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263.挨拶伺い

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 それから2週間が経ち、美羽は義昭の両親宅へ挨拶に行くことになった。美羽の心に括り付けられた十字架は重くなる一方だ。

 こうしている間にも、どんどん外堀が埋められていく。
 類に会いたい。出来ることならアメリカに行って、類を探したい。

 だけど、なんの手がかりもないまま見知らぬ土地に行ったところで、英語も喋れない私が類を見つけられる可能性なんて、ほとんどない。アメリカに滞在できる期間はビザに限りがあるし、貯金だって底をついてしまう。そうなれば、日本に帰国せざるをえない。

 類を探しにアメリカに行ったことが、お母さんに知られてしまったら……私は、これから地獄の一生を送ることになる。

 日本大使館や現地の日本人会、お父さんが働いていた会社からも情報は得られなかった。勇気を出して「Rui Uchiyama」という学生がいないかアメリカ中の大学にメールで問い合わせてみたけれど、個人情報だから教えられないと断られてしまったし……もうこれ以上、どう動いていいのか分からない。

 美羽は思い詰めた表情で、深く息を吐き出した。

「美羽さん、緊張していますか?」

 義昭に聞かれ、美羽はハッとして顔を上げた。

「え。えぇ……」
「大丈夫です。美羽さんなら、きっと母は気に入りますよ」

 義昭にそう言われ、美羽は引き攣りそうな口角を上げ、笑みを見せた。

 義昭の実家は、東京に程近い朝霞市にあった。これなら十分、通勤圏内だし、駅にはEQUiAという商業ビル施設があり、買い物にも便利そうだ。実家の近くには病院や学校、スーパーなどがあり、生活にも困らなさそうだ。

 義昭は現在ひとり暮らしだが、結婚を機に、もしくはその後、必要に迫られれば同居になるかもしれないという思いが過ぎった。

 そうなったら、お母さんは喜ぶだろうな……

 華江の不敵な笑みが浮かんだ。

「ここが僕の家です」

 にこやかに指をさされ、美羽は顔を上げた。昔ながらの立派な造りの家で、美羽が住んでいるモダンな家とはだいぶ違う。

 私がここに住むなんて、想像出来ない。

 少し青褪めた美羽の前を歩く義昭が、ガラガラと引き戸を開けた。

「母さん、連れてきたよ」

 その声に、一層緊張が高まっていく。そこには既に、藍色の小花を散らした白い小袖を纏った琴子が待っていて、満面の笑みを見せていた。

「まぁまぁ、よくいらっしゃいました。なんて綺麗なお嬢さんでしょう!
 義くんからお話を聞いたときは信じられなかったけど、本当にお付き合いされてるなんて嬉しいわ」

 琴子はいかにも『母親』という雰囲気が滲み出ていて、ブランド物で全身を固めて『女』であることを全面に出している華江とはまったく違っている。

 義昭さん、『義くん』って呼ばれてるんだ……

 微笑ましい気持ちになって緊張が緩み、美羽は丁寧に頭を下げた。

「初めまして、義昭さんにはいつもお世話になっております。あの、これ良かったらどうぞ」

 美羽は手にしていた紙袋を琴子に渡した。義昭から聞いていた、琴子の好物である栗羊羹が入っている。

「あら、手土産なんて良かったのに。気遣って下さってありがとう。
 さぁさ、上がってちょうだい」

 スリッパを出され、三和土で靴を脱ぐとスッと足を入れた。

「あ、こちらの扉が義くんの部屋に通じるのよ。後で見せてもらって頂戴ね」
「はい、ありがとうございます」

 にっこりと微笑んだ義昭の母に、美羽はホッと胸を撫で下ろした。

 優しそうなお母さんで良かった……
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