250 / 498
244.絶望に染められる未来
しおりを挟む
「ちょっと! あなたからも何とか言ってやって。あなたの息子でしょ?」
そう言われ、拓斗は 大仰にゴホンと咳をした。
「隼斗。これは、華江さんと相談して決めたことなんだ。変えるつもりはない」
隼斗が父をグッと睨み付けると、拓斗は慌てて目を逸らした。そんな父に、隼斗は心の中で溜息を吐いた。
昔……おふくろが病気になって亡くなるまでは、こんな親父じゃなかった。それが、あの女によって全て変わったんだ。
その悔しさを拳に込めるように、隼斗はグッと握り潰した。
美羽は、華江に縋り付くように見つめた。
「お願い、お母さん。
せめて……せめて、大学卒業するまでは待って!」
大学を卒業したら、類に会える。そして、私たちはようやく一緒になれるんだ。
だから、お願い……その時までどうか、ここにいさせて。
華江がフッと右の口角を釣り上げた。
「そうねぇ……あなたがどこかの男と結婚でもすれば、福岡に連れていくのはやめてあげる。
ま、無理でしょうけどね」
美羽の目の前が真っ暗になる。
他の男の人と、結婚……だなんて。
出来るわけない。
私が愛してるのは類だけ。
たとえ類と結婚できなくても、一緒にいたい。
他の男の人と結婚だなんて、考えられるわけない。
今までに何人もの男性に告白されてきたが、誰一人として美羽の心を揺り動かすことは出来なかった。
美羽の心にはいつも類がいて、たとえ会えなくても、声が聞けなくても、ずっと離れていても、常に美羽を縛り続けている。
華江はいいことを思いついたというように、ポンと手を叩いた。
「そうだわ! お見合いしたらいいじゃない。
先生に紹介していただけないか、相談してみるわ」
美羽の全身が冷水を浴びせられたかのように一気に冷たくなる。
う、嘘……
絶対に、そんなの嫌!!
母の息のかかった人物と結婚するなど、母にずっと監視されているようなものだ。一生、美羽は母の檻から抜け出すことが出来なくなる。
「じ、ぶんの相手ぐらい、自分で見つけられます!」
そう啖呵を切ったものの、そんな相手などいるはずもない。もちろん、父の約束通り類と一緒になることを許してもらえる可能性など、万に一つもない。
華江は話を切り上げるように、パンと手を叩いた。
「とにかく、3ヶ月後には福岡に行きますから。
本当はもっと早くに行きたかったんだけど、拓斗さんがどうしても仕事の都合がつかないなんて言うから……ったくもう。
それまでに、準備しておいてね」
華江と拓斗の立ち去る背中を見送りながら、美羽は小刻みに躰を震わせた。怒りと悲しみと悔しさと憤りで胃の中がグルグルかき混ぜられる。
3、ヶ月だなんて……
短すぎるよ。
類、お願い。今すぐに私を迎えに来て……!!
