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198.友人からの報告LINE

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 義昭の実家は埼玉県の中でも東京都に隣接した朝霞市にあるため、車だと1時間半程度で着く。

 朝霞市は埼玉県のほぼ南端に位置しており、大宮・浦和などの主要駅に行くより、池袋方面に出るほうが断然早い。近年駅周辺の再開発でマンションが増えたことで、人気が再燃してるエリアだ。駅周辺に24時間営業のスーパーや飲食店があるため、生活にも困らない。

 義昭と結婚する際、両親が住んでいる朝霞市周辺に住むか同居も考えたのだが、ちょうど通勤に便利な場所にいい物件が見つかり、義昭の両親の資金援助を受けて引っ越しすることになった。だが、義昭が長男であることもあり、もし両親に何かあれば今住んでいる家を売って同居になるであろうこと、そのための資金援助だということを理解し、覚悟していた。

 車窓を見ると、群馬ICの高速道路の入口の案内看板が見えた。

 類たちは、志賀高原に行くって言ってたっけ……

 鞄の中のスマホが震える。手に取ると、香織からのLINEだった。

『今、スキー場に向かってるとこだよ。こんなに大勢で行くなんて、遠足みたいでテンション上がってきたかも!』

 添えられていたのはマイクロバス内で撮られた集合写真で、皆楽しそうに笑顔を見せていて、盛り上がっている様子が窺える。類は、萌と見知らぬ女の子に両腕をがっしりと掴まれて微笑んでいた。

 美羽の心臓にズクンと痛みが走る。香織に悪気がないとは分かっているものの、義昭の実家に向かっている途中でこんな写真を送ってきたことを恨みたくなった。

 下道でも帰省ラッシュで混んでいたため、ふたりは4時間かけてようやく義昭の実家に着いた。

「二人ともいらっしゃい。美羽さん、疲れてない?」

 玄関の引き戸を開けると、義昭の母の琴子が待ちきれないといった感じでふたりを出迎えた。いつも和服姿で背筋が伸びていて穏やかな物腰の義母が、今日はいつもより落ち着きなく感じるのは、溺愛している孫のほのかが来ているからかもしれない。

「キャーッ!!」

 子供独特の甲高い声が、バタバタという騒がしい音に混ざって奥から響いてきた。

「もうっ、走り回らないでよ。うるさいっっ!!」

 圭子の怒鳴り声も合わせて聞こえてきて、美羽は殺伐とした雰囲気を掻き消すように微笑み、軽く琴子にお辞儀した。

「いえ、大丈夫です。お義母さんご無沙汰しております。お世話になります」
「まぁまぁ、硬い挨拶はいいから上がってちょうだい」
「母さん、これ土産」
「あら義くん、いつもありがとう」

 琴子は、にこにこしながら義昭から紙袋を受け取った。義昭は実家に帰る際には手土産を忘れない。それも、毎回琴子の好きな老舗和菓子屋の超高級栗羊羹と決まっている。

 最初はなんて母親思いの優しい人だろうと感心していた美羽だったが、毎月1、2回帰省するのに毎回5千円以上もする高級羊羹を持っていくことに対して疑問を覚えるようになった。買うのは母親のためだけで、家に買って帰ってきたことは一度もない。けれど、そんなことでいちいち波風を立てるのは良くないと思い、心に秘めていた。

「じゃ、行こうか」
「うん」

 義昭に促され、玄関の正面に広がる廊下へは進まず、左横の扉から縁側へと抜ける。綺麗に咲き誇る椿や緑の眩しい松を眺めながら、今夜宿泊する部屋へと荷物を運ぶ。

 義昭の実家は古い平屋建てとなっている。玄関に近い6畳の和室の障子を開けると、イグサの匂いが仄かに漂ってきた。ベッドがなく、総桐箪笥が置かれているだけのシンプルな客間だ。ここは元々、義昭が結婚するまで使っていた自室だったため、以前はデスクや折りたたみ式のローテーブルもあったのだが、引っ越しする際に処分した。

 隣の8畳の和室は琴子と義昭の父、大作の寝室となっており、部屋と部屋の間は障子で仕切られているだけだ。当然話し声はまる聞こえとなるため、新婚当初はそれが堪らなく嫌だったが、今となってはそれが有り難く思えている。

 早速ボストンバッグを開け、下着や洋服を箪笥に仕舞っていると、ブブブーッとスマホのバイブ音が鳴った。

『美羽たーん、お正月休み楽しんでるー? こっちは渋滞つかまってぜんっぜん動いてないけど、みんながいるから楽しいたーん!!
 美羽たんも来られればよかったのにぃ』

 絵文字がたくさん入った萌からのLINEだった。添えられた写真は皆缶ビールやチュウハイを手にしていて、類の肩を浩平が組み、その横で香織が笑っていた。

 続いてブブッと鳴り、今度は浩平からだった。

『既にめっちゃ盛り上がってまーす!! てか、類くん楽しすぎっっ☆彡
 マジ、スノボ誘って良かったっす! 楽しんできますねー』
「ック……」

 美羽はスマホを持つ手に力を込めた。

 香織も萌も浩平もそれぞれLINEしてきているのに、類だけが何も音沙汰がない。自分の存在など忘れて楽しんでいると言わんばかりの態度に、それがわざとだと分かっていても心を掻き乱されずにはいられない。
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