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228.隼斗からの言葉
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結局、琴子が大作からの婚姻費用をもらうまでの間、義昭が毎週1万円を生活費として晃の銀行口座に振り込むことなった。毎週振り込むのは面倒だが、纏めて振り込んだらすぐに使い込みされ、再度請求される恐れがあるから仕方ない。
もちろん、お金を使い切っても正当な理由がない限り、余分なお金は一切払わないことは伝えているし、合意書を作成してサインもさせた。法的にどこまで効力があるかどうか分からないが、口約束だけよりは遥かにましだろう。
また、弁護士や税理士を雇う金がない琴子の婚姻費用や離婚の慰謝料請求に関わる経費も、こちらで負担することになった。
その代わり、晃たちの新居購入の頭金を一切貸さないことを条件としてつけた。もちろん圭子たちは納得していないし、散々『ケチ』だの『血も涙もない』だのと罵られ、いびられた。
琴子にも『あげるわけじゃないんだし、いいじゃない。貸してあげたら?』なんて言われたが、美羽はそれをやんわりと躱したのだった。ここで更に義母との関係に亀裂が入ったと感じたが、もう美羽にはそれを修復しようという気力はなかった。
義昭が母の機嫌を直そうと、晃たちが新居購入後には彼女の生活費をこれまでより5千円多く支払うことを提案し、これで一応の話し合いがついた形となった。
だが、今後問題が次々に持ち上がってくるのは間違いないだろう……そう思うと頭が痛い。
そんなことを考えて溜息を吐いていると隼斗が運転席に乗り込んできたので、慌てて表情を取り繕った。
「忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫」
この家に私のものなんて、何ひとつない。
忘れたい、何もかも……せめて、今だけは。
美羽は睫毛を伏せて震わせてから、真っ直ぐ前方の景色を見据えた。
「そうだ、美羽」
ふと思いついたように隼斗に声を掛けられ、美羽は小さく肩を震わせた。
「どうしたの?」
もしかして、何かあった?
お願い、この後に及んでやっぱりやめるなんて言わないで……
美羽が不安に駆られながら隼斗に顔を向けると、頭を下げられた。
「あけましておめでとう」
ぁ……
美羽は思わずポカンとした。
隼斗に新年の挨拶することをすっかり忘れていた。いつもなら、隼斗が迎えに来た時に美羽の方から真っ先にするのに。
「あけまして、おめでとうございます。
隼斗兄さん、今年もよろしくお願いします」
「あぁ。よろしく」
かしこまって挨拶をした美羽に、隼斗が小さく笑みを見せる。隼斗と挨拶を交わし、ようやく新年を迎えた心持ちになった。
「じゃ、出発するぞ」
「うん」
隼斗がウッド調のステアリングに、骨ばった逞しい手を掛ける。エンジンをふかす音が響き、車が発進する。サイドミラーに映る義昭の実家が小さくなっていくのを見ながら、これから取り残される大作のことを思い、チクッと美羽の胸が痛んだ。
だがそれも、僅かな時だけだった。完全に視界から消えると、美羽の心は次第に軽くなっていき、心地いい車の振動を感じながら深く沈む込む黒の本革シートにゆったりと身を委ねた。
もちろん、お金を使い切っても正当な理由がない限り、余分なお金は一切払わないことは伝えているし、合意書を作成してサインもさせた。法的にどこまで効力があるかどうか分からないが、口約束だけよりは遥かにましだろう。
また、弁護士や税理士を雇う金がない琴子の婚姻費用や離婚の慰謝料請求に関わる経費も、こちらで負担することになった。
その代わり、晃たちの新居購入の頭金を一切貸さないことを条件としてつけた。もちろん圭子たちは納得していないし、散々『ケチ』だの『血も涙もない』だのと罵られ、いびられた。
琴子にも『あげるわけじゃないんだし、いいじゃない。貸してあげたら?』なんて言われたが、美羽はそれをやんわりと躱したのだった。ここで更に義母との関係に亀裂が入ったと感じたが、もう美羽にはそれを修復しようという気力はなかった。
義昭が母の機嫌を直そうと、晃たちが新居購入後には彼女の生活費をこれまでより5千円多く支払うことを提案し、これで一応の話し合いがついた形となった。
だが、今後問題が次々に持ち上がってくるのは間違いないだろう……そう思うと頭が痛い。
そんなことを考えて溜息を吐いていると隼斗が運転席に乗り込んできたので、慌てて表情を取り繕った。
「忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫」
この家に私のものなんて、何ひとつない。
忘れたい、何もかも……せめて、今だけは。
美羽は睫毛を伏せて震わせてから、真っ直ぐ前方の景色を見据えた。
「そうだ、美羽」
ふと思いついたように隼斗に声を掛けられ、美羽は小さく肩を震わせた。
「どうしたの?」
もしかして、何かあった?
お願い、この後に及んでやっぱりやめるなんて言わないで……
美羽が不安に駆られながら隼斗に顔を向けると、頭を下げられた。
「あけましておめでとう」
ぁ……
美羽は思わずポカンとした。
隼斗に新年の挨拶することをすっかり忘れていた。いつもなら、隼斗が迎えに来た時に美羽の方から真っ先にするのに。
「あけまして、おめでとうございます。
隼斗兄さん、今年もよろしくお願いします」
「あぁ。よろしく」
かしこまって挨拶をした美羽に、隼斗が小さく笑みを見せる。隼斗と挨拶を交わし、ようやく新年を迎えた心持ちになった。
「じゃ、出発するぞ」
「うん」
隼斗がウッド調のステアリングに、骨ばった逞しい手を掛ける。エンジンをふかす音が響き、車が発進する。サイドミラーに映る義昭の実家が小さくなっていくのを見ながら、これから取り残される大作のことを思い、チクッと美羽の胸が痛んだ。
だがそれも、僅かな時だけだった。完全に視界から消えると、美羽の心は次第に軽くなっていき、心地いい車の振動を感じながら深く沈む込む黒の本革シートにゆったりと身を委ねた。
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