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275.迎えに来られなかった理由
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ショックを受ける美羽に、類が優しく諭すように話しかける。
『分かってるはずだよ、ミュー。僕たちは、離れられない運命だって。
双子の姉弟だからこそ、互いを強く求めてる。求めずには、いられない。
僕を、弟として接してよ。ミューの、弟として』
弟……と、して。
ジンと、脳髄が熱く焼けついた。
カフェで働く条件で弟として振る舞うと言った時も、クリスマスツリーを飾りつけながら辛い気持ちを吐露した時も、聖夜に美羽を求めた時も……
いつだって類は、美羽をひとりの女性としてではなく、姉として愛していた。そして、美羽にもまた、類を弟として愛してくれるのを望んでいた。
そんなこと、気づいている。分かっている。
けれど、ふたりが双子でなければ良かったと……他人であれば、幸せになれたのにと思うことで、それを否定してきた。
愛したのが、たまたま双子の弟だっただけだと、思い込もうとしていた。
美羽の瞳の奥から、再び涙が溢れ出す。
ごめん、なさい……ごめんね、類。
私は、答えられない……応えちゃ、いけないの。
ここで流されてしまえば、クリスマスイブの時のように同じことを……過ちを、繰り返すだけ。
『狡いよ、ミュー……』
深く傷ついた類の言葉に、胸が押し潰される。
『自分で分かってるくせに。僕が欲しくて堪らなくて、躰はこんなに反応してるのに、嘘をつくなんて』
類の言う通りだ。どんなに拒絶しようとしても、類に触れられただけで、いや、想像するだけで感じてしまう。制御できない。暴走してしまう。
それ、でも……私は、類を受け入れられない。
私は変わったの。だからどうか、類も変わって……
『ミューの、ミューの嘘つき!!
離れてもずっと一緒だって、気持ちは変わらないって言ったじゃん!!』
あの頃の感情が一気に蘇り、美羽の心臓が槍で突き刺されたようにズクッと痛む。
そう、だよね……嘘、つき……だよね。
ごめんなさい、ごめんなさい……類。あなたを信じて待つことが出来なかった。追いかけて探し出す、勇気がなかった。
ごめんね、類……
そう謝ってから、美羽はギュッと枕を掴んだ。
でもね、類だって私を迎えに来てくれなかった。信じてたのに、待ってたのに。連絡ひとつもらえず、生きているかどうかすら、分からない。類の声を胸の中で聞くことも、感じることも出来なかった。
そんな中、不安で堪らなかったの。類との未来が、見えなくなってしまったの……
あの時、類が迎えに来てくれていたら。迎えに来れなくても、一言『会いたい』と言ってくれていたら……
私は、迷わず何もかも捨てて、家を飛び出していたのに。
そうなっていたら、自分たちはどうしていただろうかと思うと、胸が張り裂けそうだった。好きでもない相手と結婚することなく、蔑まれることもなく、義両親や家族とのいざこざに巻き込まれることもなかったのに。
これは、自分で選択した未来。全ては自分のせいなのだと、裏切ったのは自分なのだと分かっていても、そう思わずにいられなかった。
たとえ類以外に知り合いがいなくても、見知らぬ土地で暮らさなくてはならなかったとしても……類さえいれば、良かった。ふたりで、手と手を取り合って、愛情に溢れた日々を過ごせていたのに……!!
類の熱が、美羽の中から引いていく。
『ミュー、ごめん……迎えに、行けなくて。
ック……ごめん、ね。ミュー』
深く重い悲しみの声が、美羽の胸を震わす。
『本当に……行きたかったッグ……ミューに、会いたかったよ……ウッ、ウッ。
ミューのことを考えると、会いたくて、触れたくて、抱きしめたくて、気が狂いそうだった』
震えた胸が、激しくジンジンと痛み出す。
あの頃から、類はお父さんから虐待を受けていたの? 私が……お母さんから、されていたように。逃げ出すことが、出来なかったの?
