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150.消せない罪
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類の美しい黒曜石の瞳が、美羽を映し出している。
「ミューを好きになって、ごめんね……」
吸い込まれそうなぐらい美しい潤んだ瞳で見つめる類に美羽は目を細め、優しく彼の濡羽色の髪を梳いた。
「謝らないで……
これは、私と類の罪なんだから」
この先の未来が見えなくても、考えたくない。
今、この瞬間だけがあればいい。
愛する人と躰を重ねる幸せだけ、感じていたい……
「僕はミューがいないとダメなんだ。
もう僕を、ひとりにしないで」
類に求められる度、切なくて苦しくて……胸が掻き毟られるほど辛いのに、幸せな気持ちになる。
引き寄せられるように唇が重なると、美羽の目尻から真珠のような大粒の涙が零れた。
「ンッ……ンクッ」
どうして人は、ダメだと分かっていても理性で抑えることが出来ないのだろう。いくら理屈を並べたところで、簡単に感情がそれを覆してしまう。暴走した恋愛感情に支配され、ズルズルと闇に引き摺り込まれてしまう。
もう、止めることなど出来ない。
唇が離れると、美羽は頬を少し染め、潤んだ瞳で類を見上げた。
「類、部屋に連れてって……」
類の瞳が柔らかく細められ、優しく手が伸ばされる。
「おいで、ミュー」
ーーもうこのまま、類と堕ちても構わない。
美羽は瞳を閉じ、腕を伸ばしてその身を委ねた。
その刹那、フラッシュが焚かれたように瞼の裏に閃光が走った。
『自分たちが何してるのか分かってるの!? あなたたちは姉弟なのよっっ!!』
天井を切り裂く程のけたたましい悲鳴が脳髄に鳴り響く。
ドクンッと躰が内奥から揺さぶられ、白い喉がひくつき、美羽の瞳孔が大きく瞠いた。
「ぁ。あ、ぁ、ぁ、ぁ……」
心臓が激しくドクドクと脈打ち、一気に汗が噴き出してきて、耳鳴りがキーンと周りの音を呑み込んで支配する。
「ミュー?」
類が眉を寄せ、心配そうに美羽を覗き込む。
『あなたたたちは双子で、こんなこと許されるはずがない……』
ゆ、許されない……ユルサレナイ。
『こ、んな……狂ってる……ウッ、ウゥッ……信じ、られない……うちの、子が……あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!』
絶叫と共に絶望し、泣き崩れていた母の姿が鮮烈に浮かび上がる。
お母さんを、あんな風に泣かせてしまったのは、私。
裏切ってしまった……
ツグナイキレナイ、罪。
「ご、ごめな……ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
全身が小刻みに痙攣し、世界がガラガラと崩れていく。
天井がグワングワンと揺れ、鬼のような母の形相が醜く歪む。浴槽に押し付けられた時のように呼吸の仕方が分からなくなる。頭痛がして閃光がバチバチと迸り、耳鳴りで吐き気が一気に襲ってきた。
「ングゥッ……ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
小刻みだった痙攣が、次第に大きくなっていく。呼吸が短く荒くなる。
「ミュー、しっかりして! ここにあの女はいない!!
もう心配することなんて、何もないから!!」
類が激しく痙攣する美羽を抱き起こし、きつく抱き留めた。
包み込む類の熱を感じられないほど、指の先から冷たくなっていく。母の声だけが、脳髄にガンガンと響いてきた。
『あの子は悪魔よ!! 私の人生をめちゃくちゃにした!!』
ち、違う……類は、そんな……
悪いのは私。類を、受け入れてしまった。
「ミュー! ミュー!
僕を見てっ! 僕の声を聞いてっっ!!」
類が何か叫んでいるのに、耳からも心からもまるで蓋をされたかのように聞こえてこない。母の絶叫が、美羽の世界を侵食していく。
『姉弟で交わるってことがどれだけ異常なことなのか分からないの!?
