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288.リョウジという信者

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 小宮が塵取りを手に、顔を上げた。

「岡田はまだ新参者です。先生との直接懇談はまだ早いかと……」
「いいから連れてきなさい!」

 強い語調で命令され、小宮はグラスを片付け、お辞儀をすると去っていった。

 殆どの幹部は古参メンバーで構成されている。幹部になりたいのなら、お布施金額、勧誘した信者の数、売上実績、教団にどれだけ貢献したか、といった事項に加えて、出家者としてどのぐらい在籍しているかといったことも加味される。

 高槻が半年前に入信したリョウジを幹部にすると宣言した時、古参メンバーは揃って反対した。

『確かに岡田はシステム担当として教団のハイテク化に多大な貢献をし、売上実績もあげています。だが、入ったばかりの信者、しかも通いの者を幹部にだなんて、内部から批判の声が上がります』

 だが、高槻は彼らの反対意見を強引に退けて決定したのだった。

 アメリカからの帰国子女であるリョウジは、日本の仏教や神道に興味を持ち、片っぱしから本を読むうちに高槻の著書に出会い、教義に惹かれて『幸福阿吽教』に入信したという、一風変わった信者だった。高槻の本は小さい書店どころか大手でも滅多に置いておらず、購入したい場合はネットで注文するか、直接本部に問い合わせしなければならないため、書店で高槻の本を手に取ること自体、奇跡に等しい。

 教団の発足当時は大槻の不思議な能力に惹かれて入信する信者たちが多かったが、最近では彼らの家族や友人、サークル仲間等の勧誘によって入信したり、スピリチュアル関連に興味のある者たちが高槻主催のセミナーに参加することによって入信するケースが殆どだ。昔のように、高槻が個人的な霊媒や悪霊退治をしなくなったのが主な理由だろう。

 多くの入信者は教義を知らず、好奇心と興味から会合に参加するようになり、少しずつ『幸福阿吽教』の信者として染まっていく。

 そんな中、最初から『幸福阿吽教』の教えを理解し、高槻を崇拝しているリョウジは珍しい存在だった。

 リョウジは入信後、教団のシステムを半年という短い期間で大改革した。経理や防犯、ネットワーク、商品流通、HPやFB、インスタ制作等、今まで手をつけたくてもつけられなかった領域をどんどんハイテク化していった。今や、教団になくてはならない存在だ。語学力も備えるリョウジは、『幸福阿吽教』の海外進出への足がかりとなるのではという欲望すら抱かせる。

 それだけではない。一見地味で目立たないリョウジだが、初めて彼に会った時に見せた深い瞳の奥に宿る光に高槻は強く惹かれた。

 信者に対して基本的に名字で呼ぶ高槻が、リョウジのことは初めて会った時から名前で呼んでいる。

 それから暫くして叩かれた扉。

「入っていいわよ」

 少し上擦った声になり、トクンと高槻の心臓が跳ねた。

 なに、信者相手に緊張しているの、私……今まで何百人もの人間や霊を相手にしてきたじゃない。

 高槻は慌てて咳をし、調子を整えた。

「失礼します」

 扉が開き、リョウジが入ってきた。重い前髪に冴えない黒縁眼鏡、透き通るような白い肌の華奢な躰つきのリョウジは、決して高槻好みの男ではない。
 


「先生……良い匂い」



「えっ!?」

 リョウジを見返すと、普段は線を引いたような細い一重の瞳が薄く開いた。草食系と思わせながらも、ふと危険を感じさせる雰囲気が妖しさを増す。

 なん、なの……この子は。

 多くの信者から崇められ、尊敬されている高槻だが、息子ほど年齢の違う若い男性に熱の籠もった視線で見つめられ、落ち着かない気持ちにさせられる。
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