上 下
242 / 498

236.高まっていく嫉妬心

しおりを挟む
「お母さんから、呼び出されたの。大丈夫、類のことは決して話さないから」

 母に会いにいくことを類はどう思うだろうか、一緒に行くと言いだすのではないかと美羽は危惧したが、まるでそんなことは重大じゃないというように類が言葉を継いだ。

『違う! 僕が聞きたいのはそんなことじゃない!!
 ねぇ、ヨシに替わってよ! 今、どこにいるの!?』

 類の声は理性を欠き、突然の出来事に慌てふためいていた。

 義昭さんがいる方が、類にとっては安心ってこと……なの?

 やはり類と義昭とは繋がっているのだろうかと推測しながら、美羽は短く息を吸った。

「あ、あの……ね。義昭さんのご両親が今、離婚問題でバタバタしてて……それで、義昭さんは行かないことになっ……」

 美羽が話し終わらないうちに、悲痛な叫びが電話の向こう側から響いてきた。

『なにそれ!! じゃあミューは今、隼斗兄さんとふたりきりってこと!?』

 類の強い焦燥と嫉妬が脊髄の上から下へドロッと流れ込んでくるような感覚に身を震わせ、美羽はドクドクと高まる鼓動を抑えながら、ゆっくり答えた。

「そう、なるね……」

 甘美な刺激がピリピリと腰骨から背骨にかけて走り抜ける。今まで何度も理不尽な嫉妬を向けられたことはあったが、これほどまでの激しい嫉妬を類から感じたのは初めてだった。

 類、嫉妬してる。
 分かる……あぁ、類の動揺が伝わってくるよ。

 ねぇ、どれだけ私が寂しく辛い思いしてたかも、分かってる?
 類も少しは苦しめばいいよ。私のことを想って、苦しんで……
 
 美羽の緩んだ口元から悩ましい吐息が漏れそうになり、人差し指を唇に持って行き、軽く咥えた。美羽の中に取り込まれた類の狂おしいほどの愛情と焦燥が、激しく渦を巻いている。肌がしっとりと潤いに満ちてきて、躰から芳醇な匂いが立ち上ってくるのを感じて目眩を覚えた。

 義昭によってカラカラに乾いた官能が、再び類によって急速に湿り気を帯びていく。

『今は隼斗兄さんの家にいるの?』

 隼斗の家にいると答えたところで、類の気持ちに収まりがつくはずがない。

「ううん。明日の出発のことを考えて、空港近くのビジネスホテルに……」
『もちろん部屋は別々だよね!?』

 類は『もちろん』を強調した。まるで、目の前で両肩をしっかりと掴まれているような錯覚に陥った。

 美羽の心臓が小刻みにトクトクと震え、動悸が激しくなりそうになるのを必死に抑える。

 したくて、そうしたわけじゃない。これは、事故みたいなものだから。
 でも、そう説明したところで類が納得してくれるはずないよね……

 そう不安になる一方で、これで類を更に翻弄し、嫉妬させられるという優越感も湧き上がった。

「そ、それが……2つ部屋を取ったんだけど、ホテル側の手違いでツインの部屋になっちゃって。しかも、他に空きもないらしく……」

 美羽の言い訳を最後まで聞くことなく、再び類が声を荒げた。



『今すぐそこを出てよ! 他のホテルで2つ部屋が空いてるとこ見つければいいでしょ!!』



 美羽の躰の奥から類の嫉妬の炎がゴォと突き上がり、熱く激しく掻き混ぜられる。躰の深部から愛撫をされているかのような感覚にジンジンと膣奥が切なく疼き、蜜がトロリと溢れ、快感という名の震えに爪先から脳髄まで貫かれる。

 あぁ、やっぱり怒ってる。
 類、必死だ。

 嫉妬なんてする必要、ないのに。
 心配することなんて、何もないのに。

 でも……嬉しい。
 類に、愛されてるって今……凄く、感じてる。

 肌が悦びでさざめいてる。もっと、嫉妬して欲しい。
 私のこと以外、考えられないぐらいになればいい……

 自分の感情が類に漏れないようにと必死に抑えたが、そんな必要ないぐらい類は激しく動揺し、狼狽していた。

 口角をキュッと引き締めてから、美羽は困ったような声を上げた。

「それが、ね……私もいろんな宿泊サイト探したけどお正月休みでどこもいっぱいだったの。フロントでも系列ホテル確認してもらったけど、空いてないって言われて」
『ックなんで明日出発なのに、今日から泊まってるの!? 明日家を出ればいい話でしょ!!』

 美羽はゴクリと喉を鳴らした。

「元々明日の出発だったのを今日に変更したかったんだけど、急だったから、飛行機も新幹線も手配できなくて……車で行くことも考えたんだけど、私は運転出来ないから隼斗兄さんの負担になるし、結局翌朝の飛行機に乗って行った方がいいってことになったの」
「だったらヨシの実家に戻ればいいじゃん!」
「ッッ……義昭さんは、お義母さんと家に戻ってて……離婚のことだけじゃなく、お金の問題とかもあって、今は……家に帰りたくないの」

 本当はこんな話、類にするべきではない。義昭への愛情がないことはとっくに知られているが、義昭の家族とも問題があることが分かれば、類にとって美羽を離婚させる格好の材料がまたひとつ増えてしまうからだ。

 けれど、今まで抑え込んでいた感情が一気に溢れ出してしまい、美羽自身コントロール出来ずにいた。



「だったらなんで僕に言わないの!? どうして隼斗兄さんなんかに頼るのさ!!
 誰よりもまずは僕に話すべきでしょ!!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...