上 下
152 / 498

146.類の宣言

しおりを挟む
 類の腕がスマホに伸び、通話が切れた途端、美羽は声を荒げた。

「類、酷いよ!! 離して!!」

 けれど、類は拘束を解こうとはしなかった。艶めかしい彼の声が、美羽の耳元に囁かれる。

「どうして?」
「どうして、って……分かるでしょ?」

 類は妖艶な笑みを浮かべると、唇を寄せた。

「分かんない」

 類の細い指がTシャツの裾にかかり、捲り上げられた。ブラジャーで支えられた乳房は横たわっていても流れることなく、盛り上がった白い膨らみが美羽の視界に入り込み、ジンと一気に躰が熱くなる。

「やめてっ!」
「なんで?」

 類は縋るような瞳で見つめ、首を傾げた。美羽の気持ちが急速に類に傾きそうになり、彼の魔性に取り込まれないよう、瞳を逸した。

「私と類は姉弟で、私には……夫が。
 義昭さんが、いるの」
「ヨシのこと、愛してないのに? 嫌悪さえ、抱いてるのに?」

 類、やっぱり分かってたんだ。

 ズバリと指摘され、美羽は肩を震わせた。

 類の端整な顔が寄せられ、舌が耳へと這い上がり、甘い吐息と共に囁かれた。

「ミューが愛してるのは、この僕だよ。
 たとえ他の男と結婚しても、僕への気持ちは変わってなかった」

 違う……

 そう言おうとして、美羽は口を噤んだ。
 類に嘘など、通用しない。

 類に頬を撫でられ、ピクリと震える。触れられただけで、瞳が濡れてくる。熱い想いが溢れてきそうになる。

「最初は拒絶してたミューが、最近では僕のことを受け入れてくれるようになって嬉しかった。
 ねぇ、本当はずっと……そうしたかったんでしょ?」
「ち、ちが……」

 目の前いっぱいに類の切ない表情が埋め尽くされる。

「ねぇ、ミューを抱きたい。リアルのミューを、感じたいよ……」

 両手首を痛いぐらいに強く掴まれる。類の長い睫毛が震え、硝子細工のような繊細さを感じさせる美しい顔が寄せられる。薔薇の香りと類本来の持つ甘美な匂いが混じり合い、美羽の理性を掻き乱す。

 類にひとりの女として愛されたい。狂おしいほどの快楽を貪りたいという肉欲が、煙のように立ち上ってくる。

 美羽の瞳が欲情に濡れ、頬がピンクに染まっていく。美羽からもまた、雄の性欲を掻き立てる匂いが生み出され、強く香っていた。

 肉欲の籠ったふたりの視線が絡み合う。

 だが、美羽は類から顔を背けた。

「ックたとえ義昭さんを愛していなくても、私はこの結婚生活を続けなければならないの。
 類は、私の愛する……弟だよ。だから、私のことはもう諦めて、いい人を探し……」
「どうしてさ!!」
 
 類の打ち拉がれた悲し気な表情が、美羽の瞳を貫く。

「それが出来ないから、ずっと苦しんできたのに……
 ックなんで、ミューは分かってくれないの!!」

 鮮烈な類の言葉に、胸が引き裂かれる。

 私、だって……ずっと、類のことを諦められなくて苦しんできた……
 今だって、類のことを求めたい、愛し合いたい。
 
 でも、出来ない。
 出来るわけ、ない……

 顔を逸らしていた美羽の顎がグイと類に強引に向けられ、全身が粟立ち、爪の先から震えが走る。類の濡羽色の美しい前髪がパラリと落ち、長い睫毛が揺れ、凶暴な野生の光を放つ類の黒曜石の瞳が美羽を仕留める。

「美羽を、抱く」

 ズクッと太い矢が、美羽の心臓の奥深くに突き刺さり、稲妻が走ったかのようにビリビリと震えた。
 類が、まるで知らない人のように感じた。

『美羽』って、初めて呼ばれた。
 こんな表情、見たことない……

 私の目の前にいる、この美しい獣はいったい誰なの?

 美羽の中の何かが、音をたてて崩れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

処理中です...