隼斗がテーブルに乗せた腕に体重をかけ、大きく溜息を吐いた。
「済まない……なんの役にも立てなくて」
まるで自分の責任だというように申し訳なさそうな表情を浮かべた隼斗に、美羽は力なく笑みを見せた。
「ううん。隼斗、兄さんが……庇ってくれて、嬉しかった」
最近になって『隼斗兄さん』と呼ぶようになったが、まだ慣れていないので擽ったい気分になる。
「あの人はどうせ聞く耳持たないし、なんとか親父の方を説得する。
あまり、期待は出来んが」
美羽は隼斗に頷き、肩を竦めた。
「隼斗兄さんに迷惑かけちゃって、ごめんね」
「そんな風に言うな。迷惑だなんて思ってない。
もっと、頼ってくれていい」
ハッと顔を上げると、隼斗が美羽の目を真っ直ぐ見つめ、優しく微笑んでいた。
「お前はもう、俺にとって妹なんだ。
兄貴に頼れ。甘えていいんだ」
「う、ん……ありが、とう」
隼斗兄さん……私、お母さんの再婚は未だに受け入れられないけど、隼斗兄さんがお兄さんになって、本当に良かったと思ってるよ。
美羽は溢れる涙を堪え、肩を震わせた。
そう言われ、拓斗は 大仰にゴホンと咳をした。
「隼斗。これは、華江さんと相談して決めたことなんだ。変えるつもりはない」
隼斗が父をグッと睨み付けると、拓斗は慌てて目を逸らした。そんな父に、隼斗は心の中で溜息を吐いた。
昔……おふくろが病気になって亡くなるまでは、こんな親父じゃなかった。それが、あの女によって全て変わったんだ。
その悔しさを拳に込めるように、隼斗はグッと握り潰した。
美羽は、華江に縋り付くように見つめた。
「お願い、お母さん。
せめて……せめて、大学卒業するまでは待って!」
大学を卒業したら、類に会える。そして、私たちはようやく一緒になれるんだ。
だから、お願い……その時までどうか、ここにいさせて。
華江がフッと右の口角を釣り上げた。
「そうねぇ……あなたがどこかの男と結婚でもすれば、福岡に連れていくのはやめてあげる。
ま、無理でしょうけどね」
美羽の目の前が真っ暗になる。
他の男の人と、結婚……だなんて。
出来るわけない。
私が愛してるのは類だけ。
たとえ類と結婚できなくても、一緒にいたい。
他の男の人と結婚だなんて、考えられるわけない。
今までに何人もの男性に告白されてきたが、誰一人として美羽の心を揺り動かすことは出来なかった。
美羽の心にはいつも類がいて、たとえ会えなくても、声が聞けなくても、ずっと離れていても、常に美羽を縛り続けている。
華江はいいことを思いついたというように、ポンと手を叩いた。
「そうだわ! お見合いしたらいいじゃない。
先生に紹介していただけないか、相談してみるわ」
美羽の全身が冷水を浴びせられたかのように一気に冷たくなる。
う、嘘……
絶対に、そんなの嫌!!
母の息のかかった人物と結婚するなど、母にずっと監視されているようなものだ。一生、美羽は母の檻から抜け出すことが出来なくなる。
「じ、ぶんの相手ぐらい、自分で見つけられます!」
そう啖呵を切ったものの、そんな相手などいるはずもない。もちろん、父の約束通り類と一緒になることを許してもらえる可能性など、万に一つもない。
華江は話を切り上げるように、パンと手を叩いた。
「とにかく、3ヶ月後には福岡に行きますから。
本当はもっと早くに行きたかったんだけど、拓斗さんがどうしても仕事の都合がつかないなんて言うから……ったくもう。
それまでに、準備しておいてね」
華江と拓斗の立ち去る背中を見送りながら、美羽は小刻みに躰を震わせた。怒りと悲しみと悔しさと憤りで胃の中がグルグルかき混ぜられる。
3、ヶ月だなんて……
短すぎるよ。
類、お願い。今すぐに私を迎えに来て……!!
隼斗がテーブルに乗せた腕に体重をかけ、大きく溜息を吐いた。
「済まない……なんの役にも立てなくて」
まるで自分の責任だというように申し訳なさそうな表情を浮かべた隼斗に、美羽は力なく笑みを見せた。
「ううん。隼斗、兄さんが……庇ってくれて、嬉しかった」
最近になって『隼斗兄さん』と呼ぶようになったが、まだ慣れていないので擽ったい気分になる。
「あの人はどうせ聞く耳持たないし、なんとか親父の方を説得する。
あまり、期待は出来んが」
美羽は隼斗に頷き、肩を竦めた。
「隼斗兄さんに迷惑かけちゃって、ごめんね」
「そんな風に言うな。迷惑だなんて思ってない。
もっと、頼ってくれていい」
ハッと顔を上げると、隼斗が美羽の目を真っ直ぐ見つめ、優しく微笑んでいた。
「お前はもう、俺にとって妹なんだ。
兄貴に頼れ。甘えていいんだ」
「う、ん……ありが、とう」
隼斗兄さん……私、お母さんの再婚は未だに受け入れられないけど、隼斗兄さんがお兄さんになって、本当に良かったと思ってるよ。
美羽は溢れる涙を堪え、肩を震わせた。
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる