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166.取り込まれていく同僚たち
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浩平は、待ってましたと言わんばかりに、興奮気味に類に話しかけた。
「いやー、見れば見るほどそっくりっすよね、美羽さんと類くんって! 俺、小学生の時に男女の双子の友達いたけど、ここまで似てなかったっすもん、ビックリしました!!」
「あぁ、僕たちは一卵性だから」
「へぇー、男女でも一卵性双生児ってあるんっすね。小学校とか中学校とかでめちゃめちゃ目立ってたんじゃないっすか? あっ、類くんってずっとアメリカ住んでたんっすよね? ってことは、英語もバリバリに話せるってことっすか? かっけー!!」
浩平は男性だが、女性のように次から次に話題が変わる。だからなのか、女友達も多い。
「ハハッ……英語なんて、アメリカに3ヶ月も住んでいれば自然に身につくよ」
「いやっ、浩平は3年住んだって身につかないわよ!」
「うわっ、かおりん酷いっす……でも確かに、そんな自信ないっすけど」
類が香織と浩平のやりとりを見つめ、優艶でいて、少し寂しげな笑みを浮かべる。
「なんかいいね、こういうの……
僕、日本に来る前もずっと、こんな風に気軽に話せるような仲のいい友達なんていなかったから、たとえ今日だけでも、みんなの中に入れてもらえて嬉しいな」
途端に香織だけでなく、浩平までもが顔を真っ赤にした。
「る、類くん、もうここで働けばいいじゃない!」
「そうっすよ! だってよっぴーが入院してる間、また新たに人を雇わなきゃいけないわけだし、ランチタイムの時もすっげー頑張って働いてくれて俺たちマジで助かったし! ね、隼斗さん!」
急に話を振られ、静かに食事をしていた隼斗が顔を上げた。ちらりと美羽を見つめる。美羽はゴクリと生唾を飲みこんだ。
「浩平、お前が勝手に決めていい話じゃないってさっきも言っただろう。
……うちとしては人手が足りないから働いてもらえれば助かるが、今日は急遽手伝いに入ってもらうことになったわけだし、今までこういったバイトの経験もないってことだったから、今日一日働いてみて、考えてくれるか。
ただ、家の事情やこれから就職先を探すこともあるかもしれないから、プレッシャーに思わないでくれ」
「うわぁっ、隼斗兄さんって優しいね! ありがとう♪」
類にいきなり『隼斗兄さん』と呼ばれ、隼斗は困惑したように固まった。
「ハハッ、隼斗さんフリーズしてる!」
「うるせぇ、浩平! 早く食べてディナーの準備しろ!」
「えーっ、ちょっとぐらい休憩させて欲しいっすよ」
皆の笑い声が響き合う。
美羽が耐えきれなくなった時、店の電話が鳴り響いた。
良かった。ここから、離れられる。
美羽はレジまで歩いていくと、その下に備え付けられている電話の受話器を取った。
「ありがとうございます、『Lieu de detente 』でございます」
受話器の向こうから、掠れた声が聞こえてきた。
『ゴホッ、ゴホッ……す、すみません。今日予約していた花澤ですが、風邪を引いていけなくなりましたので……ゴホッ、ゴホッ……キャンセル、させてもらっていいですか?』
「そう、ですか……分かりました。どうぞ、お大事になさってくださいね。またのお越しをお待ちしております」
『楽しみにしてたのに、ほんと残念です。申し訳ありません……ゴホッゴホッ』
受話器を置くと、美羽はフゥと息を吐いた。
「隼斗兄さん、ディナーご予約いただいてた花澤さん、キャンセルになりました」
「そうか」
「えぇっ、ドタキャンってありえなくないっすか?」
鼻息を荒くする浩平を宥めるように、美羽が眉を下げる。
「楽しみにしてたんだけど、風邪ひいちゃったから、って……」
香織も不満そうな表情を見せた。
「うーん、風邪なら仕方ないけどさ。こっちは完全予約制で食材用意してるのに。
ねぇ隼斗さん、来年からは予約の時に半額でも予約金入れてもらうべきよ! それで、キャンセルした人はそれをキャンセル料として頂くの。お客様を信用することも大事かもしれないけど、それだけじゃお店の経営やってけなくなるわよ!」
オーナーである隼斗に対してこんな物言いが出来るのは、香織ぐらいだ。大学に入ってからここでバイトを始め、社会人となってからもずっと働き続けている香織は従業員の中で一番経歴が長く、隼斗のこともよく理解している。
美羽は密かにこのふたりが恋人になり、やがて夫婦となって店を支えてくれたらいいのに……と願っていた。
