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160.訪問
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改めて控え室を出ようとすると、向こうから勢いよく走ってくる音が聞こえてきて、バターン!! と勢いよく扉が開いた。
「ッッ……」
顔すれすれで扉が開いた美羽は、思わず固まってしまう。
「浩平! 危ないだろーが!!」
低く響く恐ろしい隼斗の声に、いつもなら震え上がる浩平だが、まるで聞こえていないかのように鼻息を荒くし、興奮している。
「い、今……裏口からノックする音がして開けたら……み、美羽さんがそこに……」
『え!?』
隼斗と香織は意味不明な浩平の言葉に顔を顰めたが、美羽だけはひとり呆然と突っ立っていた。
ま、さか……
浩平の後ろから、歩み出てくる気配がした。白いオックスフォードシャツにチルデンニットを重ね、黒のスキニーパンツを穿き、濃紺のチェスターコートを羽織り、黒のつば広ハットを被っている。
美羽と同じ顔の、けれど背が高い男性。
「ミューウ、忘れ物届けに来たよ♪」
完璧な笑顔で微笑む類の姿に、美羽の血の気が一気に引いていく。
「ど、どうして……ここ、に……」
足元から震えが湧いてくる。心臓がバクバクと音を立てて、全身に鳴り響く。信じられない事態にパニックになりながら、一方で類の無事を知り、安堵している自分もいた。
「ミュー、スマホと財布忘れてくんだもん。ないと困るでしょ?」
類は昨夜置き去りにしたメタリックピンクのスマホと白とライトパープルのツートンカラーの財布を手にちらつかせた。昨夜のやりとりなど何もなかったかのように、美羽に『弟』としての笑みを見せる類に、逆に恐怖が募る。
ふたりのやりとりを唖然と見ていた浩平が我にかえり、瞳をキラキラさせて美羽に食いつく。
「ぇ、ぇ、この人……誰なんすか?
めちゃめちゃ美羽さんと顔がそっくりなんすけど!!」
好奇心の塊のような浩平に類が顔を向け、にっこりと微笑んで軽くお辞儀をした。
「初めまして、美羽の双子の弟の類です。
いつも姉がお世話になってます」
一瞬の沈黙の後、浩平と香織が同時に叫んだ。
『双子ー!?』
香織が美羽の両肩をギュッと掴んで、迫る。
「私、美羽が双子だなんて聞いてないわよ!! 大学からずっと親友だと思ってたのに……
隼斗さんは知ってたんですか!?」
噛みつくように尋ねた香織に、隼斗はグッと顎を落とし、口に手を当てた。
「い、いや……俺も、知らなかった」
「ぇ、嘘……」
「マジッすか!? てか、美羽さんの兄ちゃんの隼斗さんまで知らないなんて」
香織が隼斗から美羽に視線を戻し、顔を近づけた。
「美羽、いったいどういうことなの!?」
香織に詰め寄られ、美羽はパクパクと口を動かした。
「ぁ、あの……」
どう言い訳したらいいの?
どうして類が、ここに……
上手い言い訳を考えたいのに、頭が真っ白になり、何も考えられなかった。
そこへ、サッと類が割って入る。
「僕たちが高校生の時に両親が離婚して、僕はアメリカ、ミューは日本で10年間、離れ離れに暮らしてたんです。両親は互いの存在を疎ましく思っていて、僕たちは連絡をとることをずっと禁じられていました。
けれど、父が亡くなったことにより、ようやくミューと再会出来て……僕の日本への思いと大好きな家族であるミューと暮らしたいって思いが強くなって、つい最近、同居させてもらうことになったんです」
類が弟であることだけでなく、一緒に暮らしていることも暴露され、美羽は生きている心地がしなかった。
類が、隼斗をそっと見上げる。
「貴方は、美羽のお義兄さん……なんですか?」
隼斗は類をじっと見つめてから、頷いた。
「あぁ。美羽の母親と俺の父親が再婚した縁でな」
「てことは、僕のお義兄さんでもあるってことですよね? 嬉しいな、この歳でお兄さんが出来るなんて」
小さく微笑んでから類が、「ぁっ……!」と声を漏らした。それから、美羽に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「だから、ミューは……僕のこと、みんなに話してなかったんだね。
もし義兄である彼に僕の存在を知られれば、母さんにそのことが伝わるかもしれないから、それを恐れて……
ごめん、僕……知らなくて」
隼斗は口を噤んだ。美羽ほどではないにしても、隼斗も義母の激情的な性格を把握していたし、具体的なことは知らないが、過去に彼女と美羽の間で大きな揉め事があったことは知っていた。
美羽……いったい過去に、何があったんだ。
隼斗は俯いたままの美羽を見つめた。
「大丈夫だ、美羽。俺からあの人に言うことは、ないから」
「うん……」
美羽は強張っていた表情を僅かに緩ませ、隼斗を見上げると力なく笑みを見せた。
隼斗は控え室の壁に掛かっている時計を見上げた。オープンまであと30分と迫っている。
「ありがとう、事情は分かった。
済まないが、これから俺たちは店の準備を始めないといけないんだ」
いつもならもう、仕込みは全て終わっている時間だ。急がないとまずい。しかも今日は欠員が出ているので、合間を見てやることも出来ない。