あなたたちは狂ってる……そんなの、ケダモノのやることよ!!』
憎しみの籠ったあの瞳が、美羽の胸をビリビリと切り裂く。
ケダモノ。
ワタシタチハ、ケダモノ。
美羽の瞳から、色が失われた。
類はギリギリと歯を噛み締めた。
「お願……ックだから。あんな女の言うこと、信じないで。
僕たちは、運命の相手なんだ。互いが、必要なんだ……
誰にももう、邪魔なんてさせないック。
ねぇ、ねぇミュー!! 戻ってきて、僕の元に戻ってきてよ!!」
荒ぶる感情のまま、美羽の躰を激しく揺さぶる。
美羽の瞳に映る怒りと憎しみを孕んだ類の表情が、母と重なっていった。
やだ。殺される……
オカアサンニ、コロサレル。
「ッハ!! い、いやぁぁああああああああああああああ!!!!!!」
渾身の力を込めて、美羽は類を突き飛ばした。
「ミューを好きになって、ごめんね……」
吸い込まれそうなぐらい美しい潤んだ瞳で見つめる類に美羽は目を細め、優しく彼の濡羽色の髪を梳いた。
「謝らないで……
これは、私と類の罪なんだから」
この先の未来が見えなくても、考えたくない。
今、この瞬間だけがあればいい。
愛する人と躰を重ねる幸せだけ、感じていたい……
「僕はミューがいないとダメなんだ。
もう僕を、ひとりにしないで」
類に求められる度、切なくて苦しくて……胸が掻き毟られるほど辛いのに、幸せな気持ちになる。
引き寄せられるように唇が重なると、美羽の目尻から真珠のような大粒の涙が零れた。
「ンッ……ンクッ」
どうして人は、ダメだと分かっていても理性で抑えることが出来ないのだろう。いくら理屈を並べたところで、簡単に感情がそれを覆してしまう。暴走した恋愛感情に支配され、ズルズルと闇に引き摺り込まれてしまう。
もう、止めることなど出来ない。
唇が離れると、美羽は頬を少し染め、潤んだ瞳で類を見上げた。
「類、部屋に連れてって……」
類の瞳が柔らかく細められ、優しく手が伸ばされる。
「おいで、ミュー」
ーーもうこのまま、類と堕ちても構わない。
美羽は瞳を閉じ、腕を伸ばしてその身を委ねた。
その刹那、フラッシュが焚かれたように瞼の裏に閃光が走った。
『自分たちが何してるのか分かってるの!? あなたたちは姉弟なのよっっ!!』
天井を切り裂く程のけたたましい悲鳴が脳髄に鳴り響く。
ドクンッと躰が内奥から揺さぶられ、白い喉がひくつき、美羽の瞳孔が大きく瞠いた。
「ぁ。あ、ぁ、ぁ、ぁ……」
心臓が激しくドクドクと脈打ち、一気に汗が噴き出してきて、耳鳴りがキーンと周りの音を呑み込んで支配する。
「ミュー?」
類が眉を寄せ、心配そうに美羽を覗き込む。
『あなたたたちは双子で、こんなこと許されるはずがない……』
ゆ、許されない……ユルサレナイ。
『こ、んな……狂ってる……ウッ、ウゥッ……信じ、られない……うちの、子が……あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!』
絶叫と共に絶望し、泣き崩れていた母の姿が鮮烈に浮かび上がる。
お母さんを、あんな風に泣かせてしまったのは、私。
裏切ってしまった……
ツグナイキレナイ、罪。
「ご、ごめな……ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
全身が小刻みに痙攣し、世界がガラガラと崩れていく。
天井がグワングワンと揺れ、鬼のような母の形相が醜く歪む。浴槽に押し付けられた時のように呼吸の仕方が分からなくなる。頭痛がして閃光がバチバチと迸り、耳鳴りで吐き気が一気に襲ってきた。
「ングゥッ……ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
小刻みだった痙攣が、次第に大きくなっていく。呼吸が短く荒くなる。
「ミュー、しっかりして! ここにあの女はいない!!
もう心配することなんて、何もないから!!」
類が激しく痙攣する美羽を抱き起こし、きつく抱き留めた。
包み込む類の熱を感じられないほど、指の先から冷たくなっていく。母の声だけが、脳髄にガンガンと響いてきた。
『あの子は悪魔よ!! 私の人生をめちゃくちゃにした!!』
ち、違う……類は、そんな……
悪いのは私。類を、受け入れてしまった。
「ミュー! ミュー!
僕を見てっ! 僕の声を聞いてっっ!!」
類が何か叫んでいるのに、耳からも心からもまるで蓋をされたかのように聞こえてこない。母の絶叫が、美羽の世界を侵食していく。
『姉弟で交わるってことがどれだけ異常なことなのか分からないの!?
あなたたちは狂ってる……そんなの、ケダモノのやることよ!!』
憎しみの籠ったあの瞳が、美羽の胸をビリビリと切り裂く。
ケダモノ。
ワタシタチハ、ケダモノ。
美羽の瞳から、色が失われた。
類はギリギリと歯を噛み締めた。
「お願……ックだから。あんな女の言うこと、信じないで。
僕たちは、運命の相手なんだ。互いが、必要なんだ……
誰にももう、邪魔なんてさせないック。
ねぇ、ねぇミュー!! 戻ってきて、僕の元に戻ってきてよ!!」
荒ぶる感情のまま、美羽の躰を激しく揺さぶる。
美羽の瞳に映る怒りと憎しみを孕んだ類の表情が、母と重なっていった。
やだ。殺される……
オカアサンニ、コロサレル。
「ッハ!! い、いやぁぁああああああああああああああ!!!!!!」
渾身の力を込めて、美羽は類を突き飛ばした。
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