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162.取引
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美羽はその冷たく妖しい瞳にゾクリと身を捩らせた。
「類、まさか……」
秘密を、暴露するつもりなの!?
「ねぇ、ミュー。
ミューが僕と淫らな関係にあっただなんて、誰も思ってないんだろうねぇ」
「類!!」
美羽の顔が引き攣る。
「ミューが何日も家に帰ってこなかったら、ヨシになんて言い訳していいか分かんないし、もしかしたらヨシがここにも連絡するかもね。
そしたら、ヨシだけでなくここのみんなにも……僕たちの関係が知られちゃうかもしれない」
困ったような表情を浮かべながらも、類の瞳は愉しそうに爛々と輝いていた。子供が無邪気に虫を引き千切るような残酷さがその瞳に垣間見え、美羽の背筋に悪寒が走る。
「やめ……お願い、やめて!!」
類との過去を暴露されたら、私は唯一の癒しの場所と大切な人たちを失ってしまう……
絶望の淵へと追い込まれながら、美羽は必死に縋り付くように類に懇願した。
「僕だってミューを困らせるようなこと、したくないよ。だって、ミューが大好きだもん」
類はにっこりと微笑んだ。
「ミューは僕に、弟として振舞ってくれることを望んでるわけでしょ?
だったらミューも、姉として接してくれる?」
「え……」
美羽の頭が混乱に陥る。普通の姉弟になることを類が望むはずなどない。それなのに、そんなことを言い出すなんて、そこに何かしらの計略が潜んでいるとしか思えなかった。
「もう決して逃げ出さないで。僕と普通に話して、普通に接して」
「わ、かった」
あんなことがあった後で普通に話をして姉として接することが出来るのか自信はなかったが、やるしかない。それは、自分自身を守ることにも繋がるのだから。
美羽が了承すると、類はグイと瞳を覗き込んだ。
「それから……僕が、ここの手伝いをするのを了承して」
「え。それは……」
出来るはず、ないよ……
俯いた美羽に、類の言葉が覆いかぶさってくる。
「じゃあミューは、彼らにどう言い訳するの? ただの皿洗いでもいいから手伝ってって困ってる人たちに、僕が既に引き受けてるのに、ミューはどうやってそれを断るつもり?
下手な言い訳をすれば、ミューが僕のことを避けてるってことが明らかになって不審の目を向けられるよ」
類の言う通りだ。美羽は類に働かせたくない一心で「ダメだ」と主張したが、今日は猫の手も借りたいぐらいの忙しさで、たとえ今日入った新人であろうと簡単な雑用をしてもらえるだけでかなり店にとって助かることは分かっている。
私の我儘を押し通すわけには、いかない。
類が顎をあげ、妖艶な表情で告げる。
「じゃあさ、ミューに選ばせてあげる。
僕を今日ここで働かせる代わりに、カフェのみんなやヨシの前で僕に弟として振舞ってもらうか。
それとも、僕を帰らせる代わりに……みんなに、あ、ヨシも含めたみんなって意味ね、僕たちの関係を暴露されるか……クスッ」
「そ、そんな……」
そんな、選択肢……選べないよ。
美羽は真っ青な顔で唇をブルブルと震わせた。
今日、だけ……今日さえ乗り切れば、あとはなんとかなるはず。隼斗兄さんやかおりんや浩平くんも、時が経てば類のことは忘れて、気にしなくなるはず……
でも本当に、類を働かせてもいいの? 他に道は、ないの?
類が腕時計を人差し指でトントンと小突く。
「ほらほら、カフェのオープンまで時間ないよ。あと10秒! 9、8、7……」
「ま。待って……」
けれど、類のカウントダウンは止まらない。焦っている間にどんどん時間は過ぎていく。
「3、2……」
迫り来るタイムリミットを突きつけられ、美羽は瞳をギュッと瞑って覚悟した。
「お願い!! みんなには、私たちの関係は絶対に話さないで!!」
「ってことは、僕がここで働いてもいいってことだよね? わーっ、嬉しいな。僕、一度カフェで働いてみたかったんだよねー♪」
パッと花が咲いたような笑顔を見せ、類が美羽に無邪気に飛びついた。
「フフッ、楽しみだなぁ」
愉しげな類に、美羽の中から黒い感情が湧き出てくる。
「私を、恨んでるの? 憎んでるの?
それほどに、私を苦しめたいの……類?」
美羽の目尻に浮かんだ涙を類の指が掬い上げ、舌先でペロッと舐めた。
「何言ってるの? そんなわけないじゃーん。
欠員が出て忙しいってことはミューも大変になるわけで、僕は弟としてミューを助けてあげたかっただけだよ。
ね?……愛してるよ、お姉ちゃん♪」
恐ろしいほどに美しい笑みを浮かべた類に、美羽の肌がゾクゾクと粟立った。
「類、まさか……」
秘密を、暴露するつもりなの!?
