけるのが怖いなんて、君は優しいんだね」
リョウは抱えた頭をハッと上げた。目の前のルイの瞳が、リョウを強く引き付ける。再び、彼の毒々しい黒いオーラが立ち上ってくる。
「僕はね、なんとしてでも手に入れたい人がいるんだ。そのためには、人を傷つけるのなんて、なんとも思わない」
声が甘いだけに、その言葉はひどく冷たく心に響いた。
「それにね、安心して。
僕は、君の友人じゃない。友人になるつもりもない。
だから……友人を作るのが怖い、傷つけるのが怖いなんて、思う必要はないんだ」
「ねぇ。いつから、その能力があるの?」
「わ、分からない……気がついた時には、そうだったんだ」
「へぇ。他には、どんな力があるの? テレパシーとか瞬間移動とかできる?」
ルイは、リョウの霊力に相当な興味を持っているようだ。
今まで興味を持って近づいてきた者がいなかったわけではない。だがそれは、彼を化け物だとか人間ではないと蔑む、好奇によるものでしかなかった。
だがルイの瞳は、ただ純粋にその能力について知りたがっているようであり、リョウに対しての蔑みは感じられない。
リョウは講義に行こうとしていたことなど忘れ、ルイに導かれるように、ポツポツと自分の過去、霊能力者だった祖母、そして自ら持つ霊力について話し出した。こんな話、唯一の友人であった渉にも、両親にすら話したことがない。
どうしてだか分からないが、ルイに尋ねられるとなんでも答えたくなる。全てを晒け出したくなる。
彼には、そんな不思議な魅力があった。
ルイはリョウからの話を聞き終えた後、不意に彼の顔を覗き込んだ。
「ねぇ……ぶつかった時に見えたのって、どんな記憶だったの?」
リョウの顔が思わず真っ赤になる。
「ぃ、いや……」
口籠るリョウに、ルイはニヤッと厭らしい笑みを浮かべた。
「ふーん。僕たちが裸で抱き合ってるとこ、見たんだ?
エッチー!」
「ッッ!!」
リョウは耐えきれず、首を竦めた。
もちろんリョウにだって性欲はあるし、たまに自慰をすることもある。だが、こんな風に男同士で性の話をしたことなどなかったリョウにとって、ルイのからかいは刺激が強すぎた。
「あ、あれは事故みたいなもので……っっ!!」
必死で言い訳しようとするリョウの言葉を、ルイが遮る。
「双子の姉弟がセックスするなんて、気持ち悪いって思った?」
先程までの悪戯っぽい表情が身を潜め、睫毛を揺らして悩ましげな表情を見せる。
気持ち、悪い……
もしリョウが、誰かから双子の男女で愛し合っているカップルがいると聞いたのならば、あるいは気持ち悪いと思ったかもしれない。
だが、リョウの頭の中に浮かび上がった映像は……
美し、かった。
愛おしく思い合う感情が溢れ出ていて、求め合わずにはいられない情熱を感じた。互いが唯一無二の存在なのだと、運命の相手なのだと強く訴えていた。
リョウは、確信を持って答えた。
「美しいと、思った。特別な絆で結ばれてる感じが伝わってきて、羨ましかった。
僕には、そんなもの……ないから」
誰にも必要とされない寂しさが蘇ってきて、フッと歪んだ笑みを見せた。
そんなリョウの両手を、ルイが握った。
「僕には、君の助けが必要なんだ」
ルイに突然手を握られたのと、彼に言われた言葉でリョウはパニックを起こす。
「ふぇっ!? えっ!? な、なんて!?」
「僕には、君が必要なんだ!! ねぇ、君の能力を生かして手伝って欲しいんだ」
冗談なんかじゃない……
そう語るように、リョウの瞳にルイの真剣な眼差しが映り込んだ。
と同時に、繋いだ彼の手から今までとは異なる映像が流れ込む。
ルイと同じ顔をした女性が涙を流し、ふたりの繋いだ手が離れていく。ルイの端正な顔立ちが醜く歪み、声を上げて泣いている。
心臓がきつくきつくギューッと絞られ、キリキリと痛みが伝わってくる。
そうか、このふたりには……辛い別れがあったんだ。
自分で役に立つのなら……という思いが込み上がってくるが、それを押し殺し、リョウはルイから目を逸らした。
「僕、には……誰かを助ける力なんて、ないよ。大学でも目立たない、誰にも気づかれない。話しかけられることもない生活を送ってるんだ。
そして、それは僕自身が望んでいることでもある。
お願いだ、僕の霊力のことを誰にも話さないでほしい。もう、辛い想いはしたくないんだ!」
ルイには悪いけど、僕はここで平穏な暮らしをしていくと決めたんだ。注目なんて、されたくない。誰にももう、奇異な目で見られたり、扱われたりしたくない。
だが、ルイは諦めなかった。
「君にしか、出来ないことなんだ。君なら、出来ることなんだ。
君の霊力について僕は誰にも話さない。誓うよ。
もし君が目立つのを嫌がるなら、大学構内での君との接触は避けるようにする」
魅力的な申し出に、リョウの心が踊る。だが、それに惹かれれば惹かれるほどに、強い力で反発が起こった。
「む、無理だよ……僕に、関わらないでくれ!!」
そう叫んで、リョウは頭を抱えた。
「僕に関わると、ろくなことにならないんだ。
もう僕は、人に関わりたくない。友人を作るのが怖い。友人を傷つけるのが怖い……」
リョウの中で、渉との隔絶は深いトラウマとなっていた。
もしルイと友達になり、親密な関係を築いた上で彼に裏切られたのなら……一生、リョウは立ち直れないだろう。
もう既にリョウは、ルイの魅力に強く惹かれていた。だからこそ、裏切られることが怖い。渉の時以上の深い傷を負うのが、とてつもなく恐ろしい。
「自分が傷つくのが怖いんじゃなくて、人を傷つけるのが怖いなんて、君は優しいんだね」
リョウは抱えた頭をハッと上げた。目の前のルイの瞳が、リョウを強く引き付ける。再び、彼の毒々しい黒いオーラが立ち上ってくる。
「僕はね、なんとしてでも手に入れたい人がいるんだ。そのためには、人を傷つけるのなんて、なんとも思わない」
声が甘いだけに、その言葉はひどく冷たく心に響いた。
「それにね、安心して。
僕は、君の友人じゃない。友人になるつもりもない。
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