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267.家出
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カッターナイフを拾って立ち上がり、刃をしまうとペンたてへと戻した。クローゼットを開け、ドレスを脱いでワンピースに着替える。それから、手早くボストンバッグを取り出すと、必要最低限の洋服と下着を詰めていく。
類が、アメリカのどこにいるのかなんて分からない。これまで必死に探し続けたけれど、手がかりさえも掴んでいない。
けれど、この世のどこかに彼が存在するのなら。
まだ地球上のどこかで生きていてくれるのなら。
必ずいつか……再び会える日が巡ってくるはず。
どうしてもっと早くにそうしなかったのだろうという後悔を胸に、ギリギリだったからこその決断だったとも思う。
何度も、頭の中では考えた。計画も立てた。けれど、いつも理性が邪魔して行動できなかった。
もう、そんな理性はいらない。
ただ、本能が求めるまま、類を求めるままに動くだけ。
お母さんが帰ってくる前に、早く行かなくちゃ。
華江は、卒業生の保護者のための懇親パーティーに出席している。あと二時間は帰ってこないはずだ。
美羽は引き出しに敷いてあるシートの、更に奥をまさぐった。
未成年者がパスポートを取得するには親の同意が必要となるが、20歳になれば自分で申請することができる。美羽は、いつか類が迎えに来た時のためにと、20歳になった時に密かにパスポートを取得していた。
これまで私は、助けに来て目覚めさせてくれる王子様を待つだけの、眠り姫だった。
でも、もう自分で動くしかない。時間がない。知らない土地だからとか、言語が話せないなんて言い訳してる場合じゃないんだ。
手にしたパスポートを、決意を胸に握り締めた。
私が、類を探し出してみせる。
類を、迎えに行く。
美羽は部屋を出ようとして、立ち止まった。心残りは香織と隼斗、そしてレストランの仲間たちのことだ。
もし類を、アメリカで見つけられなかったとしても……私は、ここには戻れない。お母さんはもちろん、みんなからも遠く離れた地でひとり、生活していかなくはいけないんだ。
そう思うと、胸がギューッときつく絞られた。
手の中にある携帯には、不在着信の文字とともに香織の名前が埋め尽くされている。香織に電話したら、強く引き止められるのは分かっている。決心が鈍ってしまうことも。
せめて、隼斗兄さんには感謝の言葉だけでも伝えたい……
美羽は、短縮ボタンを押した。
だが、繋がってコール音がした途端に切ってしまった。
やっぱり、このまま立ち去ろう。気持ちが変わらないうちに。
電源ボタンを長押しすると、ピーッと音が鳴った。ボストンバッグを手に、一度だけ部屋を振り返ると、パタンと扉を締めた。
階段を下り、玄関へと向かう。
「美羽っ! どこへ行くのっっ!!」
だが、そこには既に怒りの形相を浮かべた母が待ち構えていた。美羽の全身が総毛立ち、一歩も足が踏み出せない。
類が、アメリカのどこにいるのかなんて分からない。これまで必死に探し続けたけれど、手がかりさえも掴んでいない。
けれど、この世のどこかに彼が存在するのなら。
まだ地球上のどこかで生きていてくれるのなら。
必ずいつか……再び会える日が巡ってくるはず。
どうしてもっと早くにそうしなかったのだろうという後悔を胸に、ギリギリだったからこその決断だったとも思う。
何度も、頭の中では考えた。計画も立てた。けれど、いつも理性が邪魔して行動できなかった。
もう、そんな理性はいらない。
ただ、本能が求めるまま、類を求めるままに動くだけ。
お母さんが帰ってくる前に、早く行かなくちゃ。
華江は、卒業生の保護者のための懇親パーティーに出席している。あと二時間は帰ってこないはずだ。
美羽は引き出しに敷いてあるシートの、更に奥をまさぐった。
未成年者がパスポートを取得するには親の同意が必要となるが、20歳になれば自分で申請することができる。美羽は、いつか類が迎えに来た時のためにと、20歳になった時に密かにパスポートを取得していた。
これまで私は、助けに来て目覚めさせてくれる王子様を待つだけの、眠り姫だった。
でも、もう自分で動くしかない。時間がない。知らない土地だからとか、言語が話せないなんて言い訳してる場合じゃないんだ。
手にしたパスポートを、決意を胸に握り締めた。
私が、類を探し出してみせる。
類を、迎えに行く。
美羽は部屋を出ようとして、立ち止まった。心残りは香織と隼斗、そしてレストランの仲間たちのことだ。
もし類を、アメリカで見つけられなかったとしても……私は、ここには戻れない。お母さんはもちろん、みんなからも遠く離れた地でひとり、生活していかなくはいけないんだ。
そう思うと、胸がギューッときつく絞られた。
手の中にある携帯には、不在着信の文字とともに香織の名前が埋め尽くされている。香織に電話したら、強く引き止められるのは分かっている。決心が鈍ってしまうことも。
せめて、隼斗兄さんには感謝の言葉だけでも伝えたい……
美羽は、短縮ボタンを押した。
だが、繋がってコール音がした途端に切ってしまった。
やっぱり、このまま立ち去ろう。気持ちが変わらないうちに。
電源ボタンを長押しすると、ピーッと音が鳴った。ボストンバッグを手に、一度だけ部屋を振り返ると、パタンと扉を締めた。
階段を下り、玄関へと向かう。
「美羽っ! どこへ行くのっっ!!」
だが、そこには既に怒りの形相を浮かべた母が待ち構えていた。美羽の全身が総毛立ち、一歩も足が踏み出せない。
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