【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

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121.クリスマスツリー

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 リビングルームの一角にクリスマスツリーを組み立て終えると、類はそれを見上げた。

 それは昔家に置いてあったのと同じ大きさのものだった。

 キリスト教徒の多い北米ではクリスマスは宗教的に意味があるのと同時に、家族や親戚と過ごす大事なイベントでもある。だが、ここ数年はツリーを飾ることも、プレゼントをもらったり、渡すこともなかった。

 幼い頃のクリスマスの思い出は、類にとってそれからの苦痛と対比させる辛いものとなっていた。

 ツリーの下にはオーナメントや電飾やモールが入った箱が置かれていたが、類はそれらに手をつける様子はなかった。キリキリとした痛みに支配されつつツリーを飾ったのは、もちろん美羽にそれを見せたいからだ。

 美羽が来なければ、大きなツリーも美しい装飾も何も意味がない。

 早く帰ってこないかな、ミュー。

 類はツリーのすぐ横でコロンと寝転がると、猫のように躰を丸めた。

 ひとりで待つ時間は、いつだって苦痛だ……
 ミューのぬくもりが、恋しいよ。

 瞳を閉じてじっとしていると、鍵穴を刺す音が耳の遠くに聞こえてきた。それだけで、美羽が帰ってきたのだと感じる。

 扉が開き、閉まるけれど、靴を脱ぐ音が聞こえてこない。

 きっとミューは、シューズボックスの向かいの壁に掛けられた姿見でチェックしてるんだ。服や髪が乱れてないか、化粧が崩れてないか。

 そんな美羽の姿を想像すると、可愛くて抱き締めたくなる。でも、ずっとそこにいて欲しくもない。

 膝をついてゆっくり立ち上がると、すうっと息を吸った。

「ミュー、帰ってきたのー?」

 開けっ放しのリビングのドアを通じて玄関に向かって声をかけると、少し間があってから美羽の返事が聞こえてきた。

「類、ただいま」

 最近義昭は、残業続きで帰りが遅いことが多い。

 類は、なるべくふたりきりの時間が長いようにと、祈らずにはいられなかった。

 リビングルームに入ってすぐ、美羽の足が止まり、歓声を上げた。

「うわぁ! 飾ったんだ」

 類の背よりも高い立派なクリスマスツリーを見上げ、瞳をキラキラさせる。そんな素直な反応をする美羽に、ツリーを飾って良かったと嬉しくなる。

「これからちょうど飾り付けするとこだったんだ、手伝ってよ!」

 美羽に手招きすると、ワクワクした様子を見せながらも、心配するように類を見上げた。

「うん。でも、類ご飯は? お腹すいてるんじゃない?」

 ほんと、可愛い。

「大丈夫。ミューが冷蔵庫に用意しといてくれたメモ見ながら作ったから。ミューのお陰で料理も少しずつ覚えてきたよ」
「ふふっ、良かった」

 類の元へと歩み寄りながら微笑んだ美羽に、悪戯心が湧いた類は首を傾げ、瞳を覗き込んだ。

「でもやっぱり、ひとりで食事するの寂しいから……ミューがいてくれると嬉しいな」

 姉を慕う弟の顔で、寂しげに微笑んでみせた。途端に美羽は、類を置き去りにして仕事をしていることに罪悪感を感じて申し訳なさそうな表情になる。

 自分の言葉ひとつで翻弄される美羽が、愛しくて堪らない。
 と同時に、それでもまだ自分への欲情に歯止めをかける美羽に、苛立ちも覚える。

「ミュー、これ持って」

 類が電飾ライトを手に取り、腕を伸ばして頂上から斜めにグルッと巻くと美羽に手渡した。線が絡まないように渡し合いながらぐるぐると螺旋状に巻いていく。

 巻き終わると電球の先端部分を外側に向け、ライトの光がよく見えるように調節した。コードは目立たないように枝の内側に隠し、コンセントを差し込む。

「ミュー、電気消してくれる?」
「うん」

 美羽はツリーの斜め反対側の壁のスイッチまで歩くと、電気を消した。

 ライトが点り、赤や黄色や橙や青く点滅する電飾にツリーが幻想的に映し出される。美羽はその光に誘《いざな》われるようにツリーの目の前まで歩いて行くと、類の隣に立った。

「電飾だけでも十分綺麗だね……」
「うん」

 赤いライトは嫌いだ。
 あの部屋を、思い出すから……

 ドクンと心臓が震えて、記憶の断片が蘇りそうになり、類はそこから逃れるように美羽に顔を向けた。すると、ツリーの電飾ではなく、類を見つめていた美羽と視線がぶつかる。

 美羽は目を見開いて息を呑んだまま、視線を逸らせずにいた。緊張で躰を強張らせているのを感じる。 
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