「そうだな……考えておく」
隼斗が香織の提案を受け、頷いた。
「いやー、見れば見るほどそっくりっすよね、美羽さんと類くんって! 俺、小学生の時に男女の双子の友達いたけど、ここまで似てなかったっすもん、ビックリしました!!」
「あぁ、僕たちは一卵性だから」
「へぇー、男女でも一卵性双生児ってあるんっすね。小学校とか中学校とかでめちゃめちゃ目立ってたんじゃないっすか? あっ、類くんってずっとアメリカ住んでたんっすよね? ってことは、英語もバリバリに話せるってことっすか? かっけー!!」
浩平は男性だが、女性のように次から次に話題が変わる。だからなのか、女友達も多い。
「ハハッ……英語なんて、アメリカに3ヶ月も住んでいれば自然に身につくよ」
「いやっ、浩平は3年住んだって身につかないわよ!」
「うわっ、かおりん酷いっす……でも確かに、そんな自信ないっすけど」
類が香織と浩平のやりとりを見つめ、優艶でいて、少し寂しげな笑みを浮かべる。
「なんかいいね、こういうの……
僕、日本に来る前もずっと、こんな風に気軽に話せるような仲のいい友達なんていなかったから、たとえ今日だけでも、みんなの中に入れてもらえて嬉しいな」
途端に香織だけでなく、浩平までもが顔を真っ赤にした。
「る、類くん、もうここで働けばいいじゃない!」
「そうっすよ! だってよっぴーが入院してる間、また新たに人を雇わなきゃいけないわけだし、ランチタイムの時もすっげー頑張って働いてくれて俺たちマジで助かったし! ね、隼斗さん!」
急に話を振られ、静かに食事をしていた隼斗が顔を上げた。ちらりと美羽を見つめる。美羽はゴクリと生唾を飲みこんだ。
「浩平、お前が勝手に決めていい話じゃないってさっきも言っただろう。
……うちとしては人手が足りないから働いてもらえれば助かるが、今日は急遽手伝いに入ってもらうことになったわけだし、今までこういったバイトの経験もないってことだったから、今日一日働いてみて、考えてくれるか。
ただ、家の事情やこれから就職先を探すこともあるかもしれないから、プレッシャーに思わないでくれ」
「うわぁっ、隼斗兄さんって優しいね! ありがとう♪」
類にいきなり『隼斗兄さん』と呼ばれ、隼斗は困惑したように固まった。
「ハハッ、隼斗さんフリーズしてる!」
「うるせぇ、浩平! 早く食べてディナーの準備しろ!」
「えーっ、ちょっとぐらい休憩させて欲しいっすよ」
皆の笑い声が響き合う。
美羽が耐えきれなくなった時、店の電話が鳴り響いた。
良かった。ここから、離れられる。
美羽はレジまで歩いていくと、その下に備え付けられている電話の受話器を取った。
「ありがとうございます、『Lieu de detente 』でございます」
受話器の向こうから、掠れた声が聞こえてきた。
『ゴホッ、ゴホッ……す、すみません。今日予約していた花澤ですが、風邪を引いていけなくなりましたので……ゴホッ、ゴホッ……キャンセル、させてもらっていいですか?』
「そう、ですか……分かりました。どうぞ、お大事になさってくださいね。またのお越しをお待ちしております」
『楽しみにしてたのに、ほんと残念です。申し訳ありません……ゴホッゴホッ』
受話器を置くと、美羽はフゥと息を吐いた。
「隼斗兄さん、ディナーご予約いただいてた花澤さん、キャンセルになりました」
「そうか」
「えぇっ、ドタキャンってありえなくないっすか?」
鼻息を荒くする浩平を宥めるように、美羽が眉を下げる。
「楽しみにしてたんだけど、風邪ひいちゃったから、って……」
香織も不満そうな表情を見せた。
「うーん、風邪なら仕方ないけどさ。こっちは完全予約制で食材用意してるのに。
ねぇ隼斗さん、来年からは予約の時に半額でも予約金入れてもらうべきよ! それで、キャンセルした人はそれをキャンセル料として頂くの。お客様を信用することも大事かもしれないけど、それだけじゃお店の経営やってけなくなるわよ!」
オーナーである隼斗に対してこんな物言いが出来るのは、香織ぐらいだ。大学に入ってからここでバイトを始め、社会人となってからもずっと働き続けている香織は従業員の中で一番経歴が長く、隼斗のこともよく理解している。
美羽は密かにこのふたりが恋人になり、やがて夫婦となって店を支えてくれたらいいのに……と願っていた。
「そうだな……考えておく」
隼斗が香織の提案を受け、頷いた。
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