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183.嫉妬の芽
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賑やかだったランチタイムが終わり、類も厨房に戻って暫くしてから休憩に入り、ようやくいつものカフェの雰囲気が戻った。
「お待たせー。休憩入って」
「うん、ありがと」
香織から声を掛けられ、美羽はホッと息を吐いた。
まかないを載せたトレイを手に控え室に入ると、萌が手を振ってきた。
「美羽たん、おつかれたーん♪」
萌たん、すっかり元気になって良かった。
そう思いながら笑顔を見せた美羽の表情が張り付いた。
類がノートパソコンを操作している横で、寄り添うように座っている萌の姿に視線が釘付けになる。
どうして、横並びで座ってるの……
「ミュー、お疲れさま」
パソコンから顔を上げた類に微笑まれ、泣きそうな気持ちになりつつ、美羽は無理やり笑顔を作った。
「おつかれ、さま」
「美羽たーん! 年賀状見て見て、やば可愛たん!!」
萌に言われてパソコンの画面を覗き込むと、カフェをバックに店員と客に扮した可愛らしいいのししのイラストが描かれ、新年の挨拶が添えられていた。
『謹賀新春
昨年も弊店をご贔屓にしてくださり誠にありがとうございました。
これからもさらなるサービスの向上をはかり皆様に愛されるカフェを目指します。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
平成三十一年 元旦』
「うわぁ、可愛い! 萌たんが描いたんだ」
そっか。
萌たんがデザインを手伝ってたから横に座ってただけで、特別な意味なんてないんだ……
美羽は心に芽生えそうな嫉妬の芽を、そっと摘み取った。
「類たんがね、萌たんの描いた絵をスキャナーで読み込んでサクッと作ってくれたん♪ そしたら瞬殺で完成して、類たん、神ーーっっ!!」
萌は瞳をキラキラさせて、両手を胸の前で合わせた。
「ふふっ、萌たんがデザインしたお持ち帰り用の箱からイメージが湧いて伝えたら、ぴったりのイラストを描いてもらえて、すぐに年賀状できちゃった。ありがと♪」
美羽の心臓にチクリと針を刺されたような痛みが走る。
ぇ。『萌たん』って、もうそんな呼び名で呼んでるの?
この手の女の子は類、苦手なはずなのに……
って、嫌だ私……萌たんに対してそんなこと考えるなんて。萌たんはいい子で、妹みたいに可愛く思ってたのに。
「ほわーっ、類たんの笑顔サイコーたん♪ 蕩けるぅ」
「ハハッ……ほんと、萌たんって可愛いね。僕の周りにいなかったタイプだから、興味惹かれちゃうな」
目を細めて萌を見つめる類の目の前に、美羽はバンッと椅子を引いて座った。テーブルが揺れ、スープが溢れた。
斜め前に座る萌のランチは手つかずのままだ。きっと休憩の間、ずっとこんな感じでデザインの相談をしていたのだと思うと胃がムカムカした。
「萌たん、ランチ食べたら? 休憩時間なくなっちゃうよ」
いつもより刺々しい言い方になってしまう。そんな自分が堪らなく嫌なのに、止められない。
「あ、そうだったぁ! ランチ、食べるたーん♪」
萌は美羽の変化に気づかず、フォークを手に食事を始めた。美羽は萌に申し訳なく思いつつ、目の前の類がパソコンを開いてくれていたお陰で嫉妬する自分の醜い顔を見られず、ホッとした。
「萌たん、今日ランチタイム入ってくれてありがとう。凄く助かったよ」
美羽は先ほどの冷たい態度を緩和するように柔らかく萌に話しかけた。まるでご機嫌取りのような自分の態度にイライラする。
「どいたまー。でも、ランチタイムってすっごい忙しいんだねー。しかもウェイティングのお客様もずっと待たされてイライラしてて萌たんにおこだし、つらみー!」
萌は両肘をテーブルにつき、掌を顎に乗せてハーッと大きく息を吐いた。そんな萌に、美羽はクスッと笑みを浮かべた。
「そうだね、ランチタイムは一気にお客さん来て短時間で一気に帰るから、ディナーしか入ってないときついよね。おつかれさま」
「うぅっ、美羽たん優しー! 癒されたん♪」
