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285.見覚えのある男
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「それではここで、先生へのご報告会へと移ります。これから読み上げる幹部の方は、ステージに上がってお並び下さい……」
司会者が説明後、幹部の役職と名前を次々と読み上げていく。幹部は官房長官を筆頭に本部長から支部長、地区ごとのリーダー、そして本部を支える財務、人事、広報、総務、外務、出版、流通、教育といった各課の長が呼ばれた。
華江は地区部長から支部長、拓斗は財務担当から財務長へと昇格していた。幹部は地区リーダー以外は基本的に出家信者によって構成されるため、出世したいなら出家することが第一条件となる。
名前を呼ばれた幹部が、次々に立ち上がる。華江は立ち上がると後ろを振り返り、誇らしげな笑みを会場全体に向けて見せた。順にステージの上に並び、先生への挨拶を待つ。
去年まではなかったシステム長が最後に呼ばれ、彼が立ち上がった瞬間、美羽は小さく声をあげそうになった。
さっきの男の人だ……
幹部の中では、群を抜いて若い。顔立ちがよく見えないので年齢不詳だが、ヘアスタイルを含めたパッと見の印象では20代半ばから30代前半頃に感じる。半年前にここに来た時にはいなかったはずなのに、もう幹部に昇格しているなんて、よほど貢献したのだろう。
受付でお布施を渡した時に安堵したのは、間違いだった。
お布施の金額は紙のデータとなって司会者の元に届き、ひとりひとりの金額が高らかに発表されるからだ。さすがに幹部クラスとなると、金額が大きい。
凄いと思いつつ、出家者であるはずの信者がいったいどうやってそれだけのお布施を収めることが出来るのかという疑念もあった。
華江も他の幹部同様、100万円という大金を納めていた。
拓斗は仕事を退職しているし、華江は元から専業主婦だ。退職金を受け取ったとしても、ふたりで200万円のお布施は相当な金額のはずだ。それ以外に収入を得るとしたら、ここでの仕事でしかお金を稼げないはずだが、どうやって稼いでいるのだろう。
そんな疑問を覚えながら、高槻と両手で握手し、満面の笑みを浮かべる華江を美羽は見つめた。
「システム長、オカダ リョウジ」
例の男性が呼ばれる声に美羽の思念が途切れ、顔を上げた。
高槻の前に進み出ると、リョウジが深々とお辞儀をする。前髪は重く下がったままで、未だ彼の顔はよく分からない。分かるのは、肌の白い、細身の男性ということのみだ。
「お布施金額……800万円!!」
司会者の興奮した声に、会場全体がどよめいた。
高槻の右腕である官房長官でさえも、300万だった。出家の際に収める金額として、今回のお布施で納めたにしても、この若さで800万円をポンと出せるなんて普通じゃない。
高槻は笑みを深め、リョウジに歩み寄って手を取ると、背中を軽く叩いてから耳元に唇を寄せた。他の幹事にはしなかった行為だ。顔を上げた僅かな瞬間、彼の顔が垣間見れた。白い肌に溶けてしまいそうな小さくて控えめな顔のパーツ、四角いフレームの黒縁眼鏡が内向的で大人しそうな印象を与えた。
いったい、どんな人なんだろう……
美羽の胸がざわついた。
彼は、いつ入信したのだろうか。今まで、幸福阿吽教の本部で彼に会ったことはなかった。
喉に刺さった魚の小骨のように、居心地の悪い引っ掛かりを感じる。
確証はないけど……どこかで、彼に会ったことがある気がする。
『オカダリョウジ』さんって知り合いは学校にも、職場にもいないと思うし、会話を交わした記憶もないけど……なんとなく、見覚えがあるような。
どこで会ったんだろう。
美羽はじっとリョウジを見つめていたが、いくら過去の記憶を辿ってみても、靄がかかったままだった。
司会者が説明後、幹部の役職と名前を次々と読み上げていく。幹部は官房長官を筆頭に本部長から支部長、地区ごとのリーダー、そして本部を支える財務、人事、広報、総務、外務、出版、流通、教育といった各課の長が呼ばれた。
華江は地区部長から支部長、拓斗は財務担当から財務長へと昇格していた。幹部は地区リーダー以外は基本的に出家信者によって構成されるため、出世したいなら出家することが第一条件となる。
名前を呼ばれた幹部が、次々に立ち上がる。華江は立ち上がると後ろを振り返り、誇らしげな笑みを会場全体に向けて見せた。順にステージの上に並び、先生への挨拶を待つ。
去年まではなかったシステム長が最後に呼ばれ、彼が立ち上がった瞬間、美羽は小さく声をあげそうになった。
さっきの男の人だ……
幹部の中では、群を抜いて若い。顔立ちがよく見えないので年齢不詳だが、ヘアスタイルを含めたパッと見の印象では20代半ばから30代前半頃に感じる。半年前にここに来た時にはいなかったはずなのに、もう幹部に昇格しているなんて、よほど貢献したのだろう。
受付でお布施を渡した時に安堵したのは、間違いだった。
お布施の金額は紙のデータとなって司会者の元に届き、ひとりひとりの金額が高らかに発表されるからだ。さすがに幹部クラスとなると、金額が大きい。
凄いと思いつつ、出家者であるはずの信者がいったいどうやってそれだけのお布施を収めることが出来るのかという疑念もあった。
華江も他の幹部同様、100万円という大金を納めていた。
拓斗は仕事を退職しているし、華江は元から専業主婦だ。退職金を受け取ったとしても、ふたりで200万円のお布施は相当な金額のはずだ。それ以外に収入を得るとしたら、ここでの仕事でしかお金を稼げないはずだが、どうやって稼いでいるのだろう。
そんな疑問を覚えながら、高槻と両手で握手し、満面の笑みを浮かべる華江を美羽は見つめた。
「システム長、オカダ リョウジ」
例の男性が呼ばれる声に美羽の思念が途切れ、顔を上げた。
高槻の前に進み出ると、リョウジが深々とお辞儀をする。前髪は重く下がったままで、未だ彼の顔はよく分からない。分かるのは、肌の白い、細身の男性ということのみだ。
「お布施金額……800万円!!」
司会者の興奮した声に、会場全体がどよめいた。
高槻の右腕である官房長官でさえも、300万だった。出家の際に収める金額として、今回のお布施で納めたにしても、この若さで800万円をポンと出せるなんて普通じゃない。
高槻は笑みを深め、リョウジに歩み寄って手を取ると、背中を軽く叩いてから耳元に唇を寄せた。他の幹事にはしなかった行為だ。顔を上げた僅かな瞬間、彼の顔が垣間見れた。白い肌に溶けてしまいそうな小さくて控えめな顔のパーツ、四角いフレームの黒縁眼鏡が内向的で大人しそうな印象を与えた。
いったい、どんな人なんだろう……
美羽の胸がざわついた。
彼は、いつ入信したのだろうか。今まで、幸福阿吽教の本部で彼に会ったことはなかった。
喉に刺さった魚の小骨のように、居心地の悪い引っ掛かりを感じる。
確証はないけど……どこかで、彼に会ったことがある気がする。
『オカダリョウジ』さんって知り合いは学校にも、職場にもいないと思うし、会話を交わした記憶もないけど……なんとなく、見覚えがあるような。
どこで会ったんだろう。
美羽はじっとリョウジを見つめていたが、いくら過去の記憶を辿ってみても、靄がかかったままだった。
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