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145.夫からの電話

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「よ、義昭さん……どう、したの?」

 震える声で応えながらスマホに手を伸ばそうとした美羽の手首が、類に掴まれる。もう一方の手首と共に彼の片手で拘束され、頭の上でソファに縫い留められた。

 目でやめてと訴えたが、正面に映る類の瞳の奥は肉食獣の光を放ち、蠱惑的に揺れるだけだった。

 このタイミングで電話が掛かってきたことに、まるで義昭に罪を暴かれたような気になり、指先から冷たくなっていき、心臓が震える。

 もう既に居酒屋から出たらしく、スピーカーからはざわざわとした喋り声のざわめきや人々の足音、車が走る音なんかが遠くに聞こえていた。

 義昭さん、これから帰ってくるんだ……
 こんなところを見られたら、どうなってしまうの。

 美羽の心臓が壊れそうなぐらい爆動し、全身の毛穴から一気に冷たい汗が噴き出してくる。

 騒めきがどんどん大きくなっていき、遠くに電車の轟音が聞こえている。
 
 義昭は周りの声に掻き消されないように、普段より少し大きめの声を上げた。

『一緒に飲んでいた連れが酔い潰れてな。そいつの家が実家の近くだから、今夜はそっちに泊まることにするよ。しばらく顔見せてなかったし』

 予想していたのとは違う答えに、美羽は呆然とした。

「ぇ。そう、なの……?」

 嘘……じゃあ、今夜はずっと類とふたりきりってこと?

 そう考えている間に美羽のパーカーのジッパーに類の指が掛かり、下ろされる。耳に熱い吐息を吹きかけられながら、彼の真っ赤な舌が伸ばされた。

「ッッ……!!」

 類の手を制したくても、強く握られた手首を振り解くことが出来ない。顔を背けて耳への愛撫から逃れようとするが、がっちりとホールドされて逃れられなかった。

『次の朝はそのまま会社に行くから、帰りは明日の夜になる』

 義昭は、1ヶ月に1、2度は実家に顔を出し、泊まってくることも度々ある。だが、類と一緒に住み始めてからはバタバタしていて、仕事が忙しかったこともあり、顔を見せていなかった。だから、近いうちにいつかこんな日が訪れるだろうとは思っていたが……

 それが今日だとは、思いもしなかった。

 開けられたパーカーから覗くTシャツの裾へと類の指が下りていき、その中に滑り込む。類の指先の冷たさと内側から生み出される自身の熱にゾクゾクと震えが走る。耳殻を舐めるチュクチュクという厭らしい水音が鼓膜に響き、官能に酔い、溶かされそうになる。

 流されまいと美羽は拳を握って手首を上下させ、腰を浮かせて躰を持ち上げようとした。

 やめ、やめて……類。

 だが、その動きは逆に類を煽らせることとなり、益々巧みな指と舌で攻められ、堕とされていく。

 こんなことしていたら、義昭さんに気付かれてしまう。

 美羽が危惧していると、スピーカー越しに義昭の声が響いた。

『美羽、類はそこにいるのか?』
「え……」

 それは、どういう意味で言ってるの。
 まさか、類が側にいて、何をしているのか気づいてるってこと……?

 心臓が氷のように固まり、美羽は指先ひとつ動かすことが出来なかった。

 そんな美羽の唇に類が軽く自身の唇を重ねてから、愛らしい笑みを見せた。

「うん、すぐ近くにいるよ」
「!!」

 驚愕し、瞳孔を瞠る美羽の頬を撫でながら、類はいけしゃあしゃあと言葉を繋ぐ。

「ヨシ、今日泊まってくるの?
 せっかくクリスマスイブで、ミューが仕事先から豪華なディナー持ってきてくれたのにぃ。あ、僕もオレンジワインとデザート買ってきたんだよ!
 一緒に食べたかったなぁ」

 罪悪感の欠片すら感じさせない明るい声とは真逆に、類の指がTシャツの布地を揺らしながら上がっていき、ブラジャーをクイと押し下げる。

「クッ……」

 何を考えてるの、類……!!
 抵抗を試みるものの、美羽は類に押さえつけられたまま身動き出来ない。せめて声が漏れないように唇をきつく噛み締めるので精一杯だった。

 お願い……もうこれ以上、何もしないで。

 全身が氷柱のように刺々しくなっているのに、ただ一箇所だけが熱くドクドクと脈を打っている。甘い匂いを放つそこが背徳感とスリルに興奮し、欲情をたっぷり含んだ蜜を垂れ流す。

 ンァ……

 その感触にふるりと震えた美羽に、類が妖艶な笑みを浮かべる。辱めを受けた気持ちになり、美羽は震える唇をますますきつく噛み締めた。

『そうか、すまなかったな……わざわざ用意してくれていたのに。
 明日のクリスマスは、帰りにケーキでも買っていくよ』
「やったぁ、楽しみにしてるね♪」

 類の掌がブラジャーから零れた美羽の乳房を揉みしだく。不意にキュッと先端の蕾を摘まれ、美羽は耐えきれず、「ンッ!」と声を上げてしまった。

『今の、声……』

 義昭の不審な声音に、全身の血液が逆流しそうな恐怖に襲われる。

「ん、何?」

 やや高圧的な声で、類が返答した。その間も美羽への愛撫の手は止まることなく、クニクニと蕾を押し潰すように捻り、弄んでいる。美羽は全身を火照らせながら、唇から血が出るほどにきつく噛み締め、脚をくねらせて快感に耐え忍んだ。

 ダメ……声を出しちゃ。

 背中を駆け上ってくる快感に必死に耐え、美羽は瞼を強く閉じて歯を食いしばった。

 暫くの沈黙の後、ようやく義昭の返答が聞こえてきた。

『いや……なんでもない。おやすみ』

 切り、抜けた……

 美羽の躰が弛緩し、類が力強く支える。

「うん、おやすみー」
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