うん、大丈夫。私、いつものように話せてる。
こんなことでいちいち嫉妬してたら、身がもたないよね……気にしないようにしなくちゃ。
「お待たせー。休憩入って」
「うん、ありがと」
香織から声を掛けられ、美羽はホッと息を吐いた。
まかないを載せたトレイを手に控え室に入ると、萌が手を振ってきた。
「美羽たん、おつかれたーん♪」
萌たん、すっかり元気になって良かった。
そう思いながら笑顔を見せた美羽の表情が張り付いた。
類がノートパソコンを操作している横で、寄り添うように座っている萌の姿に視線が釘付けになる。
どうして、横並びで座ってるの……
「ミュー、お疲れさま」
パソコンから顔を上げた類に微笑まれ、泣きそうな気持ちになりつつ、美羽は無理やり笑顔を作った。
「おつかれ、さま」
「美羽たーん! 年賀状見て見て、やば可愛たん!!」
萌に言われてパソコンの画面を覗き込むと、カフェをバックに店員と客に扮した可愛らしいいのししのイラストが描かれ、新年の挨拶が添えられていた。
『謹賀新春
昨年も弊店をご贔屓にしてくださり誠にありがとうございました。
これからもさらなるサービスの向上をはかり皆様に愛されるカフェを目指します。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
平成三十一年 元旦』
「うわぁ、可愛い! 萌たんが描いたんだ」
そっか。
萌たんがデザインを手伝ってたから横に座ってただけで、特別な意味なんてないんだ……
美羽は心に芽生えそうな嫉妬の芽を、そっと摘み取った。
「類たんがね、萌たんの描いた絵をスキャナーで読み込んでサクッと作ってくれたん♪ そしたら瞬殺で完成して、類たん、神ーーっっ!!」
萌は瞳をキラキラさせて、両手を胸の前で合わせた。
「ふふっ、萌たんがデザインしたお持ち帰り用の箱からイメージが湧いて伝えたら、ぴったりのイラストを描いてもらえて、すぐに年賀状できちゃった。ありがと♪」
美羽の心臓にチクリと針を刺されたような痛みが走る。
ぇ。『萌たん』って、もうそんな呼び名で呼んでるの?
この手の女の子は類、苦手なはずなのに……
って、嫌だ私……萌たんに対してそんなこと考えるなんて。萌たんはいい子で、妹みたいに可愛く思ってたのに。
「ほわーっ、類たんの笑顔サイコーたん♪ 蕩けるぅ」
「ハハッ……ほんと、萌たんって可愛いね。僕の周りにいなかったタイプだから、興味惹かれちゃうな」
目を細めて萌を見つめる類の目の前に、美羽はバンッと椅子を引いて座った。テーブルが揺れ、スープが溢れた。
斜め前に座る萌のランチは手つかずのままだ。きっと休憩の間、ずっとこんな感じでデザインの相談をしていたのだと思うと胃がムカムカした。
「萌たん、ランチ食べたら? 休憩時間なくなっちゃうよ」
いつもより刺々しい言い方になってしまう。そんな自分が堪らなく嫌なのに、止められない。
「あ、そうだったぁ! ランチ、食べるたーん♪」
萌は美羽の変化に気づかず、フォークを手に食事を始めた。美羽は萌に申し訳なく思いつつ、目の前の類がパソコンを開いてくれていたお陰で嫉妬する自分の醜い顔を見られず、ホッとした。
「萌たん、今日ランチタイム入ってくれてありがとう。凄く助かったよ」
美羽は先ほどの冷たい態度を緩和するように柔らかく萌に話しかけた。まるでご機嫌取りのような自分の態度にイライラする。
「どいたまー。でも、ランチタイムってすっごい忙しいんだねー。しかもウェイティングのお客様もずっと待たされてイライラしてて萌たんにおこだし、つらみー!」
萌は両肘をテーブルにつき、掌を顎に乗せてハーッと大きく息を吐いた。そんな萌に、美羽はクスッと笑みを浮かべた。
「そうだね、ランチタイムは一気にお客さん来て短時間で一気に帰るから、ディナーしか入ってないときついよね。おつかれさま」
「うぅっ、美羽たん優しー! 癒されたん♪」
うん、大丈夫。私、いつものように話せてる。
こんなことでいちいち嫉妬してたら、身がもたないよね……気にしないようにしなくちゃ。
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