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161.類の陰謀
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その時、浩平が「あっ!!」と、大声を上げた。
「そうだ、美羽さんの弟さんに店の手伝いに入ってもらったらいいんじゃないっすか?」
「ぇ……」
何言ってるの、浩平くん……
美羽は卒倒しそうになった。
「だ、ダメぇっっ!!」
思わず叫んだ美羽に、そこにいた全員の視線が集中する。
驚く皆の表情を前に尻込みしそうになったが、美羽は必死に反論した。
「る、類はアメリカでずっと育ってたし、接客業とか調理とかの経験もないし、かえってみんなの迷惑になっちゃうと思う!!」
とにかく、なんとしてでも類がここで働くのを阻止しないと!
「だったら簡単な作業だけでも。皿を食洗機に入れてくれるだけでも助かると思うんすよね。ね、隼斗さん?」
浩平はどうしても類を巻き込みたいようで、隼斗に取り入るように頼み込んだ。
お願い……隼斗兄さん。断って。
美羽が祈りながら隼斗を見上げると、少し困ったように頭を掻いている。
「ま、まぁ……そうだが、俺たちが勝手に決められることじゃないだろう。
すまない。急に来られなくなった従業員がいて、浩平が先走ってしまった」
隼斗は興奮する浩平を抑えつつ、申し訳なさそうに類に謝った。
そんな隼斗に、類が人好きのする笑顔で答える。
「僕でよければ、ぜひお手伝いさせて下さい」
そ、そんな……
美羽は震える唇をギュッと噛み締めた。
「ちょ、ちょっと来て!!」
美羽は類の手首を掴み、裏口へと連れて行くとバタンと扉を閉めた。
「類……いったい、どういうつもり!?」
青褪めた顔で詰め寄った美羽に、類はフッと顔を緩めると抱き締めた。
「良かった、ミュー。また会えて、ほんとに良かった……」
肩を震わせる類に、美羽の先ほどまでの怒りと憤りが急激に鎮火し、胸が塞がれる。
「る、い……」
「昨日、僕のことを受け入れてくれたはずのミューに拒絶されて、突き飛ばされて、置いていかれて……凄く、ショックだった。
頭を強く打ち付けて意識が遠退いて、死ぬかもしれないって思った時に、死ぬことよりもミューに会えなくなるんだって思うと怖かった……」
「ッッ!!」
類を突き飛ばした後、彼が意識を失くしていたという事実を知り、頭を殴られたような衝撃が美羽に走る。
もしかしたら私は……この手で類を、殺していたかもしれないんだ。
類を置き去りにして逃げ出した罪が、重く美羽の肩に伸し掛かってきた。
類が、美羽を抱き締める手に力を込める。
「ミューが僕を突き飛ばしたのは、本意じゃないって分かってる。僕を受け入れようとしたのに、それが出来なかったことも分かってるから……どうか、僕をひとりにしないで。もう孤独を、味わいたくない。
ミューが僕をひとりの男として愛せなくても、弟として接するしかなくても、僕は……それでも、ミューのそばにいたいよ。ッグそばに、いさせてよ……
ごめんね、こんなワガママ。それでも僕には、ミューが必要なんだ……」
類の『ごめんね』が、夢の中の言葉と重なった。
じゃあ、昨夜……私が夢だと思ってたあれも、本当の類の気持ちだったってこと?
美羽が出て行った後、どれだけ類は辛く苦しい思いをしていたのかと想像するだけで胃がキリキリと絞られ、胸がジワッと熱くなった。
「ごめ……ごめんね、類。貴方を置いて逃げ出して、本当にごめんなさい……」
類への罪悪感と、彼が自分の気持ちを理解してくれたことへの安堵が広がる。けれど一方で、類の言葉を額面通りに受け取れない自分もいた。
「ミューにどうしても会いたくて、どこで会えるかなって考えたらここが浮かんで。それに、スマホと財布を忘れてることに気づいたから、届けてあげようと思って来たんだ。
迷惑、だった?」
抱き締めていた腕を解き、首を傾げて尋ねる類に、美羽は頭を振った。
「そんな、こと……」
美羽は唇を強く噛み締めた。
そんなこと、ない。もし類が隼斗兄さんの存在を知らなくて、本当に純粋な気持ちで私の忘れ物を届けてくれたのだと、したら。
「今日、ちゃんと家に帰ってくるよね?
