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211.それぞれのエゴ
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圭子が身を乗り出した。
「で、でも双子ってことは弟さん、いい年なんでしょう? だったら一人暮らしでもすればいいじゃない! 長男である兄さんが母親の面倒を見るのは当然でしょ!」
珍しく正論をぶつけてきた圭子に、美羽は反論の余地がなかった。
類に、『お義母さんと同居することになったから、出て行って』って言ったらどんな反応をするんだろう。
理解を示してくれる? それとも、怒って何かされる?
将来的に義両親と同居になるかもしれないことは薄々覚悟していたものの、突然降りかかってきた話に心がついていけない。
義母のことよりも、類にどう思われるのか、どんな反応をされるのかが気になって仕方なかった。
いや、それは言い訳だ。分かっているのだ、心の奥では類と離れたくないという強い気持ちがあるのだということを。
琴子は、圭子の提案を毅然と突っぱねた。
「もう圭子のとこに行くって決めたの。
その代わり、義くんが経済的に助けてくれるから」
美羽は正座した膝に載せていた拳に力を込め、俯いた。
今まで専業主婦でまったくお金のあてのない琴子が一人暮らしなど出来るはずがないことは分かっていたし、自分たちか圭子たち、どちらかと同居となるであろうことも簡単に予想がついた。
今の時点で圭子たちと同居となれば、経済的に余裕のない彼らが琴子を養うことができないため、大作からの婚姻費用を受け取るまでの間、自分たち夫婦が金銭的に援助して支えてやる必要があることも覚悟していたし、長年夫に苦しめられてきた義母を助けたいという気持ちだってある。
だが、夫と別居するのに娘夫婦の家に住み、息子夫婦にお金を出してもらうのが当たり前であるかのような琴子の言動に、なんとなく不条理さを感じてしまう。
ーー自分が産んで育ててあげたのだから、独り立ちしようが、結婚しようが、子供が生まれようが、親の面倒を見るのは当然。
そんな母親のエゴが、垣間みえる。
そういった風土で育ってきて、実際に琴子自身もそうして親の世話をしてきたのだから、そう思うのは仕方ないのかもしれない。それに、義昭は既に何度も母親に小遣いをあげていたのだから、琴子にとってはごく自然なことなのだろう。
もしかしたらお義母さん、お義父さんから婚姻費用や離婚の慰謝料を受け取ってからも、私たちに経済的に依存する気なのかな……
琴子の言葉に、そんな不安を抱かずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、母さん……
確かに今うちには美羽の弟がいて母さんが同居するスペースはないけど、だからってあんな狭い圭子の家で同居することないだろ! だったら、一人暮らし用のアパートでも見つけて住めばいいじゃないか。それだったら僕も、母さんの為に多少は援助するし。
圭子なんかに金渡したら、ろくなことに使わないに決まってるんだ。母さんが圭子のとこに行くなら、僕は金は払わない!」
圭子がキッと義昭を睨みつける。
「言われなくたって家で母さん引き取るなんて無理よ! あんな狭いアパートだし、ほのかもいるし。
さっさとその弟を追い出して、母さんと同居してよ!!」
まるで荷物を押し付けるかのような圭子の言い草に、美羽の心が痛んだ。だからといって、うちで同居させますとも言えない。
義昭と圭子が殺気立つ中、琴子はにっこりと微笑んだ
「確かに今の晃さんのアパートでは手狭だわ。だから、今より広いところに引っ越せばいいのよ。ほのちゃんだってこれから大きくなって自分の部屋が必要になるでしょうし、あんな汚いアパート、かわいそうだわ。
高くなった家賃分の方が、私がひとり暮らしするよりお金がかからないでしょう? これなら義くんの負担も減るし、いいと思わない?」
「そういう問題じゃない! 僕は母さんが圭子たちと暮らすのが問題だって言ってるんだ」
「だってね、私が一緒に住めばほのちゃんのお世話や家事をできるわけでしょ。圭子は家に一日中ほのかといるのはつまらないし、家事は自分に向いてないっていつも言ってるじゃない。圭子は働きに出られて、今より暮らしがよくなって、いいことづくめじゃない!」
琴子は自分が描いた未来絵図を想像し、興奮で頬を赤らめた。
すると、さっきまで絶対反対の姿勢を見せていた圭子が、フッと表情を変えた。
「そう、よね……今より広くて綺麗なとこに引っ越すなら、それもありかも。
母さんがほのか見ててくれるなら私も外に働きに出られるし、高くなった家賃分と生活費の足らない分は兄さんが払ってくれることだし」
「おい、僕は払うだなんて一言も……」
義昭の言葉を押し退け、圭子は晃にパッと顔を向けた。
「ねぇっ! 最近パパの店の近くにマンション建ててたわよねぇ?」
急に話を振られた晃が缶ビールを掴んでいた手をビクッとさせ、「あ、あぁ……そういや、なんか建ててたな」と答えた。
「で、でも双子ってことは弟さん、いい年なんでしょう? だったら一人暮らしでもすればいいじゃない! 長男である兄さんが母親の面倒を見るのは当然でしょ!」
珍しく正論をぶつけてきた圭子に、美羽は反論の余地がなかった。
類に、『お義母さんと同居することになったから、出て行って』って言ったらどんな反応をするんだろう。
理解を示してくれる? それとも、怒って何かされる?
