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174.類の望むもの
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「どうして!? 約束通り類をカフェで働かせたじゃない。正式に採用されて、類は自分の望むものを手に入れたでしょ!?」
喉の奥で「クッ」と低い音を鳴らし、類が顔を歪めて美羽を見つめた。
「僕の本当に望むものは、まだ手に入れてないよ」
獰猛な衝動をその瞳の奥に感じ、美羽はゾクリと躰を震わせた。
類は妖艶な笑みを浮かべた。
「口約束なんて、あてにならないでしょ? だから、これは契約の印」
「横暴すぎるよ!」
キッと睨みつけた美羽に、類は唇を歪めてククク……と笑った。
「僕のことを受け入れるとかいいながら拒否して、弟として振る舞えなんて言うミューの方がよっぽど横暴だと思うけど?
僕がどれだけショックを受けて傷ついてるのか、ほんとに分かってない。
これは、その代償だよ。これぐらいで赦してあげるなんて、僕って優し過ぎるよね」
「る、い……」
そんなことを言われたら、美羽は受け止めざるをえない。類を傷つけたのは自分なのだから。
ネックレスをつけることでこの先の安全が保障されるのなら、そうするしかない。
類が美羽のネックレスに人差し指を掛けて持ち上げ、首元を覗き込んだ。
「そのキスマーク……ヨシは、気づいたのかな」
ビクッと肩を揺らして類を見つめると、南京錠にキスしてから美羽を見つめ返した。大きなアーモンド型の猫目が悪戯っぽく煌めいている。
「そんな子供騙し、僕だったら騙されないけどね♪
あーあ、ミューってばせっかく出した僕のサインに気づかないんだもん」
類は美羽を見つめたまま、意味深に首を傾げた。
「サイ、ン……?」
「玄関で僕、コート脱がずにそのままリビング入ってったでしょ。ミューもそれに続いてたら、コート着てても違和感なかったし、香織さんのコートだなんてヨシには絶対気づかれないのにぃ」
シャワーを浴びて部屋着に替え、タオルを巻いて誤魔化そうとしたのを阻止したのは類だったくせに……そう反論しようとして、美羽は頬を引き攣らせた。
え。
ちょっと、待って……
「どうして類……あのコートが、かおりんのだって知ってるの?」
浩平くんにコートのことを聞かれたのは、類が入ってくる前だったのに……
類はフッと蠱惑的な笑みを浮かべた。
「どうしてだと、思う?」
「どうして……って……」
まさか……盗聴してたの? それとも、私の心を読んでいたの!?
青褪めて黙りこくると、類がフワッと美羽の頭を撫でた。
「今までの生活みててミューは職場の人間以外と関わる時間が全然ないし、香織さんとは特別仲が良さそうな感じだったから、昨日泊まったとしたら彼女の家だろうなぁと思って。だってあのコート、綺麗ではあるけど、新品じゃなかったし」
「そ、そっか」
本当に、それ……だけ?
確かに美羽の生活は家と職場の往復が主で、それ以外の交友関係は殆どない。類に指摘された通りなのだが、納得できない何かがそこにあった。
だって、まだ類に確認してない。
どうして、かおりんと同じ大学で、学部もゼミもサークルも一緒だったってことを知ってるのかを。
それがあるから、類のこと信用できない。
「類はかおりんのこと、どうやって知ったの?」
「え。なに言ってんの?
ミューが色々教えてくれたんじゃん」
飄々と答えながら睫毛を伏せた類に、一気に美羽の顔が熱くなった。
「教えてないよ! どこの大学に行ってたとか、どんな勉強をしてたかだけしか話してない!!」
だって、友達の話をするのが恐かったから。だから、注意して避けてた。それなのに、話してたことを忘れるはずがないよ……!
興奮して声を荒げた美羽とは対照的に、類は余裕の表情を浮かべて宥めるように声を和らげた。
「あの時、結構お酒飲んでたから覚えてないんじゃない?
ミュー、お酒弱いもんねー」
類に比べればお酒は弱いほうかもしれないけど、記憶を失くすほどに酔ったことなんてないし、あの日も普通に義昭さんとホテルに戻ってたはず……
あまりにも自信満々な類の態度に、混乱させられる。自分の方が間違っているのでは、思い違いをしているのでは、と思わせられそうになる。
違う。
そんなはず、絶対にない……
「ミュー、疲れてるんじゃない?
昨日は慣れないベッドで寝てたことだし、今夜はゆっくり休みなよ」
美羽の心臓がギュッと縮んだ。昨夜の『夢』が生々しく蘇る。
ねぇ、類……
何もなかったかのように、また貴方は今夜も私のベッドに『夢』として現れるつもりなの?