恐いんだ……僕のせいでミューが家に帰ってこなくなったらって思うと。
だってそしたら……ヨシに、なんて話せばいいんだろう」
義昭のことを言われ、美羽はビクッとした。
「まさか……僕とミューがSEXしようとしてただなんて、言えないし。ねぇ?」
先ほどまで肩を震わせて頼りなく儚かった類の表情は影を潜め、今は陰謀を纏った妖艶な瞳が美羽を見つめていた。
「そうだ、美羽さんの弟さんに店の手伝いに入ってもらったらいいんじゃないっすか?」
「ぇ……」
何言ってるの、浩平くん……
美羽は卒倒しそうになった。
「だ、ダメぇっっ!!」
思わず叫んだ美羽に、そこにいた全員の視線が集中する。
驚く皆の表情を前に尻込みしそうになったが、美羽は必死に反論した。
「る、類はアメリカでずっと育ってたし、接客業とか調理とかの経験もないし、かえってみんなの迷惑になっちゃうと思う!!」
とにかく、なんとしてでも類がここで働くのを阻止しないと!
「だったら簡単な作業だけでも。皿を食洗機に入れてくれるだけでも助かると思うんすよね。ね、隼斗さん?」
浩平はどうしても類を巻き込みたいようで、隼斗に取り入るように頼み込んだ。
お願い……隼斗兄さん。断って。
美羽が祈りながら隼斗を見上げると、少し困ったように頭を掻いている。
「ま、まぁ……そうだが、俺たちが勝手に決められることじゃないだろう。
すまない。急に来られなくなった従業員がいて、浩平が先走ってしまった」
隼斗は興奮する浩平を抑えつつ、申し訳なさそうに類に謝った。
そんな隼斗に、類が人好きのする笑顔で答える。
「僕でよければ、ぜひお手伝いさせて下さい」
そ、そんな……
美羽は震える唇をギュッと噛み締めた。
「ちょ、ちょっと来て!!」
美羽は類の手首を掴み、裏口へと連れて行くとバタンと扉を閉めた。
「類……いったい、どういうつもり!?」
青褪めた顔で詰め寄った美羽に、類はフッと顔を緩めると抱き締めた。
「良かった、ミュー。また会えて、ほんとに良かった……」
肩を震わせる類に、美羽の先ほどまでの怒りと憤りが急激に鎮火し、胸が塞がれる。
「る、い……」
「昨日、僕のことを受け入れてくれたはずのミューに拒絶されて、突き飛ばされて、置いていかれて……凄く、ショックだった。
頭を強く打ち付けて意識が遠退いて、死ぬかもしれないって思った時に、死ぬことよりもミューに会えなくなるんだって思うと怖かった……」
「ッッ!!」
類を突き飛ばした後、彼が意識を失くしていたという事実を知り、頭を殴られたような衝撃が美羽に走る。
もしかしたら私は……この手で類を、殺していたかもしれないんだ。
類を置き去りにして逃げ出した罪が、重く美羽の肩に伸し掛かってきた。
類が、美羽を抱き締める手に力を込める。
「ミューが僕を突き飛ばしたのは、本意じゃないって分かってる。僕を受け入れようとしたのに、それが出来なかったことも分かってるから……どうか、僕をひとりにしないで。もう孤独を、味わいたくない。
ミューが僕をひとりの男として愛せなくても、弟として接するしかなくても、僕は……それでも、ミューのそばにいたいよ。ッグそばに、いさせてよ……
ごめんね、こんなワガママ。それでも僕には、ミューが必要なんだ……」
類の『ごめんね』が、夢の中の言葉と重なった。
じゃあ、昨夜……私が夢だと思ってたあれも、本当の類の気持ちだったってこと?
美羽が出て行った後、どれだけ類は辛く苦しい思いをしていたのかと想像するだけで胃がキリキリと絞られ、胸がジワッと熱くなった。
「ごめ……ごめんね、類。貴方を置いて逃げ出して、本当にごめんなさい……」
類への罪悪感と、彼が自分の気持ちを理解してくれたことへの安堵が広がる。けれど一方で、類の言葉を額面通りに受け取れない自分もいた。
「ミューにどうしても会いたくて、どこで会えるかなって考えたらここが浮かんで。それに、スマホと財布を忘れてることに気づいたから、届けてあげようと思って来たんだ。
迷惑、だった?」
抱き締めていた腕を解き、首を傾げて尋ねる類に、美羽は頭を振った。
「そんな、こと……」
美羽は唇を強く噛み締めた。
そんなこと、ない。もし類が隼斗兄さんの存在を知らなくて、本当に純粋な気持ちで私の忘れ物を届けてくれたのだと、したら。
「今日、ちゃんと家に帰ってくるよね?
恐いんだ……僕のせいでミューが家に帰ってこなくなったらって思うと。
だってそしたら……ヨシに、なんて話せばいいんだろう」
義昭のことを言われ、美羽はビクッとした。
「まさか……僕とミューがSEXしようとしてただなんて、言えないし。ねぇ?」
先ほどまで肩を震わせて頼りなく儚かった類の表情は影を潜め、今は陰謀を纏った妖艶な瞳が美羽を見つめていた。
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