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192.嫌がらせ

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 テーブルに置いてあるスマホから、人気バンドの着メロが流れてきた。

「あ、やっべ! 音消すの忘れてた!!」

 慌てて浩平がスマホを取り、電話に出ると控え室を出て行った。浩平の背中を見送ってから、美羽は香織に向き直った。

「そういえば、かおりんにかかってきてた間違い電話、どうなったの?」

 先ほどの香織の態度が気にかかっていたこともあり、美羽がそう尋ねると、ハァ……と香織は大きく息を吐いた。

「それがさ……今度は、変なメールが送られてくるようになったんだよね」

 香織はエプロンのポケットからスマホを取り出してスクロールすると、画面を見せた。そこには、怪しげな出会い系サイトやアダルト系サイトの宣伝メールなんかが送られている。

「送り先がひとつだったらブロックすればそれで済むんだけど、色んなところから送られてくるからブロックしても意味なくて。しかも家のポストにまでこういう怪しいチラシが入ってたりして、なんか気味悪いんだよね」
「えぇっ、それって家まで知られてるってことだよね!?
 かおりん、大丈夫なの?」
「うん……帰りにあとをつけられたり、誰かに見られたりっていうのは感じないし、直接的な被害はないけど憂鬱でさ。だから、家にいるより外に出た方がいいのかなーってこともあって、浩平たちとスノボ行くことにしたんだよね」

 そうだったんだ……

 先ほど、香織がスノボに行くことに対して後ろ暗い気持ちになっていた美羽は、申し訳なく思った。

「……お店のお客様かもしれないし、気をつけてね」

 そう言いながらも、心のどこかで藤岡の妻に浮気が発覚して、香織が嫌がらせを受けているのではという思いもあった。ただの間違い電話や悪戯電話ならここまですることはないし、香織の自宅まで把握しているはずなどない。

 だがそんなこと、香織に面と向かって言えなかった。香織だって藤岡と不倫関係にある以上、その可能性を考えているはずだ。そんな彼女の不安を煽るようなことはしたくない。

「うん、大丈夫。美羽、ごめんね心配かけて」

 申し訳なさそうに眉を下げた香織に、美羽は大きく頭を振った。

「何言ってるの! なにかあったら、絶対に連絡してね!!」
「うん、分かった」

 香織は美羽に笑顔で頷いた。
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