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164.喧嘩の原因
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その後は忙しなく開店準備をすることになり、類のことを気にする余裕などなくなった。予約客が入ってくる12時が近づき、なんとか準備を整えた美羽がホッとしてると、香織が後ろから声をかけた。
「ねぇ、美羽……義昭さんと喧嘩したのって、類くんのことが関係あるんじゃないの?」
美羽はビクッとして振り返り、怯えた表情で香織を見つめた。
かおりん……もしかして、何か気づいたの?
昨夜、目が覚めて、私の異変に気付いた? 荒い息遣いに、おかしいって思われた?
『類』って私、口走ったりしてた?
でも、今朝起きた時には何も言ってなかったのに、どうして今そんなこと言い出したの……
双子の弟である類が現れたから、夜のことと結びつけてそう思ったの?
もし類との関係がかおりんに知られたら……軽蔑されちゃう。友達で、いられなくなる。
ここにも、いられなくなる……
悪い想像がどんどん大きく膨らんでいき、美羽は身を震わせた。
香織が眉を下げ、美羽の肩を優しく撫でる。
「心配しないで! ふたりが喧嘩したってことは隼斗さんはもちろん、誰にも言わないから。
そりゃ、美羽にとっては大事な弟でも、義昭さんにとっては他人なんだから、色々あるよね。類くんのことを話せなかったから、昨日私の家に来ても何も話せなかったんでしょ?」
香織の言葉にハッとし、美羽は大きく何度も頷いた。
「そ、そうなの……ごめんね、かおりん」
良かった。かおりんに、類との関係を疑われたわけじゃなかったんだ。
「大丈夫! ほら、気持ち切り替えてがんばろ!
お客さんたちに素敵なクリスマスを過ごしてもらうためにさ」
「そうだよね、うん。ありがとう」
そうだ。今日は大切なクリスマスを大好きな恋人や家族とここで過ごすために予約してくれたお客様たちをお迎えして接客するんだ。余計なことを考えてる場合じゃない。
入口に現れた客に向かって、笑顔で美羽が歩いていく。それを目にして香織はホッと息を吐いたものの、その表情は憂鬱な影を落としていた。
クリスマスはランチとディナーの二部制に分かれており、ランチのコースはディナーより品数が少ないものの、本格的なクリスマスの食事をリーズナブルな値段で楽しめるということで、家族連れや友達同士のグループが多かった。
「美羽、そろそろメイン出すぞ」
「はいっ」
隼斗に声を掛けられ、一通りテーブルを周った。毎年ランチを食べに来る家族や老夫婦もいて、和やかに会話を交わしながら皿を下げていく。賑やかな喋り声や幸せそうな客たちの笑顔を見るにつれ、美羽の気持ちがだんだんと明るくなる。この仕事が好きだと、しみじみ感じた。
下げた皿を手に食器置き場へ行くと、類がいつもとは違う真剣な眼差しで手早くスープ皿を食洗機に並べているのが視界に映った。
類が働いてる姿、初めて見る。
見慣れた制服のはずなのに、それを着て厨房で働いている類の姿に思わず視線が引きつけられてしまう。きりりとした眼差しに、結ばれた唇に、てきぱきとした仕草に見惚れてしまう、自分がいた。
「ミュー、ありがとう」
カウンター越しに美羽が置いた皿を手にした類に笑顔で呼びかけられ、美羽の心臓がドクンッと跳ねた。
「お願い、します」
この状況を喜んでいいはずないのに、なにときめいてるんだろう私。
美羽はメインの料理を運ぶため、くるりと身を翻した。
「ねぇ、美羽……義昭さんと喧嘩したのって、類くんのことが関係あるんじゃないの?」
美羽はビクッとして振り返り、怯えた表情で香織を見つめた。
かおりん……もしかして、何か気づいたの?
昨夜、目が覚めて、私の異変に気付いた? 荒い息遣いに、おかしいって思われた?
『類』って私、口走ったりしてた?
でも、今朝起きた時には何も言ってなかったのに、どうして今そんなこと言い出したの……
双子の弟である類が現れたから、夜のことと結びつけてそう思ったの?
もし類との関係がかおりんに知られたら……軽蔑されちゃう。友達で、いられなくなる。
ここにも、いられなくなる……
悪い想像がどんどん大きく膨らんでいき、美羽は身を震わせた。
香織が眉を下げ、美羽の肩を優しく撫でる。
「心配しないで! ふたりが喧嘩したってことは隼斗さんはもちろん、誰にも言わないから。
そりゃ、美羽にとっては大事な弟でも、義昭さんにとっては他人なんだから、色々あるよね。類くんのことを話せなかったから、昨日私の家に来ても何も話せなかったんでしょ?」
香織の言葉にハッとし、美羽は大きく何度も頷いた。
「そ、そうなの……ごめんね、かおりん」
良かった。かおりんに、類との関係を疑われたわけじゃなかったんだ。
「大丈夫! ほら、気持ち切り替えてがんばろ!
お客さんたちに素敵なクリスマスを過ごしてもらうためにさ」
「そうだよね、うん。ありがとう」
そうだ。今日は大切なクリスマスを大好きな恋人や家族とここで過ごすために予約してくれたお客様たちをお迎えして接客するんだ。余計なことを考えてる場合じゃない。
入口に現れた客に向かって、笑顔で美羽が歩いていく。それを目にして香織はホッと息を吐いたものの、その表情は憂鬱な影を落としていた。
クリスマスはランチとディナーの二部制に分かれており、ランチのコースはディナーより品数が少ないものの、本格的なクリスマスの食事をリーズナブルな値段で楽しめるということで、家族連れや友達同士のグループが多かった。
「美羽、そろそろメイン出すぞ」
「はいっ」
隼斗に声を掛けられ、一通りテーブルを周った。毎年ランチを食べに来る家族や老夫婦もいて、和やかに会話を交わしながら皿を下げていく。賑やかな喋り声や幸せそうな客たちの笑顔を見るにつれ、美羽の気持ちがだんだんと明るくなる。この仕事が好きだと、しみじみ感じた。
下げた皿を手に食器置き場へ行くと、類がいつもとは違う真剣な眼差しで手早くスープ皿を食洗機に並べているのが視界に映った。
類が働いてる姿、初めて見る。
見慣れた制服のはずなのに、それを着て厨房で働いている類の姿に思わず視線が引きつけられてしまう。きりりとした眼差しに、結ばれた唇に、てきぱきとした仕草に見惚れてしまう、自分がいた。
「ミュー、ありがとう」
カウンター越しに美羽が置いた皿を手にした類に笑顔で呼びかけられ、美羽の心臓がドクンッと跳ねた。
「お願い、します」
この状況を喜んでいいはずないのに、なにときめいてるんだろう私。
美羽はメインの料理を運ぶため、くるりと身を翻した。
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