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115.隠し事

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 一方的に芳子が捲し立ててから恵美のお迎えの時間が迫ったと言って帰り、美羽がホッと息を吐いていると、入れ替わりに隼斗が入ってきた。

「お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ」

 芳子に気圧けおされて進まなかった食事にようやく手をつけていると、深刻そうな顔つきで隼斗が美羽を見つめた。

「美羽。お前、俺になにか隠し事してないか?」

『隠し事』と言われて、心臓がドクッと音をたてた。肩が大きく震えそうになるのを必死に抑え、笑顔をみせる。

「いきなり、なんの話?」
「浩平が、最近美羽の様子がおかしいと話していたんでな」

 浩平を引き合いに出したものの、もちろん隼斗も美羽がいつもとは違うことを感じ取っていた。

「そ、そんなことないよ……」

 そう言いながらも、鋭い目つきの隼斗と顔を合わすことが出来ず、目が泳いでしまう。ご飯を食べることでなんとか誤魔化していると、隼斗がボソッと呟いた。

「誤魔化すな。暇な時間帯になると、たまにボーッとしたり、赤くなったり、震えたりしてるだろう」

 はっきりと指摘され、美羽は顔を蒼褪めた。



 どうしよう。もしかして隼斗兄さん、類の存在に気づいてる?
 まさか、そんなわけ……



 美羽が動揺していると、隼斗がグイと身を乗り出した。

「お前、風邪ひいてるんだろう?」
「へ?」

 予想もしていなかった言葉に、美羽は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「今まで週2回のランチのみだったのに、いきなり週5日でフルタイムはきつかったな。
 俺がもっと、気遣うべきだった」

 隼斗は申し訳なさそうに項垂れた。

「え、そんなこと……」
「嘘をつかなくてもいい。お前は俺たちに心配かけさせまいと無理して働いて、暇な時間になるとつい気が緩んで症状が出てたんだろう?
 ほら、飯だって全然食べてないじゃないか」

 そうじゃ、なくて……

 そう言いかけたが、美羽を見つめる隼斗の瞳は真剣で、真面目で一本気な彼の性格そのものだった。

 類との淫らな情事を思い出してただなんて、隼斗兄さんに言えるわけない。ご飯が食べられなかったのは、ヨッシーが食べさせる隙を与えてくれなかったからだけど。

 美羽は殊勝な態度で頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。
 でも、まだ初期症状だから大丈夫」
「薬は飲んだのか? もう今日は帰って休め。
 これからクリスマスシーズンに向けて忙しくなるんだ。風邪をこじらせたら困るだろう」

 どうしても隼斗は、美羽に無理させたくないようだ。薬を飲んでいないと言えば、今すぐ薬局に駆け込みそうな雰囲気だった。

「眠くならない薬飲んだし、だいぶ楽になったから大丈夫。心配かけてごめんね」
「そうか? くれぐれも無理はするなよ」

 隼斗はまだ心配そうな表情だったが、今日はいつもディナータイムに入る萌が休みのため、美羽がいないと厳しいことも確かだった。

「うん……ありが、とう」

 美羽は心の中で隼斗に詫びながら、冷たくなったアッシュ・パルマンティエを口に運んだ。
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