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206.離婚宣告

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 食事を終え、風呂に入ってからも、今夜は大晦日ということでほのかを寝かしつけることはしなかったが、やはり年を越す前に限界が来てこたつで眠ってしまった。

 再び琴子がほのかを運び、それから美羽と共に年越しそばの準備に取り掛かる。

「お義母さん、疲れてませんか?」
「大丈夫よ。これさえ終われば、大仕事は終わって肩の荷もおりるんだから」

 海老の天麩羅を揚げながら、琴子は菜箸を持つ手を休めることなく答えた。
 
 本当にお義母さん、偉いな……
 あんな気難しいお義父さんと40年も連れ添ってるなんて。
 私は義昭さんとそんな風になれるのかな。

 自分と義昭の未来を想像してみようとしたが、無理だった。どうしても躰が拒絶反応をしてしまう。

「さ、出来たわ。運びましょうか」
「はい」

 揚げたての天麩羅を蕎麦に載せ、美羽はどんぶりを4つ盆に並べて運んだ。

 琴子はすっきりと片付いた台所を見回してホッと息を吐くと、残り2つのどんぶりを盆に載せた。

 年越し蕎麦を食べながら、紅白歌合戦の結果がTVから流れるのを美羽はボーッと見つめていた。これから義昭とふたりきりで初詣に行くべきか、まだ迷っている。

 蕎麦を食べ終えた義昭が箸を置き、琴子に顔を向けた。

「母さん、僕と美羽、これから初詣に行こうかと思ってるんだ」

 まだ美羽が考えている最中だというのに、義昭はとっくに美羽が一緒に行くものと思っているようだ。けれど、ここで反論して夫婦仲が悪いと思われたくもない。

 お義母さんなら、笑顔で「そう、行ってらっしゃい」と言って送り出すのだろうな……

 そう考えていると、大作が空になった徳利とっくりを振った。

「おい、熱燗」

 だが、琴子は大作に応えることなく蕎麦を食べ続けている。

「おい、熱燗くれ」

 もう一度琴子に向かって話しかけるが、無視して食べ続けている。

「あ、あの私が……」

 美羽が立ち上がろうとすると大作がギロリと睨んで制し、声を荒げた。

「おい、なんのつもりだ! 熱燗と言ってるのが聞こえんのか!!」

 ようやく大作に顔を向けた琴子は、冷たい視線を流した。

「誰に向かって話してるんですか。私の名前は『おい』ではありませんし、『熱燗』だけじゃ分かりませんよ。それに、ほのかが寝てるんですから静かにしてください」

 今まで大作になんの文句も言わず、常に夫の三歩後ろを下がってついてきた琴子の掌を返した態度と言葉に、美羽は呆気にとられた。

 美羽だけではない。義昭も圭子も、大作さえも、琴子をまるで違う生き物を見つめているかのように呆然としていた。

 琴子が義昭と美羽に微笑みかけた。

「義くんと美羽さん。初詣に出かけるの、ちょっと待っててくれるかしら?」

 その作られた微笑みにただならぬ雰囲気を感じ、義昭と美羽は無言で頷いた。

 お義母さん、どうしたんだろう。

 美羽の中で、不安が急速に渦を巻いて広がっていく。

「私。皆が集まる今日の日を、ずっと心待ちにしていたんです」

 琴子は背筋を伸ばし、まっすぐに大作の瞳を見つめた。今までにない自信とプライドが琴子の瞳の奥に輝いていた。

「いったい何の話だ」

 訝しむ大作に、琴子は晴れ晴れとした表情で言い放った。



「今日限りで、あなたとは離縁させていただきます」 



「母さん!?」
「えっ、嘘でしょ!?」

 義昭と圭子が同時に叫んだ。ふたりにとっても寝耳に水だったらしい。
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