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188.矛盾するふたつの心
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「は? なに、それ。年賀状のデザイン頼んで描いてもらっただけじゃん」
「だったら、そんなに近寄る必要ないでしょ! 類、萌たんみたいな女の子のタイプ、今まで苦手だったくせに!!」
絶対に言ってはいけないと思っていたはずなのに、つい感情に任せて口が滑ってしまい、美羽は深く後悔した。
「ご、ごめ……そうじゃ、なくて」
「なに、嫉妬?」
「そんなんじゃないよ!!」
慌てて否定したものの、それは間違いなく嫉妬だった。
「そうじゃん。今までミュー以外の女の子に優しくしたことなんてないのに、僕がお客さんとか従業員の女の子に優しくしたり、仲良くしてるのが気に入らないんでしょ?
はっきりそう言いなよ。そしたら、今度から昔みたいな態度でミュー以外の子には優しくしないから」
「そんなこと、望んでないよ……」
美羽は俯いて肩を震わせた。
カフェ店員としてお客様には万全のサービスに努めなければならないし、従業員達と円満な関係も築いていかなければならない。類に自分以外の女性には優しくしないでなんて、望むべきではないことは分かっている。
類が皮肉な笑みを浮かべ、美羽の腰に回していた手に力を込めた。
「そうだよね、ミューが弟に嫉妬するわけないよね。僕に彼女がいてもおかしくないし、いいことだと思うって言ってたもんね」
イブに交わした会話を再現され、美羽は唇をきつく結んだ。ジンジンと腰に伝わってくる類の熱が、彼の嫉妬の深さを思わせる。
こんな状況にも関わらず、類に嫉妬してもらえるのが嬉しいと思ってしまっている。類が激しく嫉妬すればするほどに、それほどまでに自分は愛されているのだと感じることができるから。
けれどその一方で、類に対して激昂してしまった美羽もまた、そうなのだ。類を深く愛し、従業員の萌にさえも嫉妬していることを知らしめてしまった。
独占欲が強いのは類だけじゃない。自分だって、そうなのだ。
互いに芽生えた嫉妬の芽を断ち切らなければいけないのに、それは深く根を張り、絡まっていく。今までふたりにはなかった『他者』の存在が、互いの愛慕を更に深く激しくさせていく。
お願い。もうこれ以上嫉妬させないで……
喉元まで出かかった言葉は押し戻され、飲み下された。
「そういえば、浩平くんから正月休みにスノボに誘われたんだ」
突然変わった話題に、これ以上追求されず安心したものの、正月休みのことに触れられて美羽に新たな緊張が走る。
「そう」
「ミューは、どう思う?」
顔を覗き込まれ、ドキッとする。
「る、類が行きたければ……行ってこればいいんじゃない? 楽しそうだし」
「ミューはヨシの実家に行くんだよね」
「うん」
自分の真意を悟られぬよう平静を装いながら、美羽は高まる鼓動を必死に抑えた。
「知らないジジババとかガキに囲まれて社交辞令交わすのも面倒だし、スノボいこっかなー」
類の返答を聞き、美羽は顔を明るくさせた。
「そうなの。私も実は義昭さんの実家に行っても堅苦しくて類が退屈しちゃうだろうし、どうしようって思ってたの。
絶対、浩平くんたちとスノボ行く方が楽しいよ!」
類は顎に指を添えると、美羽を上目遣いで見つめた。
「ねぇ……正月に、母さんに会う予定はある?」
途端に、美羽の心臓がバクンッと大きく跳ねた。
「ない、よ」
美羽は類の目が見られず、視線を車窓へと移した。見慣れた景色が近づいてきて、早く着いて……と、祈るような気持ちで見つめた。
「そう、なんだ」
目線の合わない美羽に向かって類が呟く。美羽の緊張が、全身から伝わってきた。
類は美羽の腰から手を外し、うーんと伸びをした。
「じゃ、浩平くんたちとスノボ行くねー!」
美羽の安堵した表情が、車窓に映る。
「うん、楽しんできてね」
「お土産、何がいいかなー。長野の志賀高原だって! 長野って何が有名なんだっけ? りんご?」
先ほどのトゲトゲした雰囲気からは一転し、甘えた口調で尋ねてきた類に美羽が顔を向ける。
「なんでもいいよ」
「そうだよね。どうせ僕が選んでもミューが選んでも、同じもの選ぶもんねー♪」
機嫌よく言った類に、「そうだね」と美羽が微笑んだ。
小学校の修学旅行でも、中学校の修学旅行でも同じクラスになれず、当然グループも別々だった類と美羽はグループ研究の際に別行動を取ることになったが、その先で買ったお土産はまったく同じものだった。それも、有名な銘菓だとか人気のキャラクターものといったようなものではなかったため、周囲は驚いたものだった。
けれど美羽と類にとってそれは特段珍しいことではなかったし、寧ろやはりといった感じだった。
今だって、類が美羽に買ってきてくれるものはきっと自分もその店にいたら選びそうなものばかりというよりも、自分が選んで買ってきているような感覚すら覚える。
類がスマホを取り出し、指をスライドさせた。
「浩平くんに、早速『行く』って返事しといた」
もう浩平くんとLINEアドレス交換したんだ……
そう思っている間にもう、お知らせ音が響いて浩平から返信が届いた。
「アハハ、みてみて! 浩平くん、めっちゃ喜んでる!!」
類は、『よっしゃー!!』と興奮した顔で叫んでいるステッカーを美羽に見せて笑った。
「ほんとだね」
浩平くんにまで、嫉妬するなんて……
美羽の心の中にどうしても寂しい気持ちが浮かび上がってしまう。矛盾するふたつの心に引き裂かれそうだった。
「だったら、そんなに近寄る必要ないでしょ! 類、萌たんみたいな女の子のタイプ、今まで苦手だったくせに!!」
絶対に言ってはいけないと思っていたはずなのに、つい感情に任せて口が滑ってしまい、美羽は深く後悔した。
「ご、ごめ……そうじゃ、なくて」
「なに、嫉妬?」
「そんなんじゃないよ!!」
慌てて否定したものの、それは間違いなく嫉妬だった。
「そうじゃん。今までミュー以外の女の子に優しくしたことなんてないのに、僕がお客さんとか従業員の女の子に優しくしたり、仲良くしてるのが気に入らないんでしょ?
