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189.ノック
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美羽はベッドに入り、溜息を吐いた。あのクリスマスイブから、5日が過ぎた。
もうずっと、類に抱かれていない……
現実にも、夢想の中でも。
これでいいのだと言い聞かせながらも、夜になり、ベッドに入ると躰が疼いてくる。芯奥が熱くなり、類を欲して蠢きだす。
だからと言って、自慰行為に及ぶことは出来ない。類を思い浮かべて自慰をすれば、その想いが、欲情が、類に伝わってしまう。
けれど、美羽には類を妄想する以外で自慰行為をする術を知らなかった。美羽が欲情するのは類に対してだけで、熱い躰を持て余す時に思い起こされるのは彼の過去との交わりで、美羽は類を思いながら彼の指や吐息や熱を想像して指を滑らせた。
類と再会する前……義昭との行為の時でさえ、類のことを思い浮かべ、満たされない思いを自慰行為で埋めていたというのに。類とひとつ屋根の下で普通の姉弟として過ごすことがこんなに辛いとは、思いもしなかった。
美羽は火照る躰を抱き締め、シーツに包まった。
コンコン……
部屋をノックする音が響き、美羽は小さく躰を震わせた。
る、い?
扉の向こうに類がいると思うと、鼓動がどんどん高鳴っていく。その禁断の扉を開けてはいけないと分かっているのに、今すぐにでも駆け出して開きたい自分がいる。
どう答えようか、寝たふりをするべきなのか迷っていると、もう一度ノックの音が遠慮がちに響いた。
「美羽。もう寝てるか?」
ぇ。義昭さん?
時計を見ると11時半だった。今日は残業で遅くなると言われていたことと、美羽は明日も仕事があるため、義昭の帰りを待たずに部屋へと戻っていた。
けれど、義昭は自分が帰るまで待っていなくてもいいと言っていたし、それを咎められる理由はないはず。
そこまで考えて、美羽はハッとした。
もしかして、合図なの?
結婚した当初からそれぞれの部屋を持っている美羽と義昭には、暗黙のルールがあった。それは、義昭が美羽の部屋を訪れたら、情事を促す合図なのだと。
まさ、か……
そんなはず、ないよね……
きっと別の用事でノックしたのだと思い、ベッドから足を抜きかけて押し止まった。類とふたりきりの夜以来、義昭の態度が変化しているからだ。
今日だって、電話越しにも義昭の声がいつもより柔らかいことが伝わってきたし、自分に対する気遣いを感じた。
ーーもし、義昭さんがそのつもりだったら。
そんな考えが浮かび、美羽は再びベッドに潜り込み、息を殺した。義昭とセックスどころか、キスも、触れられることすら想像するだけで寒気が走る。
けれど、夫婦という関係である以上……いや、夫婦という対面を守るために、求められたら拒否は出来ない。
3度目のノックは、鳴らなかった。
足音が去っていき、向かい側の扉が開閉する音を聞き、美羽は小さく震えながら息を吐いた。
もうずっと、類に抱かれていない……
現実にも、夢想の中でも。
これでいいのだと言い聞かせながらも、夜になり、ベッドに入ると躰が疼いてくる。芯奥が熱くなり、類を欲して蠢きだす。
だからと言って、自慰行為に及ぶことは出来ない。類を思い浮かべて自慰をすれば、その想いが、欲情が、類に伝わってしまう。
けれど、美羽には類を妄想する以外で自慰行為をする術を知らなかった。美羽が欲情するのは類に対してだけで、熱い躰を持て余す時に思い起こされるのは彼の過去との交わりで、美羽は類を思いながら彼の指や吐息や熱を想像して指を滑らせた。
類と再会する前……義昭との行為の時でさえ、類のことを思い浮かべ、満たされない思いを自慰行為で埋めていたというのに。類とひとつ屋根の下で普通の姉弟として過ごすことがこんなに辛いとは、思いもしなかった。
美羽は火照る躰を抱き締め、シーツに包まった。
コンコン……
部屋をノックする音が響き、美羽は小さく躰を震わせた。
る、い?
扉の向こうに類がいると思うと、鼓動がどんどん高鳴っていく。その禁断の扉を開けてはいけないと分かっているのに、今すぐにでも駆け出して開きたい自分がいる。
どう答えようか、寝たふりをするべきなのか迷っていると、もう一度ノックの音が遠慮がちに響いた。
「美羽。もう寝てるか?」
ぇ。義昭さん?
時計を見ると11時半だった。今日は残業で遅くなると言われていたことと、美羽は明日も仕事があるため、義昭の帰りを待たずに部屋へと戻っていた。
けれど、義昭は自分が帰るまで待っていなくてもいいと言っていたし、それを咎められる理由はないはず。
そこまで考えて、美羽はハッとした。
もしかして、合図なの?
結婚した当初からそれぞれの部屋を持っている美羽と義昭には、暗黙のルールがあった。それは、義昭が美羽の部屋を訪れたら、情事を促す合図なのだと。
まさ、か……
そんなはず、ないよね……
きっと別の用事でノックしたのだと思い、ベッドから足を抜きかけて押し止まった。類とふたりきりの夜以来、義昭の態度が変化しているからだ。
今日だって、電話越しにも義昭の声がいつもより柔らかいことが伝わってきたし、自分に対する気遣いを感じた。
ーーもし、義昭さんがそのつもりだったら。
そんな考えが浮かび、美羽は再びベッドに潜り込み、息を殺した。義昭とセックスどころか、キスも、触れられることすら想像するだけで寒気が走る。
けれど、夫婦という関係である以上……いや、夫婦という対面を守るために、求められたら拒否は出来ない。
3度目のノックは、鳴らなかった。
足音が去っていき、向かい側の扉が開閉する音を聞き、美羽は小さく震えながら息を吐いた。
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