だとしたら、なんという皮肉な負の鎖に、ふたりは繋がれていたのだろう。
ふたりの想いはシンクロしていたはずなのに、互いに求めていたはずなのに、それぞれ親からの虐待によって阻害された。その事実を知り、憤りを覚えずにいられない。
わた、しは……類がどうしているか、知りたかった。たとえ、それが父親からの虐待という、受け止め難いことであっても。
類の悲しみを、辛さを……分かち合いたかったよ。
そして二人で、そこから解放されたかった。
今更言ったところで仕方ないと分かっていても、伝えずにいられない。
『分かってるはずだよ、ミュー。僕たちは、離れられない運命だって。
双子の姉弟だからこそ、互いを強く求めてる。求めずには、いられない。
僕を、弟として接してよ。ミューの、弟として』
弟……と、して。
ジンと、脳髄が熱く焼けついた。
カフェで働く条件で弟として振る舞うと言った時も、クリスマスツリーを飾りつけながら辛い気持ちを吐露した時も、聖夜に美羽を求めた時も……
いつだって類は、美羽をひとりの女性としてではなく、姉として愛していた。そして、美羽にもまた、類を弟として愛してくれるのを望んでいた。
そんなこと、気づいている。分かっている。
けれど、ふたりが双子でなければ良かったと……他人であれば、幸せになれたのにと思うことで、それを否定してきた。
愛したのが、たまたま双子の弟だっただけだと、思い込もうとしていた。
美羽の瞳の奥から、再び涙が溢れ出す。
ごめん、なさい……ごめんね、類。
私は、答えられない……応えちゃ、いけないの。
ここで流されてしまえば、クリスマスイブの時のように同じことを……過ちを、繰り返すだけ。
『狡いよ、ミュー……』
深く傷ついた類の言葉に、胸が押し潰される。
『自分で分かってるくせに。僕が欲しくて堪らなくて、躰はこんなに反応してるのに、嘘をつくなんて』
類の言う通りだ。どんなに拒絶しようとしても、類に触れられただけで、いや、想像するだけで感じてしまう。制御できない。暴走してしまう。
それ、でも……私は、類を受け入れられない。
私は変わったの。だからどうか、類も変わって……
『ミューの、ミューの嘘つき!!
離れてもずっと一緒だって、気持ちは変わらないって言ったじゃん!!』
あの頃の感情が一気に蘇り、美羽の心臓が槍で突き刺されたようにズクッと痛む。
そう、だよね……嘘、つき……だよね。
ごめんなさい、ごめんなさい……類。あなたを信じて待つことが出来なかった。追いかけて探し出す、勇気がなかった。
ごめんね、類……
そう謝ってから、美羽はギュッと枕を掴んだ。
でもね、類だって私を迎えに来てくれなかった。信じてたのに、待ってたのに。連絡ひとつもらえず、生きているかどうかすら、分からない。類の声を胸の中で聞くことも、感じることも出来なかった。
そんな中、不安で堪らなかったの。類との未来が、見えなくなってしまったの……
あの時、類が迎えに来てくれていたら。迎えに来れなくても、一言『会いたい』と言ってくれていたら……
私は、迷わず何もかも捨てて、家を飛び出していたのに。
そうなっていたら、自分たちはどうしていただろうかと思うと、胸が張り裂けそうだった。好きでもない相手と結婚することなく、蔑まれることもなく、義両親や家族とのいざこざに巻き込まれることもなかったのに。
これは、自分で選択した未来。全ては自分のせいなのだと、裏切ったのは自分なのだと分かっていても、そう思わずにいられなかった。
たとえ類以外に知り合いがいなくても、見知らぬ土地で暮らさなくてはならなかったとしても……類さえいれば、良かった。ふたりで、手と手を取り合って、愛情に溢れた日々を過ごせていたのに……!!
類の熱が、美羽の中から引いていく。
『ミュー、ごめん……迎えに、行けなくて。
ック……ごめん、ね。ミュー』
深く重い悲しみの声が、美羽の胸を震わす。
『本当に……行きたかったッグ……ミューに、会いたかったよ……ウッ、ウッ。
ミューのことを考えると、会いたくて、触れたくて、抱きしめたくて、気が狂いそうだった』
震えた胸が、激しくジンジンと痛み出す。
あの頃から、類はお父さんから虐待を受けていたの? 私が……お母さんから、されていたように。逃げ出すことが、出来なかったの?
だとしたら、なんという皮肉な負の鎖に、ふたりは繋がれていたのだろう。
ふたりの想いはシンクロしていたはずなのに、互いに求めていたはずなのに、それぞれ親からの虐待によって阻害された。その事実を知り、憤りを覚えずにいられない。
わた、しは……類がどうしているか、知りたかった。たとえ、それが父親からの虐待という、受け止め難いことであっても。
類の悲しみを、辛さを……分かち合いたかったよ。
そして二人で、そこから解放されたかった。
今更言ったところで仕方ないと分かっていても、伝えずにいられない。
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