はっきりそう言いなよ。そしたら、今度から昔みたいな態度でミュー以外の子には優しくしないから」
「そんなこと、望んでないよ……」
美羽は俯いて肩を震わせた。
カフェ店員としてお客様には万全のサービスに努めなければならないし、従業員達と円満な関係も築いていかなければならない。類に自分以外の女性には優しくしないでなんて、望むべきではないことは分かっている。
類が皮肉な笑みを浮かべ、美羽の腰に回していた手に力を込めた。
「そうだよね、ミューが弟に嫉妬するわけないよね。僕に彼女がいてもおかしくないし、いいことだと思うって言ってたもんね」
イブに交わした会話を再現され、美羽は唇をきつく結んだ。ジンジンと腰に伝わってくる類の熱が、彼の嫉妬の深さを思わせる。
こんな状況にも関わらず、類に嫉妬してもらえるのが嬉しいと思ってしまっている。類が激しく嫉妬すればするほどに、それほどまでに自分は愛されているのだと感じることができるから。
けれどその一方で、類に対して激昂してしまった美羽もまた、そうなのだ。類を深く愛し、従業員の萌にさえも嫉妬していることを知らしめてしまった。
独占欲が強いのは類だけじゃない。自分だって、そうなのだ。
互いに芽生えた嫉妬の芽を断ち切らなければいけないのに、それは深く根を張り、絡まっていく。今までふたりにはなかった『他者』の存在が、互いの愛慕を更に深く激しくさせていく。
お願い。もうこれ以上嫉妬させないで……
喉元まで出かかった言葉は押し戻され、飲み下された。
「そういえば、浩平くんから正月休みにスノボに誘われたんだ」
突然変わった話題に、これ以上追求されず安心したものの、正月休みのことに触れられて美羽に新たな緊張が走る。
「そう」
「ミューは、どう思う?」
顔を覗き込まれ、ドキッとする。
「る、類が行きたければ……行ってこればいいんじゃない? 楽しそうだし」
「ミューはヨシの実家に行くんだよね」
「うん」
自分の真意を悟られぬよう平静を装いながら、美羽は高まる鼓動を必死に抑えた。
「知らないジジババとかガキに囲まれて社交辞令交わすのも面倒だし、スノボいこっかなー」
類の返答を聞き、美羽は顔を明るくさせた。
「そうなの。私も実は義昭さんの実家に行っても堅苦しくて類が退屈しちゃうだろうし、どうしようって思ってたの。
絶対、浩平くんたちとスノボ行く方が楽しいよ!」
類は顎に指を添えると、美羽を上目遣いで見つめた。
「ねぇ……正月に、母さんに会う予定はある?」
途端に、美羽の心臓がバクンッと大きく跳ねた。
「ない、よ」
美羽は類の目が見られず、視線を車窓へと移した。見慣れた景色が近づいてきて、早く着いて……と、祈るような気持ちで見つめた。
「そう、なんだ」
目線の合わない美羽に向かって類が呟く。美羽の緊張が、全身から伝わってきた。
類は美羽の腰から手を外し、うーんと伸びをした。
「じゃ、浩平くんたちとスノボ行くねー!」
美羽の安堵した表情が、車窓に映る。
「うん、楽しんできてね」
「お土産、何がいいかなー。長野の志賀高原だって! 長野って何が有名なんだっけ? りんご?」
先ほどのトゲトゲした雰囲気からは一転し、甘えた口調で尋ねてきた類に美羽が顔を向ける。
「なんでもいいよ」
「そうだよね。どうせ僕が選んでもミューが選んでも、同じもの選ぶもんねー♪」
機嫌よく言った類に、「そうだね」と美羽が微笑んだ。
小学校の修学旅行でも、中学校の修学旅行でも同じクラスになれず、当然グループも別々だった類と美羽はグループ研究の際に別行動を取ることになったが、その先で買ったお土産はまったく同じものだった。それも、有名な銘菓だとか人気のキャラクターものといったようなものではなかったため、周囲は驚いたものだった。
けれど美羽と類にとってそれは特段珍しいことではなかったし、寧ろやはりといった感じだった。
今だって、類が美羽に買ってきてくれるものはきっと自分もその店にいたら選びそうなものばかりというよりも、自分が選んで買ってきているような感覚すら覚える。
類がスマホを取り出し、指をスライドさせた。
「浩平くんに、早速『行く』って返事しといた」
もう浩平くんとLINEアドレス交換したんだ……
そう思っている間にもう、お知らせ音が響いて浩平から返信が届いた。
「アハハ、みてみて! 浩平くん、めっちゃ喜んでる!!」
類は、『よっしゃー!!』と興奮した顔で叫んでいるステッカーを美羽に見せて笑った。
「ほんとだね」
浩平くんにまで、嫉妬するなんて……
美羽の心の中にどうしても寂しい気持ちが浮かび上がってしまう。矛盾するふたつの心に引き裂かれそうだった。
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