「ねぇ、ミュー。
ミューが僕と淫らな関係にあっただなんて、誰も思ってないんだろうねぇ」
「類!!」
美羽の顔が引き攣る。
「ミューが何日も家に帰ってこなかったら、ヨシになんて言い訳していいか分かんないし、もしかしたらヨシがここにも連絡するかもね。
そしたら、ヨシだけでなくここのみんなにも……僕たちの関係が知られちゃうかもしれない」
困ったような表情を浮かべながらも、類の瞳は愉しそうに爛々と輝いていた。子供が無邪気に虫を引き千切るような残酷さがその瞳に垣間見え、美羽の背筋に悪寒が走る。
「やめ……お願い、やめて!!」
類との過去を暴露されたら、私は唯一の癒しの場所と大切な人たちを失ってしまう……
絶望の淵へと追い込まれながら、美羽は必死に縋り付くように類に懇願した。
「僕だってミューを困らせるようなこと、したくないよ。だって、ミューが大好きだもん」
類はにっこりと微笑んだ。
「ミューは僕に、弟として振舞ってくれることを望んでるわけでしょ?
だったらミューも、姉として接してくれる?」
「え……」
美羽の頭が混乱に陥る。普通の姉弟になることを類が望むはずなどない。それなのに、そんなことを言い出すなんて、そこに何かしらの計略が潜んでいるとしか思えなかった。
「もう決して逃げ出さないで。僕と普通に話して、普通に接して」
「わ、かった」
あんなことがあった後で普通に話をして姉として接することが出来るのか自信はなかったが、やるしかない。それは、自分自身を守ることにも繋がるのだから。
美羽が了承すると、類はグイと瞳を覗き込んだ。
「それから……僕が、ここの手伝いをするのを了承して」
「え。それは……」
出来るはず、ないよ……
俯いた美羽に、類の言葉が覆いかぶさってくる。
「じゃあミューは、彼らにどう言い訳するの? ただの皿洗いでもいいから手伝ってって困ってる人たちに、僕が既に引き受けてるのに、ミューはどうやってそれを断るつもり?
下手な言い訳をすれば、ミューが僕のことを避けてるってことが明らかになって不審の目を向けられるよ」
類の言う通りだ。美羽は類に働かせたくない一心で「ダメだ」と主張したが、今日は猫の手も借りたいぐらいの忙しさで、たとえ今日入った新人であろうと簡単な雑用をしてもらえるだけでかなり店にとって助かることは分かっている。
私の我儘を押し通すわけには、いかない。
類が顎をあげ、妖艶な表情で告げる。
「じゃあさ、ミューに選ばせてあげる。
僕を今日ここで働かせる代わりに、カフェのみんなやヨシの前で僕に弟として振舞ってもらうか。
それとも、僕を帰らせる代わりに……みんなに、あ、ヨシも含めたみんなって意味ね、僕たちの関係を暴露されるか……クスッ」
「そ、そんな……」
そんな、選択肢……選べないよ。
美羽は真っ青な顔で唇をブルブルと震わせた。
今日、だけ……今日さえ乗り切れば、あとはなんとかなるはず。隼斗兄さんやかおりんや浩平くんも、時が経てば類のことは忘れて、気にしなくなるはず……
でも本当に、類を働かせてもいいの? 他に道は、ないの?
類が腕時計を人差し指でトントンと小突く。
「ほらほら、カフェのオープンまで時間ないよ。あと10秒! 9、8、7……」
「ま。待って……」
けれど、類のカウントダウンは止まらない。焦っている間にどんどん時間は過ぎていく。
「3、2……」
迫り来るタイムリミットを突きつけられ、美羽は瞳をギュッと瞑って覚悟した。
「お願い!! みんなには、私たちの関係は絶対に話さないで!!」
「ってことは、僕がここで働いてもいいってことだよね? わーっ、嬉しいな。僕、一度カフェで働いてみたかったんだよねー♪」
パッと花が咲いたような笑顔を見せ、類が美羽に無邪気に飛びついた。
「フフッ、楽しみだなぁ」
愉しげな類に、美羽の中から黒い感情が湧き出てくる。
「私を、恨んでるの? 憎んでるの?
それほどに、私を苦しめたいの……類?」
美羽の目尻に浮かんだ涙を類の指が掬い上げ、舌先でペロッと舐めた。
「何言ってるの? そんなわけないじゃーん。
欠員が出て忙しいってことはミューも大変になるわけで、僕は弟としてミューを助けてあげたかっただけだよ。
ね?……愛してるよ、お姉ちゃん♪」
恐ろしいほどに美しい笑みを浮かべた類に、美羽の肌がゾクゾクと粟立った。
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