おそるおそる類を見上げると、人差し指と中指を揃えて自らの唇に触れてから、そっとそれを美羽の唇に当てた。
「おやすみ、お姉ちゃん。いい夢、見てね……」
指から与えられた間接キスは、熱を持ったまま、いつまでも美羽の唇に纏わりついた。
喉の奥で「クッ」と低い音を鳴らし、類が顔を歪めて美羽を見つめた。
「僕の本当に望むものは、まだ手に入れてないよ」
獰猛な衝動をその瞳の奥に感じ、美羽はゾクリと躰を震わせた。
類は妖艶な笑みを浮かべた。
「口約束なんて、あてにならないでしょ? だから、これは契約の印」
「横暴すぎるよ!」
キッと睨みつけた美羽に、類は唇を歪めてククク……と笑った。
「僕のことを受け入れるとかいいながら拒否して、弟として振る舞えなんて言うミューの方がよっぽど横暴だと思うけど?
僕がどれだけショックを受けて傷ついてるのか、ほんとに分かってない。
これは、その代償だよ。これぐらいで赦してあげるなんて、僕って優し過ぎるよね」
「る、い……」
そんなことを言われたら、美羽は受け止めざるをえない。類を傷つけたのは自分なのだから。
ネックレスをつけることでこの先の安全が保障されるのなら、そうするしかない。
類が美羽のネックレスに人差し指を掛けて持ち上げ、首元を覗き込んだ。
「そのキスマーク……ヨシは、気づいたのかな」
ビクッと肩を揺らして類を見つめると、南京錠にキスしてから美羽を見つめ返した。大きなアーモンド型の猫目が悪戯っぽく煌めいている。
「そんな子供騙し、僕だったら騙されないけどね♪
あーあ、ミューってばせっかく出した僕のサインに気づかないんだもん」
類は美羽を見つめたまま、意味深に首を傾げた。
「サイ、ン……?」
「玄関で僕、コート脱がずにそのままリビング入ってったでしょ。ミューもそれに続いてたら、コート着てても違和感なかったし、香織さんのコートだなんてヨシには絶対気づかれないのにぃ」
シャワーを浴びて部屋着に替え、タオルを巻いて誤魔化そうとしたのを阻止したのは類だったくせに……そう反論しようとして、美羽は頬を引き攣らせた。
え。
ちょっと、待って……
「どうして類……あのコートが、かおりんのだって知ってるの?」
浩平くんにコートのことを聞かれたのは、類が入ってくる前だったのに……
類はフッと蠱惑的な笑みを浮かべた。
「どうしてだと、思う?」
「どうして……って……」
まさか……盗聴してたの? それとも、私の心を読んでいたの!?
青褪めて黙りこくると、類がフワッと美羽の頭を撫でた。
「今までの生活みててミューは職場の人間以外と関わる時間が全然ないし、香織さんとは特別仲が良さそうな感じだったから、昨日泊まったとしたら彼女の家だろうなぁと思って。だってあのコート、綺麗ではあるけど、新品じゃなかったし」
「そ、そっか」
本当に、それ……だけ?
確かに美羽の生活は家と職場の往復が主で、それ以外の交友関係は殆どない。類に指摘された通りなのだが、納得できない何かがそこにあった。
だって、まだ類に確認してない。
どうして、かおりんと同じ大学で、学部もゼミもサークルも一緒だったってことを知ってるのかを。
それがあるから、類のこと信用できない。
「類はかおりんのこと、どうやって知ったの?」
「え。なに言ってんの?
ミューが色々教えてくれたんじゃん」
飄々と答えながら睫毛を伏せた類に、一気に美羽の顔が熱くなった。
「教えてないよ! どこの大学に行ってたとか、どんな勉強をしてたかだけしか話してない!!」
だって、友達の話をするのが恐かったから。だから、注意して避けてた。それなのに、話してたことを忘れるはずがないよ……!
興奮して声を荒げた美羽とは対照的に、類は余裕の表情を浮かべて宥めるように声を和らげた。
「あの時、結構お酒飲んでたから覚えてないんじゃない?
ミュー、お酒弱いもんねー」
類に比べればお酒は弱いほうかもしれないけど、記憶を失くすほどに酔ったことなんてないし、あの日も普通に義昭さんとホテルに戻ってたはず……
あまりにも自信満々な類の態度に、混乱させられる。自分の方が間違っているのでは、思い違いをしているのでは、と思わせられそうになる。
違う。
そんなはず、絶対にない……
「ミュー、疲れてるんじゃない?
昨日は慣れないベッドで寝てたことだし、今夜はゆっくり休みなよ」
美羽の心臓がギュッと縮んだ。昨夜の『夢』が生々しく蘇る。
ねぇ、類……
何もなかったかのように、また貴方は今夜も私のベッドに『夢』として現れるつもりなの?
おそるおそる類を見上げると、人差し指と中指を揃えて自らの唇に触れてから、そっとそれを美羽の唇に当てた。
「おやすみ、お姉ちゃん。いい夢、見てね……」
指から与えられた間接キスは、熱を持ったまま、いつまでも美羽の唇に纏わりついた。
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