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220.No pain, No gain

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 ガチャッと扉が開く音に顔を向けると、顔を真っピンクにした浩平が入ってきた。

「あれぇーっ、類くん起きてたのー?
 もぉ気分は大丈夫っすかぁ?」

 類は、取り繕った笑みを見せた。

「あ。あぁ……横になってたら少し楽になったよ」
「ハハッ、類くんが酔っ払うなんて珍しいよねー!
 急に類くんが部屋で休むとか言い出したから、みんなビックリして心配してたんすよー」

 酒に酔って気分悪くなったわけじゃねーよ。

 心の中でツッコミを入れつつも、類は完璧な笑みを崩すことはなかった。

「みんなは、どうしてる?」
「昨日とおんなじで、酔い潰れてリビングで寝ちゃってるよぉ。あ、かおりんだけは女の子部屋に戻ってったけど。類くんとかおりんだけっすよね、ちゃーんと部屋で寝てるの。
 ま、俺はさっき喉乾いて目が覚めたんだけどー♪」

 浩平は上機嫌で鼻歌を歌いながらスポーツバッグの中を探ると、Tシャツとショートパンツを手にし、おぼつかない足取りで立ち上がった。

「俺、酔い覚ましに温泉入ってくるっすけどー、類くんはどぉするー?」
「僕はまた寝るよ」
「じゃー、起こさないように気をつける。おやすみー」
「うん、おやすみ」

 浩平は壁に軽くぶつかった後、ふらふらと扉まで歩いていき、パタンと閉めた。

 その音を聞き、類は途端に苦い表情になった。浩平がいたのはほんの少しだけなのに、既に部屋中に酒の臭いが充満している。

 ここは嫌だ。
 早く、ミューの元に帰りたい。

 僕の、本来いるべき場所へ……

 手の中のスマホが音を鳴らすことはない。きっともう、美羽から返事が返ってくることは、ないだろう。

 類はLINEアプリを閉じると、待ち受け画面になっている美羽の写真を指で弾いた。

 ほんと、ミューは可愛い顔して頑固だよね……
 すぐに僕の手に堕ちると思ったのに、なかなか思い通りに動いてくれない。
 欲しい言葉を、与えてくれない。

 ーーけれど、類には既に美羽の精神が限界ギリギリであることも感じていた。

 あと、一晩ある。
 明日の夜、ヨシに迫られればミューは……
 間違いなく、僕に助けを求めてくる。

 ねぇ、分かってる?
 ミューが我慢すればするほどに、苦しみは深く、激しさを増していくんだよ。
 ミューの清らかな羽が一枚、また一枚と堕ちていく。

 ……僕はね、そんなこと望んでないんだ。

 美しく妖しい笑みが、類の顔に浮かぶ。

 だから……さぁ、堕ちておいで。
 僕の腕の中に。

 ミューの傷ついた羽は、僕が全てもぎ取って楽にしてあげるからね。

「No pain, no gain.
 僕たちは、痛みなくして愛を得られない。

 そうでしょ、ミュー?」

 先ほど指で弾いた画面の中の美羽の顔を、今度は愛おしそうに撫でた。

 いさかい果てての、契りを交わそう。

 美羽への想いが昂り、熱を持ちそうな躰を鎮めるため、類はシャワーを浴びに部屋についている浴室へと向かった。
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