将来的に義両親と同居になるかもしれないことは薄々覚悟していたものの、突然降りかかってきた話に心がついていけない。
義母のことよりも、類にどう思われるのか、どんな反応をされるのかが気になって仕方なかった。
いや、それは言い訳だ。分かっているのだ、心の奥では類と離れたくないという強い気持ちがあるのだということを。
琴子は、圭子の提案を毅然と突っぱねた。
「もう圭子のとこに行くって決めたの。
その代わり、義くんが経済的に助けてくれるから」
美羽は正座した膝に載せていた拳に力を込め、俯いた。
今まで専業主婦でまったくお金のあてのない琴子が一人暮らしなど出来るはずがないことは分かっていたし、自分たちか圭子たち、どちらかと同居となるであろうことも簡単に予想がついた。
今の時点で圭子たちと同居となれば、経済的に余裕のない彼らが琴子を養うことができないため、大作からの婚姻費用を受け取るまでの間、自分たち夫婦が金銭的に援助して支えてやる必要があることも覚悟していたし、長年夫に苦しめられてきた義母を助けたいという気持ちだってある。
だが、夫と別居するのに娘夫婦の家に住み、息子夫婦にお金を出してもらうのが当たり前であるかのような琴子の言動に、なんとなく不条理さを感じてしまう。
ーー自分が産んで育ててあげたのだから、独り立ちしようが、結婚しようが、子供が生まれようが、親の面倒を見るのは当然。
そんな母親のエゴが、垣間みえる。
そういった風土で育ってきて、実際に琴子自身もそうして親の世話をしてきたのだから、そう思うのは仕方ないのかもしれない。それに、義昭は既に何度も母親に小遣いをあげていたのだから、琴子にとってはごく自然なことなのだろう。
もしかしたらお義母さん、お義父さんから婚姻費用や離婚の慰謝料を受け取ってからも、私たちに経済的に依存する気なのかな……
琴子の言葉に、そんな不安を抱かずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、母さん……
確かに今うちには美羽の弟がいて母さんが同居するスペースはないけど、だからってあんな狭い圭子の家で同居することないだろ! だったら、一人暮らし用のアパートでも見つけて住めばいいじゃないか。それだったら僕も、母さんの為に多少は援助するし。
圭子なんかに金渡したら、ろくなことに使わないに決まってるんだ。母さんが圭子のとこに行くなら、僕は金は払わない!」
圭子がキッと義昭を睨みつける。
「言われなくたって家で母さん引き取るなんて無理よ! あんな狭いアパートだし、ほのかもいるし。
さっさとその弟を追い出して、母さんと同居してよ!!」
まるで荷物を押し付けるかのような圭子の言い草に、美羽の心が痛んだ。だからといって、うちで同居させますとも言えない。
義昭と圭子が殺気立つ中、琴子はにっこりと微笑んだ
「確かに今の晃さんのアパートでは手狭だわ。だから、今より広いところに引っ越せばいいのよ。ほのちゃんだってこれから大きくなって自分の部屋が必要になるでしょうし、あんな汚いアパート、かわいそうだわ。
高くなった家賃分の方が、私がひとり暮らしするよりお金がかからないでしょう? これなら義くんの負担も減るし、いいと思わない?」
「そういう問題じゃない! 僕は母さんが圭子たちと暮らすのが問題だって言ってるんだ」
「だってね、私が一緒に住めばほのちゃんのお世話や家事をできるわけでしょ。圭子は家に一日中ほのかといるのはつまらないし、家事は自分に向いてないっていつも言ってるじゃない。圭子は働きに出られて、今より暮らしがよくなって、いいことづくめじゃない!」
琴子は自分が描いた未来絵図を想像し、興奮で頬を赤らめた。
すると、さっきまで絶対反対の姿勢を見せていた圭子が、フッと表情を変えた。
「そう、よね……今より広くて綺麗なとこに引っ越すなら、それもありかも。
母さんがほのか見ててくれるなら私も外に働きに出られるし、高くなった家賃分と生活費の足らない分は兄さんが払ってくれることだし」
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義昭の言葉を押し退け、圭子は晃にパッと顔を向けた。
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