隼斗の言葉に美羽は安堵の息を吐いた。
これで、ようやく類に帰ってもらえる……
「ッッ……」
顔すれすれで扉が開いた美羽は、思わず固まってしまう。
「浩平! 危ないだろーが!!」
低く響く恐ろしい隼斗の声に、いつもなら震え上がる浩平だが、まるで聞こえていないかのように鼻息を荒くし、興奮している。
「い、今……裏口からノックする音がして開けたら……み、美羽さんがそこに……」
『え!?』
隼斗と香織は意味不明な浩平の言葉に顔を顰めたが、美羽だけはひとり呆然と突っ立っていた。
ま、さか……
浩平の後ろから、歩み出てくる気配がした。白いオックスフォードシャツにチルデンニットを重ね、黒のスキニーパンツを穿き、濃紺のチェスターコートを羽織り、黒のつば広ハットを被っている。
美羽と同じ顔の、けれど背が高い男性。
「ミューウ、忘れ物届けに来たよ♪」
完璧な笑顔で微笑む類の姿に、美羽の血の気が一気に引いていく。
「ど、どうして……ここ、に……」
足元から震えが湧いてくる。心臓がバクバクと音を立てて、全身に鳴り響く。信じられない事態にパニックになりながら、一方で類の無事を知り、安堵している自分もいた。
「ミュー、スマホと財布忘れてくんだもん。ないと困るでしょ?」
類は昨夜置き去りにしたメタリックピンクのスマホと白とライトパープルのツートンカラーの財布を手にちらつかせた。昨夜のやりとりなど何もなかったかのように、美羽に『弟』としての笑みを見せる類に、逆に恐怖が募る。
ふたりのやりとりを唖然と見ていた浩平が我にかえり、瞳をキラキラさせて美羽に食いつく。
「ぇ、ぇ、この人……誰なんすか?
めちゃめちゃ美羽さんと顔がそっくりなんすけど!!」
好奇心の塊のような浩平に類が顔を向け、にっこりと微笑んで軽くお辞儀をした。
「初めまして、美羽の双子の弟の類です。
いつも姉がお世話になってます」
一瞬の沈黙の後、浩平と香織が同時に叫んだ。
『双子ー!?』
香織が美羽の両肩をギュッと掴んで、迫る。
「私、美羽が双子だなんて聞いてないわよ!! 大学からずっと親友だと思ってたのに……
隼斗さんは知ってたんですか!?」
噛みつくように尋ねた香織に、隼斗はグッと顎を落とし、口に手を当てた。
「い、いや……俺も、知らなかった」
「ぇ、嘘……」
「マジッすか!? てか、美羽さんの兄ちゃんの隼斗さんまで知らないなんて」
香織が隼斗から美羽に視線を戻し、顔を近づけた。
「美羽、いったいどういうことなの!?」
香織に詰め寄られ、美羽はパクパクと口を動かした。
「ぁ、あの……」
どう言い訳したらいいの?
どうして類が、ここに……
上手い言い訳を考えたいのに、頭が真っ白になり、何も考えられなかった。
そこへ、サッと類が割って入る。
「僕たちが高校生の時に両親が離婚して、僕はアメリカ、ミューは日本で10年間、離れ離れに暮らしてたんです。両親は互いの存在を疎ましく思っていて、僕たちは連絡をとることをずっと禁じられていました。
けれど、父が亡くなったことにより、ようやくミューと再会出来て……僕の日本への思いと大好きな家族であるミューと暮らしたいって思いが強くなって、つい最近、同居させてもらうことになったんです」
類が弟であることだけでなく、一緒に暮らしていることも暴露され、美羽は生きている心地がしなかった。
類が、隼斗をそっと見上げる。
「貴方は、美羽のお義兄さん……なんですか?」
隼斗は類をじっと見つめてから、頷いた。
「あぁ。美羽の母親と俺の父親が再婚した縁でな」
「てことは、僕のお義兄さんでもあるってことですよね? 嬉しいな、この歳でお兄さんが出来るなんて」
小さく微笑んでから類が、「ぁっ……!」と声を漏らした。それから、美羽に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「だから、ミューは……僕のこと、みんなに話してなかったんだね。
もし義兄である彼に僕の存在を知られれば、母さんにそのことが伝わるかもしれないから、それを恐れて……
ごめん、僕……知らなくて」
隼斗は口を噤んだ。美羽ほどではないにしても、隼斗も義母の激情的な性格を把握していたし、具体的なことは知らないが、過去に彼女と美羽の間で大きな揉め事があったことは知っていた。
美羽……いったい過去に、何があったんだ。
隼斗は俯いたままの美羽を見つめた。
「大丈夫だ、美羽。俺からあの人に言うことは、ないから」
「うん……」
美羽は強張っていた表情を僅かに緩ませ、隼斗を見上げると力なく笑みを見せた。
隼斗は控え室の壁に掛かっている時計を見上げた。オープンまであと30分と迫っている。
「ありがとう、事情は分かった。
済まないが、これから俺たちは店の準備を始めないといけないんだ」
いつもならもう、仕込みは全て終わっている時間だ。急がないとまずい。しかも今日は欠員が出ているので、合間を見てやることも出来ない。
隼斗の言葉に美羽は安堵の息を吐いた。
これで、ようやく類に帰ってもらえる……
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